44 身内会議その3
「みんなこれを見て欲しい、リノアには話ていたが俺はこれである商会と取引をしていこうと思う。」
俺の声に反応を示す様に皆が一斉に俺へと視線を向けてきた。
その視線を確認すると俺はすぐに先程届いたばかりのビ二ールに包装された1kg毎に分けられた日本の家庭用砂糖をテーブルの上へと皆が確認をしやすい様に置いた。
リノアが、いの一番にその砂糖を包んでいる袋を手に取り前後左右裏表あらゆる箇所を厳しい目でチェックをし始めた。どうやらオニギリの様な複雑な仕組みを期待しているようなそんな眼差しだった。
だが、実際の袋はハサミ等刃物類すら使わず手で破ることができるほど単純な作りな為、リノアはすぐに興味をなくし、またトランプゲームへと戻っていった。
飽きるの早いよね?
そんなリノアの様子にひっそりと溜息を漏らしているとアンヌから驚いた様な声が掛けられた。その声に反応しアンヌへと視線を向けてみると不思議そうにビニール袋を見ながら、中の砂糖を親指と人差し指で圧力を加え潰そうとする様な行動をしていた
「閣下これが砂糖だと仰るのですか?」
「ん?それが日本の砂糖だけど、バーレリアの砂糖はそれじゃないの?」
「はい、こっちの砂糖はこの様な物ではありません。」
アンヌの話によると、バーレリアの砂糖は、30cmくらい大きさの氷砂糖に似た物でそれをアイスピックやミノみたいな物で砕きながら使うそうだ。コーヒー一杯飲むたびにその作業を強いられるのかと考えると日本人の俺には正直耐えられそうも無かった。
以前、梅酒用に買っておいた氷砂糖があったので、試しに1つアンヌへと渡してみた、するとそれを見て更にアンヌは日本の氷砂糖の品質の良さに驚いていた。どうやらバーレリアの砂糖は俺が思っている以上に低品質なのかもしれない。
「ふーむ、これ品質が良すぎて逆に駄目な感じかな?しかし鑑定では1袋銀貨6枚だったんだけどな。」
しかし、この一袋(1kg)200円くらいの家庭用砂糖がこっちでは約3万円の価値である、どんな手段を用いてでも売り捌きたい…俺が腕を組んで唸っているとミアから両手に掴んだ砂糖を俺に見せる様にしながら声が掛けられた。
「アリヒトこれ開けてもいい?」
「あぁ、別にいいぞ?」
俺が了承するとミアはすぐにビニール袋を指で引っ張りながら破っていった、すると中から溢れでた真っ白い粒を見て、一瞬皆が呆け、場が静寂に包まれた。
俺が何事かと皆を見渡すと、ミアが静寂を切り裂く様な驚きの声をあげた。
「こ、こんな高品質な砂糖はちょっと見たことないわよぉ〜?」
「あーやっぱりそうなの?というかさーさっきからリノアが飲んでるそれ、今ニ本目か?」
リノアがカフェオレに挿したストローから中身を必死に吸い上げながらコクコクと頷く。
「それにも砂糖入ってるぞ?」
俺の言葉を聞き、すぐにミアが反応を示し、食い気味にリノアが手に持ったソレを指差しながら口を開く。
「そういえば、リノアがさっきから美味しそうに飲んでるそれ、気になってたのよぉ〜。」
「あーそれカフェオレって言うんだけど、こっちないの?」
「似た様なコーヒーにミルクを入れたものは御座いますが、味が全く違います。」
アンヌが物欲しそうな視線をカフェオレに向けながら答えた。
「へぇ〜そうなんだ?」
俺は無難に返しながら違う事を考えていた。
いや、いいんだよ?いんだけどさ?アンヌいつ飲んだのよ?今日飲んでる感じはしなかったんだけど…。
そんな事を考えていたせいでついついアンヌを凝視してしまい、アンヌに俺の気持ちが伝わった様で頬をポッと赤らめてから視線を逸らされた。
そんなアンヌの様子を余所にミアがリノアへとひと口貰おうとお願いをしていた。リノアは一瞬勿体なさそうな表情を見せるも快く承諾しミアの口元へとストローを向け近付けていた。
「リノア〜一口ちょーだい?」
「はい、ママいいよ、すっごく美味しいよ!」
チューッ……ゴクッゴクッゴクッ…
「ぷはぁ〜…な、何コレ!!めちゃくちゃおいしい!!!」
