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フスマin異世界  作者: くりぼう
第二章
43/79

43 身内会議その2


プロポーズ騒動も落ち着きを取り戻しかけた頃、アルが何やら少し考え込んで難しい表情のまま話しかけて来た。


「あの、閣下よろしいでしょうか?」


「んーどうかした?」


「いえ、単純に気になったのですが、今日話すべきか迷いはしましたが、どうしても気になってしまいまして。」

プロポーズの事もあり、申し訳無さそうにアルが言う。


「全然構わないよ?どうしたの?」

不思議そうにアルを見ながら俺が答える。


「それではお言葉に甘えさせて頂きます、あの閣下は最初バーレリア語をお話しになれなかったのですよね??」


「うん、そだね、この部屋がまだリビングと化す前、リノアが座ってた木箱から落ちそうになってさ、慌てて入ったんだよ、その時入った瞬間に気絶しちゃってね、で、起きたら何故か話せる様になってた、ちなみにリノアは滅茶苦茶泣いてた。」

リノアへと視線を向けニヤニヤ顔で見つめる。


「な、泣いてないし!!汗だし、あれ汗だし!」

唇を尖らせてプクーッっと頬を膨らませた。


「はいはい!」


「パ、パパってさ!ほんっとおぉぉぉぉにそういうとこあるよね!」

リノアが顔色を真っ赤に染め上げ、眼を吊り上ると明かに不機嫌な表情をしながら睨みつけて来た。


しかし俺は完全に調子に乗っており態とゆっくりとした口調であやすように続けた。

「はい!はい!」


「ぐぬぬぬぬぬっ!ほんと!!大人なんだからそう言うのやめた方がいいと思う!!」

瞳に涙を一杯に溜めながら、見るからにリノアの羞恥心は限界だった。


「はいh…………いでってててててっ!」

俺はそれに全く気付かず更に追い討ちをかけるようにもう一度小さな子をあやすように言いかけて…二の腕を思いっきり噛み付かれた。


「ほんと!子供なんだから!」

俺が涙目になった事で満足したのか勝ち誇った様にリノアが言い放つ。


「あらあら、2人とも本当に仲良しさんね〜♪」

そんな俺とリノアのいつもの様子をミアが嬉しそうにニコニコしながら見つめていた。


「あ、あの閣下よろしいでしょうか?」

放っておかれたアルが一瞬寂しそうに困った様な表情を向けて来た。


「あぁ、忘れてた、すまん。えーっとなんだっけ?」


俺が二の腕を摩りながら考え込んでいると、そっと横に来たアンヌがミカンの皮を剥き俺へと手渡しながら教えてくれた。


「閣下、こっちに来られたときに急に話が出来る様になった件です。」


「あーそうだった、ミカンもありがと。」


一房口へと入れ甘いミカンに頬を緩ませながらアルへと視線を戻す。


「でもそれがどうかしたの?」


「はい、閣下に以前お伺いしていたお話から色々と推測の様なものを立てていたのですが、その日本には魔力がないと言うのはあっておられるのですよね?」


「うん、そうだと思うよ?実際こっちに来てからの方が体調も全然いいしね?ただ魔力が完全に0だとは言い切れないかなー?」


「なるほど、そうですか。今回は魔力が全くないという方向で話を続けさせて頂いても?」


「あぁ、構わないよ?」


横を向くとリノアが何故か口を開けて待っていたので俺は無言でそこへと一房放り込む。


「おぃひぃ♪」


(わかるわかる、この良さが分かるお前はきっと立派な大人になれるぞ。)


「結論から申しますと、トビラを、失礼しました、フスマですね、フスマを挟んでいる時は会話がリノア様しか通じず、フスマを超えたら通じ始めたという事はバーレリアの言語の聞き取りには魔力が必要不可欠という事では無いのか思いまして。実際バーレリアには魔力が当たり前に有りますのでそれこそ、誰も気づいていない、いえ、閣下の様に異世界に行かない限り調べる必要もなかった事なのでは無いかと愚考致します。」


アルの視線は羨ましそうにミカンへと向かっていた。


(お前が食べたいんじゃなくてリノアにあげたい事に俺は気づいてるからな!)


「アルキオス、貴方リノアお嬢様にミカンをあげたいのですか?私閣下の分しか剥きませんので自分で剥いてくださいね。」

アンヌが全く少しの気遣いも見せずに真顔で言い切る。


(この子口に出しちゃったよ!言っちゃったよ!)


