5 幼女
あの後、疲れ切った俺はすぐに自分の家に戻ることにした、正直、既に吹っ切れてたとは言え、やはりああいう雰囲気は疲れてしまって仕方がない。
俺は疲れ切った体をベッドに横たえると、もう彼女を取られてしまうような、彼女から裏切られるようなそんな目には二度と会いたくないと心の底から願い、絶対に幸せになりたいと幸せにしてくれと指輪を握り締めながら天国の祖母へと願った。
そして俺はそのまま意識を手放した。
ドン ドン ドン
ドンドンドンドン!!
「…ん? 何?」
あのままベッドで眠ってしまっていた俺は何かを叩く様な音に気づき飛び起きるようにして目を覚まして周囲を確認した。
しかし部屋には異常は見当たらなかった、勘違いだったのかと俺が安堵していると再度異音が部屋中に響き渡った。
ドンドンドンドン!!
俺はこの普段聞くことがない音に言い表すことのできない不安に襲われた、泥棒なのか?今日は本当に一日通して色々とあり過ぎるとうんざりする様な気持ちを抱えた。
だがそうは言っても現実的に異音はなり続けている、だから俺は腹を括りこの異音の発生源をきっちりと調べてみる事にした。
注意深く音の発生源を調べてみるとどうやら左隣から聴こえてきているみたいだった、だがそこで俺は違和感を感じた、ここはアパートだし、部屋数も確かに5室ある、だが住んでいる住民は俺一人だけなのだ。
しかし、頭でそういくら考えようが現実的に音は聞こえて来ている、俺はここで逃げるわけにはいかないと自分を奮い立たせ、確認をしに行く覚悟をもう一度決めた、しかしここでふと何か今までの自分らしくない違和感のようなものに気がついた。
以前の俺ならこんなに簡単に確認に向かおう等と即決できただろうか?
もっとビクビクして、誰か応援を呼んだり下手したら音が鳴り止むまで待ったのでは無いだろうか?
しかし、あの何かを叩く様な音によって、すぐに意識は現実へと呼び戻された。
「今は考えてる場合じゃないな!とにかく確認に行こう!」
玄関を出ると、外はもう大分暗くなっていた、俺は一旦深呼吸をするといつもガスボンベの横に置いてある工具箱からバールを取り出して音の発生源へと向かった。
外に出ると更に異音は酷く少し臆病風に吹かれそうになったがはっきりと聞こえて来ており正直発生源を探すと言う目的にとっては明らかにチャンスだった、俺はそう考えると耳を澄ましその音を聞き分け音の発生源を探す事に意識を集中した。それは思ったよりも簡単に見つけることができた、どうやらこの異音は隣に部屋の102号室聞こえているみたいだった。
「隣から聴こえていたのかよ‥泥棒とか勘弁してくれよなぁー」
一応周囲を慎重に確認してから安全を確かめる様にゆっくりと102号室の鍵を開けてドアノブを回した。
ギィーッっという音と共に俺は恐る恐る部屋の中を確認した。しかし特に異変は見つけることができなかった、とりあえず、風呂からトイレへと時計回りに順番に見て回る事にした。しかしやはり何も見つけることは出来なかった。気を張っていた為か部屋の中央へと戻った俺はふいに安堵の息が漏れた。
と、その時、不意打ちのように例の異音がなった。
ドンドン! ドンドン! ドンドン!
「うぉおっ!!」
俺の口から思わず情けないっ声が漏れる。
運よく一人だったにも関わらず、俺は妙に恥ずかしさを覚え周囲を確認した、すると位置したことではないが俺はとうとうこの異音の発生源を発見する事となった。
「押し入れかよぉ〜、これ泥棒じゃ無くて幽霊とか危険生物の類なんじゃないのかよぉ〜…」
正直一人でここを開け確認するのは嫌だった、だがここまで来て他人を頼ると言う選択肢はなくその方が俺にはもっと嫌なことのように感じた。
だから俺は息を止め一思いに目の前のフスマを掛け声と同時に一気に引く事にした。
「よし、せーの!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
フスマの向こうには何故かふわふわニコニコと微笑む小さな生物がいた。
「・・・・・・・・うん、幼女。」
俺はハイライトの消えてしまった瞳のまま、そっとフスマを閉めることにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺は死んだ魚の様な目のまま、呆然とフスマを見続けていた。
「えっ、うん、待って幼女って何?ていうか、幼女って音を出す危険生物だったっけ?あ、幼女のオバケか?でもオバケってあんな田舎の子供みたいに小麦色に日焼けしてるんだっけ?
銀髪ゆるふわのツインテで小麦色したオバケってなんだよ!ツインテール幼女は金髪だろうが!!!!そう紺野有人は隠れオタである。」
訳の分からないナレーションを口走りながら前代未聞の混乱状態へと俺は突入していた。
ドンドン! ドンドン! ドンドン!
するとしの混乱を遮るようにフスマを叩く音が再び聞こえてきた。
「うるせぇー!!今幼女について考えてんだよ!静かにしろよ!」
泥棒や危険生物ではないという安堵感からか俺は気が緩んでしまっていたのだろう、他人に聞かれたら1発人生レッドカードな返答をしてしまっていた。
それでもフスマを叩く音は止まず、俺は流石に苛立ちを隠しきれずにフスマを開けて広げ、怒鳴り散らした。
「一体何なんだよ、お前は!そもそも、誰なんだよ、どうやってここに入った!?」
幼女はそんな俺の様子を気にもしないで、顔を真っ赤にして地団駄を踏みながら、勢い良く両手を上下させて、何かを叫んでいた。
「#¥@*¥#@@#*€※£」
「%#、#£※〆€ #¥@ £※€!!」
途中鼻息荒くふんすふんすさせながらこちら睨みつけよくわからないが必死に何かを伝えようとしているように思えた。
「えーっと、すまん、なんて??」
悲しい事におっさんである俺にはこの幼女の言葉はジェネレーションギャップが凄すぎてよく伝わっていなかった。
「@#ー?∋?」
訝しげな目でこっちを見てきた。
ただ、今見せて訝しげな目が俺を馬鹿にしている事だけはしっかりと伝わっていた。
そんな不毛なやり取りをかれこれ10分くらいやっただろうか、ここでふと俺はあり得ないことに気づいた。
押入れの中にもかかわらず目の前にはとても広い空間が広がっていたのだ、普通なら布団とちょっとした小物程度しか入らない広さの筈なのに、明らかにおかしい、20畳くらいの倉庫の様な場所が幼女の後ろにはハッキリと見えている。
自分に言いたい、『すぐに気づけと!』
混乱からか焦りからか俺は幼女へと視線を戻し、気づけば質問攻めにしてしまっていた。
「おい、ここはどうなってる?お前は誰だ、というか、ここは倉庫か?何でフスマを叩いてた?どうやってこの部屋に入った?そもそもお前は日本人なのか?さっきからの言葉は幼女の間で流行ってるのか?おい、どうなんだ、俺の言ってる事わかるか?」
更には幼女の肩を掴みガクガクと揺らしながら幼女が目を回してるのも気づかずに・・・
「@*ー!@*!!」
「あ、悪い、大丈夫か?」
俺は慌てて、手を離し謝罪をしたが時既に遅し幼女はキッと俺を睨みつけ地面を踏み締めると足に力を溜め脛を思い切り蹴り飛ばしてきた。
しかし、全く痛みはなく寧ろ微笑ましいモノを見るような優しげな目を幼女へと向けた。
(うん、全く痛くない!)
幼女に気持ちが伝わったのか追加で3発キックが飛んできた。
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