39 ママとの再会
あれからすぐにオヘイリア男爵家に仕えるメイドの女性がリュノミアを連れ書斎へとやって来た。
俺はリュノミアの様子を見て取り敢えず無事であった事に安堵したが当の本人であるリュノミア自身は部屋に入って来てもろくに口を開かずに不機嫌な顔をしていた。そればかりか誰の顔も見ようともせず、早く帰りたそうにしている。
(まぁ、リノアを人質にされて無理矢理連れて来られたらそうなるよね。)
リノアはリノアで何がしたいのか、まぁー恥ずかしさなのかな、良く分からないが俺の後ろへと隠れてしまっていた。
(リノア良かったな、やっと会えるぞ!)
そんな事を考えていると、オヘイリア男爵が話しかけて来た。
「か、閣下、リ、リュノミアを連れてまいりました。」
顔色はまだ青白いまま、何があっても男爵家を守ろうという必死さが犇々と伝わってくる。
一瞬呼び捨てに俺の殺気が膨れ上がりそうになるが、ミアは平民であるので仕方がないとグッと抑えた。
(あれ?何故にイラ?)
自分の名前を呼ばれ部屋に入って来てから初めてミアが俺へと視線を向けてきた、視線が交わった瞬間一瞬にして瞳が大きく見開かれた。
「よーミア、この前はありがとな、覚悟決めて頑張ってるわ!」
俺はミアへ向けて右手を軽く上げて見せるとまるで旧友にでもあったかのように軽口を叩いた。
「な、なんでアリヒトさんがここにいるの〜?それに今閣下って言われなかった?」
俺のそんな軽い態度も相まってミアは益々混乱気味に質問をしてきた。
「まぁー色々疑問はあると思うが…それは後でな?」
まずはどうしても先に母娘ご対面させたかった俺はミアの疑問を全て後回しにすると、後ろに隠れているリノアへと向き直り、目線の高さを合わせるようにして屈み込むと笑みを浮かべながら頭を撫でた。
「ほら、やっと会えるな?胸張って行ってこい。」
「う、うん。」
リノアは緊張しながらゆっくりと俺の後ろから俯いたまま出てきた。
「う、うそ?リノア?リノアでしょ?」
ミアはリノアの姿を見るや否や驚きで眼を皿のように丸くすると両手で口元を押さえた。しかし、すでにその皿のような眼は細められ怒りのこもったモノへと変わっておりその鋭い視線をオヘイリア男爵へと向けた。
「何でリノアを?何でリノアを巻き込んだんですか!!私はあなたの言う通りにここに来ましたよ!!」
「ち、違う!俺は何もしていない!というか貴様!リノアなのか?零民の分際で何を勝手に私の屋敷に足を踏み入れておるのだ!!」
オヘイリア男爵は今まで気付きもしなかった目の前の少女がリノアだと分かると憎々しい視線を向け、大声で怒鳴りつけた。
しかし、その発言を聞いた瞬間、俺、アル、アンヌから凄まじい殺気が放たれた。
「オヘイリア男爵!!!貴様は黙っていろ!!!本当に男爵家を潰されたいのか!!」
三人が放った殺気と俺の怒鳴り声に当てられて男爵は腰を抜かし床に座り込んだ。
ミアもそんな俺の姿に驚いてまじまじと見て来ている、リノアは嬉しそうな泣き出しそうな複雑な表情をしていた。
怯えながらも男爵は尚も発言を続けようとするが、それはリノアによって遮られる事となった。
「ひっ…ひっぃぃぃっ、し、しかし、そ、そいつは遺憾ながら私の娘でごz「わたしはアンタの娘なんかじゃ無い!!!」
リノアが声を荒げた事にミアとオヘイリア男爵が眼を見開いてリノアへと視線を向けていた。
しかし、男爵はすぐにリノアの発言に顔色を真っ赤に染め上げると今にも殴りかかりそうな程大声で怒鳴りつける。
「貴様!!零民の分際で貴族である私をアンタ呼ばわりするとは何事だ!!身分の差は絶対で有る!!この場で私が!!」
そう言うや否やオヘイリア男爵は書斎の机の横に立て掛けてあった剣を手に取り、その刀身を引き抜こうとした。
「きゃぁ!」
リノアは恐怖から目を瞑り両手で頭を抱える様にしてその場にしゃがみ込んだ。
しかし、その叫び声を聞いた瞬間俺、アル、アンヌの三人が即座に動いた。
アルは即リノアの前面に立ち完全にリノアの姿をオヘイリア男爵の視界から隠すように立ち塞がる、アンヌは太腿の短剣を引き抜くと瞬時にオヘイリア男爵に斬り掛かっていた、さすがに男爵の死を是とは思えず、すぐさま俺はオヘイリア男爵の側に近づき、その手を引き抜こうとした剣の柄ごと右手で押さえつけ、左手でアンヌのナイフをアンヌの手首ごと受け止める。アンヌは一瞬〝獲物を仕留め損なった〟と残念そうな顔を見せるが即座に俺に一礼してからリノアの側へと駆け寄って行った。
その後、俺は男爵へと向き直ると殺意のこもった眼で男爵を睨みつけ問い正した。
「男爵、今誰を斬ろうとしたのか分かっているのだろうな?」
全員の厳しい視線がオヘイリア男爵に集った。
「かっ、閣下、っコレは否ことを私は只、そこにいる無礼な零民を斬り捨てようとしただけで御座います。」
男爵はそう言うと剣を握りしめた手を緩める、俺もそれに合わせて手を離した。
「なるほど、そうか、ではリノア自己紹介をしなさい。」
俺は門番とのやりとりを思い出し、名乗るだけでも構わないと特に期待を込めずに言った。
言ったのだが…しかし…
「はい、お父様!リノア・フォン・コンノと申します。オヘイリア男爵様、どうぞお見知り置き下さい。」
スカートの端を掴みリノアは貴族令嬢らしい挨拶をした。
(えぇーちょっとリノアさん!それいつ覚えたのよ?門の時できなかったじゃん?)