「べ、別にその様な事は……」

アルが耳をパタパタ動かしあからさまにソワソワとし始めた。


「そうですか?羨ましそうにミカンを見てたので勘違いでしたらごめんなさい。」

更にアンヌが無意識的に追い討ちをかける。


「も、問題ないし!」

アルは耳に続き尻尾まで動き出し更に黒目が高速でうろうろとし始めた。


「あらあら、うふふっ♪アルキオス…今はアルって言われてるんだったわね、アルは呼ばれ方が変わっても嘘をつくときの癖は変わってないのね〜♪」

ミアが耳と尻尾を笑いながら指差し完全に精神的トドメを刺した。


リノアは興味無さそうにしながらカフェオレを飲んでいる。


(もうやめたげて、アルのHP残り少ないから!その子恥ずかしくて死んじゃうから!)


俺は見ていられなくなりそっと考えているフリをしながら瞼を閉じた。


そのままアル強く生きるんだぞ…そう祈っていると何故か急に閃いた。


(もーまんたい)


「リノア!」


「ふぇ?…げほげほっ!」


俺が急に大声で呼んでしまった為、それに驚いたリノアから変な声が漏れた。カフェオレが鼻へと侵入してしまったらしい。


他の三人も一体何事かと俺へと視線を集中させる。


「アル、さっきの話、魔力であってるかもよ?以前リノアが日本語でもーまんたい、正確には中国語だがそれを言ったことがあるんだ。その時アルは全くきづいてなかったけどな。」


「閣下、よく意味が分からないのですが?」


「うん、アリヒト全然意味が分からない?問題ないって言ったらなんなの?」


「閣下、申し訳ありません同じく私もです。」


三人とも訝し気な目をしながら頻りに首を傾げている。


「アンヌもう一度言うから俺と同じ様に言ってくれないか?」


「あ、はい、わかりました閣下!」

アンヌが神妙に頷いた。


「わたしはもーまんたい」

俺が言った。


「わたしは問題ありません。」

アンヌが言った。


三人ともやはり先程と同じ表情で俺を見つめ続けていた。しかし、リノアだけは何となく意味が分かったのか周囲を確認するとパタパタと電話台の方へと駆けて行った。


戻ってきたリノアの手にはボールペンとメモ帳が握られており、意図を理解した俺は頷いてから、リノアへお願いした。


「リノア、お前天才だな!わかり易くていい。」


リノアはVサインをした後すぐメモ帳に〝パパはもーまんたいと言っています。問題無いとは言っていません〟と書いてそれを皆へ見せていた。


「「「!!!!」」」


すると一斉に驚いた顔をした。


俺はニヤリと笑うと、リノアの頭を撫でながら言葉を続ける。リノアは気持ちが良さそうに目を細める、ネコである。

「魔力とは断言出来ないけど少なくとも魔力と過程すればアルの言ってる聞き取りに関しては証明できたろ?多分、どんな言葉でも知識としてその国の言語を理解していないと全てバーレリア語の意味で聴こえるんだ。ただ、俺とリノアは日本語とかを勉強してたからその言葉の意味を理解して、そのまま聞こえたのかね。」


「だから最初リノアだけ俺の言葉理解できたんじゃね?魔力持ってたから。日本はやはり魔力が無いか器に吸収できる程魔力が満ちてないのかもね。実際生活してて日本で魔力なんか感じないしね。」


するとみんな一斉に驚いた顔をした。


「でも、話を聞いただけで、アルよく気づいたよね?」


「いえ、偶然で御座います。」


「いやいや、謙遜するなって!疑問が一つ解消した。俺だけだったら気付けなかったよ。」

ポンポンとアルの肩を叩いた。


「はっ!ありがとう御座います。」

アルは左手を胸に当てて軽くお辞儀をした。


〝ウンウン〟俺は頷いた。ただ、何故魔力を通すと日本語やバーレリアの言葉の意味を理解出来るようになるのかと言う謎は残ったままだけど…アルが嬉しそうなのでそれは黙っておいた。