俺はちょっと一口にしては飲み過ぎなんじゃないかと心配になりミアを見た後にすぐリノアへと視線を向けると案の定リノアは少しだけ泣きそうに目尻に涙を溜めていた。そんなリノアを不憫に思いながらミアへと視線を戻すとどうやらカフェオレが気に入ったみたいで泣きそうなリノアを余所にいきなりテンションが跳ね上がっていた。
「ア、アリヒト私コレ、コレ欲しい!!」
俺の目の前にカフェオレを近づけながらニコニコと言ってきたが俺には笑顔というより何か恐喝に近いものにしか感じられず、これは断ってはいけないと即座に判断を下した。
「冷蔵庫にまだあると思うんだけど、リノアどうだった?あるなら持ってきて、アンヌの分もな。」
「わ、私も宜しいのですか?メイドの身分で恐れ多いです…。」
アンヌは口ではしおらしい事を言ってはいるが顔は既に飲む気満々で瞳を爛々と輝かせていた。
「あー別にいいよカフェオレくらい。」
「あ、ありがとう御座います、私が取って参ります。」
俺がそう言うや否や速攻でアンヌは駆け出しており〝アンヌ急いでね!!〟という声が後に響いていた。
(あ、うん、なんだ…ホント別にいいんだけどね…?)
ふとアルが何だか心なし悲しそうにしていたので放っておこうかとも考えたが、さすがに可愛そうに思い「お前は後でビールのほうがいいだろ?」と言っておいた。
黙って頭を下げていたが下げた顔がニヤケている事を俺は見逃さなかった。
うん、やっぱりお前はア◯中のアルだ。
俺は休憩も兼ねてカフェオレ騒動が落ち着くのを待つことにした。
待ってる間、時間が気になり腕時計を見てみると朝早く出かけたにも関わらず結構な時間が経っておりもう16時を回っていた。
俺はお菓子じゃ無く何かちゃんとした物を食べようかと思案しているとアンヌが簡単で良ければ作ると言ってくれたのでお願いする事にした、その時電子レンジなどの家電の使い方をまだ信用していないのかリノアが監視するようについて行っていた。
一緒にミアも習いたそうにしていたが、アンヌに何かを耳打ちされてミアは諦めていた、その時、ふとミアと視線が交じりあったのだが何故か頬を赤らめてニコニコとしていた。
うん、可愛い。
しかし、メイドさんのいる生活は素晴らしいの一言である、はっきり言って今日から飯作ったり洗濯しなくていいと考えただけで、叫びながら走り出しそうになる、家事辛かったんだ。
俺は何もしなくて良いという夢のような現実に感謝を捧げながら待ってると期待以上に美味しそうな物が出てきた。
サラダ、スープ、ジャガイモとベーコンを焼いたもの、猪のステーキ、材料が猪以外日本のものだったので異世界料理では無かったが、俺はもちろんのこと皆も満足に食べられたみたいで良かった。
ちなみにアルとアンヌは最初一緒に食べることを断っていたが、屋敷ができた後は無理でもこっちの部屋限定で、ここで食べるときは一緒にと俺が譲らなかった。
決め手はリノアの「え?ニ人共一緒に食べないの?」という悲しそうな顔だった。
さすがにあの顔には逆らえなかった二人はこっちの部屋限定でという事で渋々折れてくれた。
食事も終わり俺は砂糖の話に戻る事にした。
ミアとアンヌに視線を向けると少しだけ真剣な口調で言った。
「さて、さっきの砂糖だが、ミアとアンヌニ人で俺の代わりに担当して見ない?」
「あの担当というのは仕入れから、商会との交渉まで任せていただけると言う事でしょうか?」
アンヌが真剣に少し不安気に質問をしてきた。
「まぁ、そうなるかな、正直俺一人では手が足りないしね…明日から日本側で仕事も始まるしな。」
「えぇーパパまたお仕事いくのー?」
俺が少し不満気に面倒臭そうに返事をすると、それを聞いていたリノアも唇を尖らせつまらなそうに言った。
「だって行かないとご飯食べれないし?カフェオレ買えないし?あの焼肉屋も、もう行けないし?電車にも乗れなくなるし?ユニク◯にも服買いに行けないぞー?今あるのだけじゃ絶対に足りなくなるぞ?」
「うーん、電車は別にいいけど…」