俺がそう言う目でリノアを見ているとそれに気づいたリノアはチラッとこっちを見てドヤ顔をした。
(ぐぬぬぬっ!しかし今はそれどころでは無い。それに驚きすぎて折角のお父様台無しだぞ!)
「なっなっなっなっ…ふざけるなぁ!!身分証を見せてみろ!どうせ嘘なのだろう!」
眼を血走らせてオヘイリア男爵が叫んだ。
ミアはあまりの驚きに口があんぐりと半開きになったまま、終始成り行きを見守っている。
俺はアンヌへと視線を向けて次にミアへと視線を向けフォローをしろと訴えた。
アンヌは頷いてからミアの側へと向かった。
そんなやり取りをしている間にリノアが俺を見ていた。俺は黙って頷くとリノアも頷き返して身分証を提示した。
【名前】リノア・フォン・コンノ(8)
【性別】女
【種族】人族
【階級】上流階級 貴族
【爵位】
【職業】公爵令嬢
「さて、これで満足かな?男爵」
俺は一拍置いてから更に続けた。
「男爵は一体誰に剣を向けたのかわかっているのか?」
「か、閣下は零民のその子へ御心を許されたと仰るのか!?本当に娘に…」
よく分からない事をブツブツと呟きながら怒りに震えていた。
正直男爵が何を言いたいのか理解は出来なかったが、今はそれどころでは無いと思い直すと話を進める事にした。
「そんな事は男爵には関係がない、それで誰に剣を向けようとしていたのかな?」
俺は鋭い視線を男爵へと向けた。
「くっ…コ、コンノ公爵令嬢、勘違いとは言え誠に申し訳ありませんでした。」
唇を噛みしめ悔しそうにプルプルと震え始めた。
「…勘違い?まぁいい、リノアこの件は好きにしていい。」
「はい、お父様、では先ほどの件を水に流す代わりに1つだけ。」
オヘイリア男爵は何を要求されるのか身構えた。
(こう言う場合、貴族同士なら間違い無く金銭だったり領地や家への利益譲渡になるんだろうなーうちの娘はそんなの100%要求しないけどねー。)
「わたしのお父様は、アリヒト・フォン・コンノただ1人です、二度と娘と呼ばないで下さい!」
ハッキリと言い切るとリノアは俺を見てから声に出さず口だけを「あ・ん・し・ん・し・た?」と動かして笑いながら首を傾げた。
俺は照れ隠しに目を瞑り舌を出して変な顔をした。
俺とリノアの様子を瞳に涙を浮かべながら嬉しそうにミアが見ていたと後でアンヌから教えられた。
「わかった、お約束しよう、コンノ公爵令嬢、此度は真に申し訳なかった。」
神妙な言葉を並べながらもその表情には喜色が浮かんでいた。
(こいつ、この程度で済んだとかおもってんだろうな、アホだな1番大事なもの無くしたのに気づいてすらいないじゃねーか、マジで救えねーわ。よし、少し弄ろう。)
「さて、娘との話は纏まったとして、私への暴言の数々と殺人予告、それにここでサプライズ!実は私への襲撃の件がありました…」
「しゅ、襲撃とは何のことでしょうか!?」
「え?知らないの?ボスなのに?リノアを拐おうと二十名程、私兵差し向けたよね?俺結構斬りかかられたりしちゃったんだけど、その責任の話だよ?」
オヘイリア男爵は完全に白目のみになってひきつけを起こしビクンビクンと痙攣しながら口からは泡を吹いていた。
リノアはヤレヤレと肩を竦め、アンヌは真剣に『是非追求しましょう』みたいな顔をして頷き、アルは笑いたいのをガマンして無表情のフリをしていた。ミアは状況が良く分からないはずなのに、ニコニコと笑顔だった。
ただ、リノアは男爵とやりあって以降はずっとミアと手を繋ぎ合っていた。
その様子に俺は絆され…る訳もなく男爵とはある約束と金銭で話をつけた、約束というのはミアに二度と近づかない事、しっかりとアルに契約書を用意させそれを交わしておいた、これは破ると男爵家が無くなるどころでは無い。何せ、命をかけさせたのである。破れば俺に殺されようが文句は言わないと言うような内容が書かれている。
実際私兵を使ってリノアを拐おうと森の家を襲撃した時点で、俺への殺人未遂とリノアへの殺人未遂が成立、ハッキリ言って男爵が気付いてなかっただけで既に詰んでいたのである。