それから今度はミアの身に一体何があって四番目が言った様な事になったのかを聞いた。


ミアの話によれば夕食時に何か食べ物を買いに一人で屋台通りに出たらしい。そこへオヘイリアの子飼いの私兵五名に囲まれたのだそうだ。しかもその私兵たちはリノアを盾に脅しをかけてきたそうだ。『もし逃げたり抵抗するならお前の娘の居場所はわかっている、そこを襲うぞ!』と、それで仕方なく男爵邸へと大人しくついて行ったが男爵邸は何やら騒がしかったらしく。とりあえず屋敷のサロンでお茶を飲んで一晩過ごしただけらしい。


「でも何で騒がしかったのかな?」

俺が唸っているとアンヌとアルが顔を見合わせ頷き合っていた。


「恐らくですが、私兵が出払い色々な作業に支障が出たのではないかと思われます。」

アルが嫌らしい笑みを洩らす。


「閣下。あの日こちらへ私兵団長も来ていたのも原因の一つです。」


「あの気持ち悪い長髪君?」


「はい、彼はあんなに気持ち悪い見た目でも一応団長なのでそれなりに私兵共を仕切っておりましたので…。」

あの時の視線を思い出したのか、顔を歪ませ心底嫌そうな表情をアンヌが見せる。


「ふーん。でも私兵が居なくなって困るのって護衛だけじゃないの?」


「いえ、護衛も勿論ですが、男爵邸では執事や料理人、書類仕事も兼任させられていた者達も中にはいましたので。」


「えっ…それなんかヤダな〜こう言っちゃ悪いんだけどどう見て見あいつら馬鹿そうだったよね?」


「閣下、彼らは意外と優秀なのですよ?料理もそうですが、書類などもかなりの早さで終わらせておりました。」

アルが苦笑いを浮かべる。


「じゃぁ、文官で雇って貰えば良かったのにね。しかし、私兵と執事兼用させるとか、どうせあの男爵お金ケチったんでしょ?」


「はい、勿体無いから使い潰せと仰せでしたね。」

アルは何とも言えない表情をし、アンヌは眼を細める。


「一番のバカは男爵だったと、それで自分で書類する羽目になって…まぁお陰でミアが無事だったんだからいいけどさ。」


その言葉に続く様に「全くバカで助かりましたね」と皆口々にそう言って笑っていた。





やはりすぐにリノアの元へ来ることができなかったのは王都へ来てすぐに男爵に会ってしまい、リノアの居場所を知られない様に接触を避けていたとの事だった。


「ママ本当にひどい事されてない?」

リノアは瞳に涙を溜め、心配そうにミアへと近づくと怪我確認するかのように腕や背中等を摩り始めた。


「あらあら、リノア〜ママはぜーんぜん大丈夫だったわよぉ〜?」

ミアはそんなリノアへとニコニコとしながらほっぺたを何故か摘んでいた。


「ママ、いたいほぉ〜?」


「久しぶりの可愛い頬っぺたなんだもん♪」

全く止めるつもりがないのか、更にプニプニの速度を上げた。


「もーやめへぇ〜!」


「ねぇーアリヒトはわかるわよね?」

プニプニしながら同意を求めてきた。


「わかる、わからないで言えばわかる!!」


「パパも、ママもふざけないで!!」

キリッとした顔同意するとリノアは怒りながらも何だか楽しそうに抗議声上げる。


リノア揶揄うのも楽しくていいのだが、これからの事を考えるとまだ決めておかない事もある為、話し合いの方へ無理矢理意識を向ける事にした。


「さて、今後の話もしなくちゃな。」


俺がそういうと四人とも一斉に俺を見た。


〝ピンポーン〟『紺野さん宅急便です』

話し出そうとした瞬間、101の部屋の方へ宅急便がやってきた。


「あ、砂糖だわ、すまんちょっと行ってくる。」


俺は心待ちにしていた砂糖の到着にウキウキしながら席を立ち砂糖を受け取りに101号室(寝室)の玄関へと向かった。


やはり郵便物は思った通り砂糖だった。


(あ、ついでにこれについても担当者決めるか。)


