4 心の距離
これで彼女との話はお終いです!
俺は予想すらしていなかった人物の思わず同様してしまい、明らかに黒目がソワソワと動き始める。
「何か用事?」
「その、有人に話があって・・・」
彼女は話しかけてくるのだが全くこちらに視線を合わせようとはしなかった。
「あぁ、そうなんだ?」
俺は視線を愛子へと向ける、そこで違和感に気付く、明らかに今までの彼女とは違いどこか憔悴している様に見えた。人間とは不思議なもので、自分よりも更に緊張や弱い立場の人間を見ると急に落ち着いて来てしまう。俺が下衆なだけかもしれないが…。
「・・・う・・ん」
彼女は一瞬だけチラッと俺へと視線を向けるがすぐに足元を見つめ出し、ギュッとコートの裾を握りしめた。
恐らく彼女は浮気がバレている事に既に気付いているのかも知れない。
「あーじゃ、どうしよっか?近くのファミレスでもいく?」
「・・・・・・家には・・・入れてもらえないんだね。」
彼女は視線を足元へと向けたまま消え入る様な声で呟くが、俺は聞こえないフリをしてもう一度ファミレスでいいのか確認をした。
ハッキリ言ってもう彼女を家に入れるつもりは全く無い。
俺はそれ以上口をを開かず唯視線を彼女へと向け続ける、彼女は逆に足元を見つめたままこちらへは一切の視線を送らずただ諦めた様に小声で呟いた。
「うん、いいよ・・・」
〜〜〜〜〜
ファミレスへ到着後すぐに俺はコップの水で喉を潤すとすぐに話を切り出す事にした。
「それで、別れ話かな?」
「違う!!」
彼女は間髪入れずにそれを否定してくる。それに俺は首を傾げる。
実際、俺の中では着信拒否して卑怯だったとは思うがもう既に終わった話なのだ。
それに浮気したのは彼女の方なのだから着信拒否くらいは大目に見てほしい。
(心の再構築に正直時間が必要でした……)
「それじゃ、何の話かな?」
俺は何の感情の色も乗っていない眼差しを彼女へと向ける。
彼女はここまで一度も俺目を見て話していない。
現に今もテーブルの上に組んだ自分の指先を見ながら話し始める。
だから俺の変化に気付けない。
「その、急に着信拒否されたりして、困惑して・・・何で拒否したの?」
彼女は視線を指先からコップの水へと移した。しかしその瞳には何も映していないようにすら見えた。
俺はその質問に対して一瞬眉間にシワが寄ってしまう。しかしすぐに平静を装いながらゆっくりと口を開く。
「本当に理由を言わないと分からないの?」
「・・・・・・・・・・」
(ふーん、やっぱ理由きづいてんじゃん?)
「うわき」
俺は小さく息を吐いて静かに瞼を閉じ指輪を撫でた。
俺の言葉を聞いた瞬間ガバッと顔を上げると視線を俺へと向ける。
そこで俺の変化に彼女は初めて気付く事になる。
ゴクリと彼女の喉から音が聞こえた。
「……ッ!………。」
彼女は顔色を青白くさせ、黒目は高速で移動を始めており、捲し立てるように言葉を話し始める。
「違う!違う!違う!私浮気なんてしてない!」
彼女は取り乱し、先程まで悠然と組んでいた手を掻きむしり始めた。
正直俺は嘘をついてる彼女の姿がとても醜く滑稽に思えて思わず溜息が洩れる。
「いや、俺この目で見てるし?茶髪のイケメンでは無いけどガッチリした人。」
「あれは違うの、ただの行きつけのお店の人なの!」
彼女は必死に乾いた笑みを貼り付けてもう何度目かすら分からない嘘を重ねる。
俺はソファーの背もたれに凭れ掛かり、深い溜息を吐くと天井を見上げ瞼を閉じる。
「はぁーあのさ、お店の店員さんか何か知らないけどさ?路ちゅーしたり恋人みたいに手繋いだり肩組んだりしないでしょ?もう辞めなよ?嘘つくの。俺見たんだって。」
彼女は何も言えなくなったのか、下を向いたまま只々固まった。
「・・・・・・・・・・・・」
「も、もうニ度としないので、ごめんなさい、許して下さい。」