リノアは電車での事を思い出したのか顔色を青白くさせた。
「ど、どらごん!」
「もーもー本当に本当に!!パパはパパは!」
俺がリノアの真似をすると後ろからおぶさってきて思い切り体重をかけるとそのまま両腕で首を絞めてきた。
「あははははは、すまんすまん。」
「大体あの焼肉屋でだってパパはパパは!!わたしアイスで別に許してないから!」
俺から降りるとフンっと鼻を鳴らしてミアの方へかけて行った。
「何だか色々なところに連れて行ってもらったのね?それに他にもまだこんな上等な服を買ってもらったみたいね、リノア本当によかったわね〜。こんなにリノアを愛してくれて大事にしてくれてアリヒトありがとう!」
そう言ってミアが頭を下げようとしたのを俺は強引に止めた。
ミアは今の会話の流れからなんとなく色々なところに連れて行ってもらって、服や食事も与えてくれたと考えたのだろう。
しかし俺は娘にしただけなのだ、別に感謝とかはどうでも良い。
それに湿っぽい話が嫌いな俺はその流れを強引に止める事にした。
「あーそう言うのはいいや、娘にするのは当たり前だし?出来るからやった以上。湿っぽいのは無しな!」
「そうだよ?大体パパはわたしがいないとなーんにも出来ないんだよ?」
無い胸を張ってリノアが言い放った。
「そうなの?でもリノアはパパが大好きよね〜?」
「そ、そ、そ、そ………りゃ、すkだk…ど…」
ミアがニコニコとしながら揶揄う様に問うとリノアは顔全体を真っ赤にして口籠った。
「ふーん♪じゃ、ママのさっきのは間違ってたわねぇ〜♪パパありがとう!」
ミアはそんなリノアの様子を確認すると更に揶揄う様にでもそれはとても嬉しそうにいつもとは違う心からの笑顔で言った。
「お、おう…」
俺はそんなミアをとても綺麗だとそんな風に思ってしまい恥ずかしさに耐え切れずにそっぽを向き顔を背けた。
そんな俺の姿を見てリノアとミアが笑い合っている声が部屋中に響いていた。
そんな声を聞きながらアンヌとアルを放置している事に気が付き慌てて確認する様に二人の姿を探すと二人はとても嬉しそうに静かに笑っていた。
そんな状況に俺は益々恥ずかしさを覚え、それを隠す様に「話の続きをはじめるぞ!」とだけ言った。
「それで、ミア、アンヌこの砂糖だが俺の代わりに担当出来そうか?一応説明してからもう一度聞くが何かわからない事があればその都度聞いてくれて構わないから。」
それからすぐに俺は砂糖の発注の仕方から、卸先の商会の事まできっちりと説明をする事にした。
発注の仕方と言っても、某ネット通販でクリックして、個数入れるだけなのだが…。
1セット10kの物を購入する予定だから、その事だけは間違えない様に伝えておいた。
先々ではどこかの工場なんかと契約できれば有難い。
1セット大体2400円、10セット買うと24,000円正直結構な出費だが、この年まで独身だったので一応貯金はそれなりに持ってはいる。
それでも月に20セットと考えると約50,000円掛かる計算になる。さすがに毎月砂糖だけで50,000円の出費は痛い、だが俺は家賃も必要ないので無理ではないのだが、金貨よりも円の方が正直役に立ちそうではある。そう言う理由で今は10セットにしておこうかと考えている。
そして商会の方は相手がマーロン商会だと伝えると何か面白い少しだけ悪い顔をしながら、ミアがそこなら大丈夫だと言ってきた。
ちなみに知り合いらしく顔繋ぎも必要ないとのことで助かった。悪い顔がすごく気になるが…。
とりあえず砂糖の担当を二人とも快く引き受けてくれる事になったので安堵しているとリノアがもじもじしていた?
「なんだ、リノア、トイレか?」
「はぁ?違うし、デリカシー無さすぎ!!」
幼女でも、もう立派なレディーなんだなと微笑ましく見つめているとかなり俺の態度に苛立った様でリノアはキッと睨みつけてきた。
「そうじゃ無くて、わたしにも何か出来る事が無いかって思っただけよ!」
(あーリノアはリノア也に何か手伝ってくれようとしてたのか…うーん、しかし…あっ!)