そう思いながらすぐに俺はフスマの部屋(リビング)へと戻り、さっきまで座っていたソファーへと腰掛けた。


「あぁ、すまんすまん、やっぱり砂糖だったわ。」


「いえ、閣下、砂糖をお取り寄せになっていたのですか?」

アンヌが聞いてきた。


「あーまぁそうなんだが、この話はちょっと後な。」

そう言って俺は全員を見渡した。


「はい、畏まりました。」


「ふむ、ではまず俺が思ってることを話すな。」


「あのさ、正直これからまだ家臣というか仲間、違うな身内…家族かな、増えると思う?」



「「「「絶対増える!」と思うよ〜♪」ますな」と思います。」


驚いた事に増えると言う意見で全員が一致していた。その確認をすると俺は大きく頷き更に言葉を続ける。


「でも、そうなるとこの部屋だけじゃ無理だと思うんだよね。」


「それじゃ何処かに引っ越しするのー?」

リノアがソファーの上に立ち上がり興味深々で聞いてくる。


「いや、俺は引っ越しは今のところは考えてないよ?引っ越しをしちゃうとさ、フスマ使えないしな。」


「それでは、増築すると言うことでしょうか?」

アンヌが少し考えてから質問して来た。


「うん、基本線はそれだな。ただ、いくつか問題もあるんだけどな。」


「基本線はですか…ふむ。」


「アル〜どういう事?」


アルは分かったのか何やら頷いているが、ミアはまだよく分かっていないようで首を傾げている、そんなアルの思わせ振りの態度が気に入らなかったのかアンヌから〝チッ〟と舌打ちが聞こえて来た、驚いて俺がアンヌを見つめると何故か頬を桜色に染め両手で押さえながら恥ずかしそうにしていた…残念、可愛いけどそれじゃ舌打ちのインパクトには勝てませんでしたね。


「閣下は増築はするが、今後人数が増えた場合、ここに居る者たち以外にフスマの事を教えたくないとお考えなのではないでしょうか?」

舌打ちが聞こえたはずのアルは視線を俺へと向けて何事もなかったような表情で説明し始めた、鋼の心臓である。


「一つ目の問題はそれかな、俺は信じられるもの以外には俺の秘密を明かすつもりはない!」


全員の表情を確認するように見回してからハッキリと言い切った。


アル、アンヌは自分たちは信用に値すると言われている様な物なのでとても誇らしげな嬉しそうな顔をしている。


「あの、僭越ながらこの様な作りにするのは如何でしょうか?」


アンヌが先程のメモ帳に増築方法を書いて遠慮がちに提案をしてきた。

俺はそれを受け取るとすぐに目を通した、アンヌの提案はここの部屋を中心に増築し、この部屋の入り口は俺の部屋に作ると言うものだった特に問題は無いと思うのだが一つだけ気になることがあった。


「うーん、毎回俺の部屋経由になるけど、皆はいいの?特にアルやアンヌは不便じゃ無い?」


「そうですね〜毎回、閣下の部屋を出入りするのは外聞は余りよろしく無いかもしれませんな〜。」

アルは腕を組み考えながら言った。


「外聞の事は有るかと思われますが、日本でのご用事が多いのは閣下であるのは間違い有りませんし、機密性から申しましてもこれが一番宜しいのでは無いかと愚考致します。」

アンヌが更に意見のを述べる。


「そうねぇ〜?確かにアリヒトの部屋に入り口がないと不便よねぇ〜?」

ミアは賛成の様だ。


「いや、日本の外に出なくてもアルや特にアンヌは食事の準備なんかはこっち使うでしょ?毎回俺の部屋経由で大丈夫?」


俺の言葉を聞いて、アンヌが〝…あっ〟と声を洩らす、それを見てアルが肩を竦ませ、アンヌは苛つきを隠そうともせずそんなアルに殺意を飛ばしていた。アルの額の汗が凄い事になっていたが触れないで置いてあげた。


そんなやり取りをしていると、リノアがメモ帳に落書き…もとい意見を書き込んでいた。書き込みが終わると〝はい〟と置いてからチョコレートを一つ口に放り込んでから話始めた。