だから、今俺に殺られるか、約束を破らずに生き続るかを強引に選ばせて誓約書にサインさせたのだ。
『破らないなら問題無いだろうが!あ゛んっ⁉︎』っとまるで暗黒街のドンの様であったとアルが笑いながら後で言っていた。
次に金銭だが、正直いくら搾り取っていいのか、分からずアルに丸投げしておいた。
金貨3000枚くらいか?と聞いたらそれはさすがにぼったくり過ぎだと言われたのでいくらくらいが妥当か確認をしてみると『この件で200枚襲撃の件で300枚位ですかね』って事だったので『じゃ、それでと』簡単に了承して、ドンの如く即金でもらっておいた。
オヘイリア男爵はお宅訪問してすぐより大分老け混んでいる様だった。
最後の方は表情も抜け落ち、只々、ひたすら謝罪を繰り返す機械のようになっていた。
しかし、俺としては金銭と誓約書だけで男爵の地位は守ってやったんだから逆に感謝して欲しいくらいである。
ちなみに男爵の地位を剥奪する方法など俺は全く知らないので男爵本人が消える事になっていたのだが…
書斎を出てすぐ、リノアとミアは泣きながら抱き合っていた、そんな二人の姿に俺たちは全員暖かい気持ちになり、それと同時にこの親子をここまで苦しめた男爵に改めて怒り心頭だった。
ちなみに男爵にはアンヌの慰謝料も請求しておいた、慰謝料と言っても今まで働いた正当な額を請求した位なのだが、それでも祖父へ何か美味しいものを食べさせる事が出来るとアンヌはとても喜んでいた。
こうして一連の事件の後始末は終わり、俺達はそのまま男爵の屋敷を後に…出来なかった。
屋敷の玄関を抜けて直ぐの事だ。
前からもの凄い勢いでジャズ君が走ってきた。
「商人殿、お預かりしてた槍と魔道具、しっかりと守り通しておきました!!」
ジャズはとても誇らしげに槍を俺の目の前に両手で差し出してきた。
「商人殿?ってお〜ジャズ君、任務ご苦労様!」
ジャズ君はそんな俺を心配そうに見つめて来た。
「あ、あの、その大丈夫でしたか?」
俺は最初この心配が何のことかさっぱり分からなかった。
不思議な顔をしている俺にアルが耳打ちをして教えてくれた。
どうやら男爵は貴族の後ろ立てがない商人を呼び寄せ、権力で脅して利益を横取りしていたらしい、ホントクズである。
今回簡単に門を通れたのも俺をそういう商人だとジャズ君が勘違いしたかららしい。
更に一緒にいた子供のリノアを何か脅迫されるネタに使われたのではないかと心配してとの事。それで今の〝大丈夫でしたか?〟に繋がると言うことだった。
(なるほど、なるほど!つーかジャズ君もしかして滅茶苦茶良い人だったんじゃね?何か悪い事しちゃったなー。)
「いやージャズ君、心配させちゃって悪かったね!でも逆にお金貰って帰ってきちゃったから大丈夫だよ?」
俺は満面の笑みで答えた。
「いや……は?」
信じられない言葉にジャズが混乱している。
〝うんうん〟俺は何度も頷いた。
そして槍の件を思い出し申し訳なくなった俺は良いことを思いついた。
「あ、そうそうジャズ君、その槍あげるよ?あと大変申し訳ないんだけど、それ、魔道具じゃないんだよねー。あ、でもそれこっちじゃ絶対に手に入らない代物だから?ただ、銅貨1、2枚なんだけど良かったら大事にしてよ〜。俺は男爵にお小遣い貰っちゃったからさー新しいの買っちゃおうかなって思ってるから全然心配しなくていいからねー?」
「・・・・・・・・・」
感動からなのか一切の動きを止めたジャズ君を尻目に俺は早く帰って休みたかったので「それじゃ、また」と言って笑顔で手を振り完全に男爵の屋敷を後にした。
ミア以外のメンバーはジャズ君を可哀想な子を見るように見つめていた。
何故だ?さっぱりわからん。
ミアだけは相変わらずニコニコとしていた。
お読みいただきありがとうございます。
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