「ある!リノアにしか頼めない事があった!」
俺がそう告げるとリノアはパーッと表情を輝かせて嬉しそうに聞いてきた。
「ホント?ホントにあるの?」
「ああ、ある!リノアにはさ、みんなに日本語を教えてくんない?」
「日本語?」
「そうそう、もう別に教えられるだろ?」
俺の言葉を聞くとあれだけ嬉しそうな顔をしていたリノアの笑顔が曇り何故か渋る様な顔をした。
「リノア?」
「あのね、パパ教えるのは多分だけど無理だと思うの。」
「え、でもお前喋れる様になっただろ?」
「うーん、そうだけどなんて言えばいいのかな、パパは最初からバーレリア語は必要じゃなかったから文字しかやってないから分かんないだろうけど、日本語も私たちには最初から同じ様に聞こえるの、ただ喋れないだけでね。」
そこまで言われて俺は初めて理解した。
(そうだよ、俺が覚えなかったのも別に魔力を器に満たしておけば会話出来てたからじゃん。リノア達も喋れないだけでね、聴き取りに不自由はないんだ、ん、じゃリノアはどうやって覚えたんだ?)
「なーリノアお前どうやって日本語を覚えたんだよ?」
「えーっとね、ちょっと待ってて。」
リノアは一目散に寝室の方へと向かっていった。その足音はぱたぱたと可愛らしい物だった。
少しだけ待っているとリノアが何か手に持ったまま戻ってきた。
それは俺が以前買ってあげたCDだった。リノアが言うにはこれはそのままの音で聴こえるらしい。
(うーん又意味が分からなくなってきた。)
「リノア、何でそれだけが純粋な日本語できこえんだよ?」
「んとね、これだけじゃ無いよ?」
「そなの?」
「ネット?それの声もそうだしテレビもだよ?あ、あとジュース買うやつもそうだよ。」
(んーCD、ネット、TV、自販機の音声こういう物から聞こえる音は純粋な日本語で聞こえるって事なのか?俺が話してるのと何が違う?わからん、さっぱりわからん。)
俺が難色を示し、考え込んでいると他のメンバーも近づいてきたので今リノアと話してる事を皆にも一緒に聞いてもらう事にした。
すると悩んでたのが馬鹿らしくなるくらいあっさりとミアが答えを言った。
「あ〜多分それは心じゃないの〜?」
「心?」
「うん、そう、さっき言葉を理解するのに魔力が必要だっていったでしょ?」
俺は頷いた。
「魔法を使う上で一番大事なのが人の心だと言われているのよ。」
「じゃ、最初は俺の話す言葉に心があったから、リノアも魔力を持っているために聞こえた。逆に俺はリノアが心を込めて話してるのに、俺に魔力が無かったから聞こえなかったと?」
「多分そうだと思う!」
ミアが頷いた。
「要はCDは生身の人間じゃないから心が存在せず純粋な日本語に聞こえるってことだな。」
「そうそう!」
俺がすぐに理解をした事が余程嬉しかったのか、ミアが満面の笑みで頷き手を握りしめてきた、俺は不覚にもそんなミアに見惚れてしまった。
「・・・・・・・」
「パパ?」
気がつくとリノアが不思議そうに俺を覗き込んでいた。
「あらあら、うふふっ♪」
「だ、大丈夫だぞ、リノア。」
ミアも心なし、頬を赤く染め上げ俺は俺で、何だか恥ずかしくなり取り敢えず誤魔化した。
(油断した、ミアは美女だった…)
「と、とりあえず、謎も解決したし良しとしますか!」
リノアは首を傾げ、ミアはやっぱりニコニコ笑い、アンヌとアルは嬉しそう。
(もう、このパターンやだ……)
俺は内心そう思いながらも日本語をみんなにも覚えて欲しい旨を伝えた。
3人ともしっかりと頷いてくれた。
CDが何枚か必要か聞くとネットで調べたりするから要らないと言われた。
もう、調べたり出来るのかと驚いて聞いてみると、練習を兼ねてやってみたいそうだ。
バーレリア人はみな勤勉である。あれ?日本人は……?