「じゃあさ〜アルとアンヌの部屋にも入り口つくっちゃったらー?」


俺たちは全員、メモ帳に釘付けになった、誰一人その事に気づいていなかったのだ。


「「「「!!!!」」」」


「リノア、お前は天才だぁぁぁ〜!!」

俺はリノアの髪をワシワシしながら言った。


「流石です、リノアお嬢様。」

アルも嬉しそうに目を細めながら言った。


「感服致しました、お嬢様。」

アンヌも嬉しそうに微笑みながら言った。


「やっぱりウチの子天才だわぁ〜リノア偉いわね〜♪」

ミアはニコニコしながらリノア抱きしめる。


「パ、パパはそれやめて!みんなは褒めすぎ!」

口ではそう言うが実際リノアも〝にへらっ〟としながら満更でもなさそうだ。


「よし、ウチの大天才が増築案を出してくれたから、その点は解決したな!」

ニヤニヤ顔でリノアを見る。


「もぉ〜!」

リノアは鼻を掻きながら照れ臭そうに睨んできた。


「アル、まずここに屋敷を建てる事は可能か?」


「そうですね〜それは金銭的な事でしょうか?」


「いや、勿論金銭的な事もそうだがこの辺り周辺の土地の権利等はどうなってる?」

話し終えると俺は胸ポケットからタバコを取り出し指先に炎を灯すと火を付けた。


「そうですね、まず金銭的な話からさせて頂きます、まず規模にもよりますが、どの程度をお考えですか?」


「んーそうだな、オヘイリア男爵邸くらいは欲しいかな…ただ2階は必要無い、アパートの方も有るしな。」


「そうなりますと、まず玄関ホール、大広間、晩餐室、応接室、客間それに皆様のお部屋は必ず作るとしましても遊戯室や書斎、ギャラリー等は如何されますか?」


「書斎は必要無いのでは無いでしょうか?お客様のお相手は応接室で行えば宜しいかと思います」

アンヌがテーブルの上に灰皿を置きながら意見を述べる。


「うーん、それもそうだな、あ!あと使用人が使う風呂な?これ絶対必要だから。」


「お風呂ですか?大変ありがたいお申し出なのですが、私共には過ぎたものかと…」


アルとアンヌに視線を向けるとアルが少し困ったように遠慮がちに言うが対してアンヌはお風呂に入れそうで余程嬉しいのか、周囲に花弁が舞い散っているのでは無いかと思う程喜んでいた、俺は一瞬本当に舞い散っているのでは無いかと疑い瞼を擦ってしまった。


「いや、清潔面だけでは無いんだ、衛生面でも風呂は必須かな、病気になる可能性が大幅に下がるし。」


受け取った灰皿に吸い殻を捨てながら俺が言うと皆が一斉に驚いた顔をしてこちらを見てきた。


どうやらバーレリアでは王族や貴族、一部の本当に成功した、商人しかお風呂に入る文化が無いらしい。更に病気の話などは初めて聞いたようだった。


「アリヒトは本当に物知りねぇ〜?」

ミアが感心した様に俺を見つめてきた。


「いや、日本人なら結構みんな知ってる事だぞ?」


「へぇ〜そうなの?きっと豊かなお国柄なのね〜?」


それは皮肉ではなく心からの投げ掛けだった、しかし俺はそれに対して苦笑いでしか答えることができなかった。


「んーそうな…戦争なんかは無いけど、精神的に疲れる国かな。」


「ふ〜ん、今度是非案内してね?」


「あぁ、近いうちに必ずな。」


ミアは待ち遠しいような楽しみで仕方がないと言うような遠足前の子供のような笑顔を向けて来て居た、俺はそれを見て何だか嬉しくなり大きく頷いて居た。


それから俺は話を変える様にアルに向き直ると他に必要なものがないか確認を進めた。「後で書き出した物を用意します」と言っていたが俺は文字が五歳児レベルでしか読めないからね?


それとアルが言うにはこの辺りは魔物が凶暴な森として有名で未開拓地であり、誰の所有地でも無いそうだ。だから、家だけ用意すれば足が付かないこの場所をミアやリノアへと用意したと話していた。魔物がいるのに思い切った決断をしたものだと問い掛けると、それくらいしないと貴族からは逃げられないと悔しそうにしていた。


(しかし、ここが誰の領地でもないのは大きいぞ!)


ふと視線をリノアへと向けると、いつの間にかタブレットを持って来てトランプゲームをしながら暇を潰していた。


(えぇぇっ!リノアさんや、いつの間にかゲームできる様になってますやん…)


俺の視線に気づいたミアがリノアに話しかけて、アプリの説明を受け始めた。


(うん、みんなもう話し合いに飽きたのね…)


「閣下如何されました?」

アンヌが心配そうに覗き込んできた。


「いやね、娘の成長がさ…余りにも早すぎちゃってさ…」

俺は小声で呟く様に言った。


「はぁ〜?」

よく分からないという風に首を傾げ疑問顔である。



ちなみに建築費用はおよそ金貨が700枚ほど必要になるだろうとアルが言っていた、男爵からもらった分と色々売れば十分賄えるし砂糖もある、どうにか出来そうで俺は密かに安堵の息を吐いた。

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