彼女は視線をテーブルへと落としその瞳からは涙が溢れ出す。
「ちょっと待って!許す、許さないの前に彼は誰で、どこで知り合ったの?そもそも、いつからの関係なの?俺何も聞いてないけど、ちゃんと話してくれないか?」
俺は表情を歪め思わず首を傾げてから席を立った。
怒鳴りつけてしまわないように彼女が泣き止む間、ドリンクバーへと俺は自分の飲み物と彼女のコーヒーを入れに行く事にした。
飲み物を入れている間、内心彼女にはガッカリだった。嘘をどんどん重ねてくる彼女は何だか地球上一番汚い生き物に見えてしまった。
彼女にコーヒーとシュガースティック1本ミルク2個を渡す。
「…有人にはこういう細かい好みもわかるんだね」
彼女は既に泣き止んでおり、視線を俺へと向けると微笑んだ。
「……それで話の続きは?」
俺はその行動にも頭の中はクエスチョンマーク一杯になってしまう。誰と何を比べているのだろう。
いい意味で比べたのかもしれないけれど俺はドンドン彼女に対して心が冷めていくのを感じた。
いや、そうでは無い、あの浮気のシーンを見てから彼女が何をしようと全てが気に食わないのかも知れない。
それから彼女は俺の内心に気付きもせず色々と詳細を語り始めた。
新カレシ君の名前は間宮龍太と言うらしい。
年齢は29歳、居酒屋を経営しており、昨日は月曜日で定休日だったようだ。それであの日、俺との夕飯デートが無くなった為に連絡をとって会ったとの事。
出会いは会社の飲み会で半年くらい前に使ったのがきっかけでその時に店の雰囲気が気に入ってちょくちょく通う様になり、今回の様に会えなくなった時に愚痴等を聞いてもらっている内に、意気投合。
2ヵ月くらい前から男女の関係になったと、もう一度言う、男女の関係になったと。
はい、アウト!!!!
「結論から言うと俺、無理だわ。もう信用出来ないし、浮気現場見た辺りから君に対して僅かな怒りと自分でもよくわからない感情に悩んでたんだよ、まだ好きなのか、なんで無関心になれないのかとか色々ね。で、今日会ってハッキリとそれが何なのか分かった、3年付き合った中で生まれた情だった。そして信頼を裏切られたことへ僅かな怒りを感じてたんだと思う。今日更に嘘を重ねまくってきて、ちょっと無理だわ。」
指を組み右手の指輪を親指でさすりながらゆっくりと言った。
その言葉を聞いた瞬間、彼女は一瞬だけ目を見開いたがすぐに苦虫を噛んだ様な顔をした。
「・・・本当にごめんなさい…」
彼女は震えて泣きながら頭を下げた。
「ううん、本当は今日有人に会ってすぐに気付いてた……。だから全く有人顔見れなかった。
私を見る目が以前と全然違ってたから、最初は怒ってるのかなって思ったの。でも違った。
それに今日は全然名前を呼んでくれないしね…あぁ、有人はもう私に興味すらないのかなって…」
言い終わると彼女は静かに目を閉じた。
「俺は駅の近くのコンビニで君たちを偶然見かけたんだ。本当に仲良さそうに見えたよ、頭が真っ白になったし気づいたら後を追いかけてた。キスしてた姿を俺は忘れることが出来そうもないよ。だからごめん、浮気を許したとしてもこれ以上付き合って行く事はできそうもない、また浮気するんじゃないか、そう考えながら付き合っていくのは正直辛い……それに・・・・いや、これはいい。今までありがとう。」
そう言って俺は席を立った。
後には彼女の泣き声だけが聞こえていた。
一瞬その声で立ち止まり最後に言いかけた言葉を自分の中だけで呟く。
(浮気は心の殺人である。)
あの目撃した瞬間から確かに俺の心は愛子に対しては死んでしまった様だ。
泣き声を聞いても、もう以前の様には感じないらしい。
言い得て妙だと思いながらすぐに歩みを進めた。
伝票を握りしめた手がほんの少しだけ妙に湿っぽかった。
面白いと感じたらブクマ&ポイントの評価宜しくお願いします!