34 邪魔者
あれから更にビールをもう一本ずつ追加し、三人でゆっくりと話をする事ができた。
ちなみにやはりこの世界にはレベルやステータスの概念は無かった、ただ、感覚的に強くなったと言うような感じを受けていると言っていたので恐らく地球の格闘家なんかと同じ感覚なのでは無いだろうかと思っている。
勿論スキルについても同じようにレベルという概念は存在していなかった。
そして一番肝心な今回何故リノアが誘拐の対象とされたのかも詳しく聞くことができた。
そもそも事の発端は王都でオヘイリア男爵がミアを見かけたことが始まりだったらしい。
アルの話によれば、オヘイリア男爵はミアを手放した事を大層後悔していたそうだ、ことあるごとにリノアだけを誰かに預けるか、売り払ってミアは愛人として囲っておくべきだったと洩らしていたらしい。
何故愛人かというと、貴族社会において零民を産んでしまった女性は侮蔑の対象とされ、そのまま妻として迎え入れているとオヘイリア家そのものが誹謗中傷の的とされ、貴族社会では立場を無くすという事だった。
本当にバカらしい事この上ない話だ、そもそもリノアを売り払うとか言ってる時点でコイツを俺は許せそうにも無い。
今回の騒動はまずはじめにミア本人にオヘイリア男爵が愛人として屋敷に戻る様に命じたがそれをミアはバッサリと斬って捨てたらしいのだ。
それでプライドをえらく傷つけられ憤慨したオヘイリア男爵が私兵を用いて強硬手段に出るもミアや一緒にいた冒険者達に逆に返り討ちにされ、簡単に狙えて尚且つミアが絶対に逆らえなくなるリノアを手に入れようとした結果らしい。
「俺さ、実は色々納得行ってない事があるんだけど…」
アルに視線を向けた。
「どの様な事でございましょう?」
「いやね、王都からこの森の家までそこまでの距離はないだろ?馬車を飛ばしても数時間で着く距離じゃ無い?なのに何故、ミアはリノアに会いに来ないんだ?」
そう実はずっと俺はそれが気になっていた、普通なら1番に娘に会いに帰って来るはずである。
「あぁ、その事で御座いますか?実は私も気になりまして少し考えておりましたが、それも男爵が理由かも知れません。」
俺は府に落ちないといった表情をしたまま話を聞く事にした。
「実は男爵はこの場所にリノアお嬢様がいらっしゃるとは思っていなかったのです、探さなかったというのもあるのですが、そもそも最初はこの場所の存在自体知らなかったのですから、今回拉致の名が下るまでは私も秘密にしておりましたので。ですが…昨日の昼頃に男爵家の手のモノがここを発見したと報告に参りまして、何でも行商人経由で分かったとか伺っておるのですが。」
「ふむ、それで?」
「はい、恐らくはリュノミア様は男爵にこの場所がバレるのを警戒して姿を表さないのではないかと、いつ王都に戻ってきたのかは私は存じ上げませんが、男爵に会ったのは王都に戻られてすぐの事だったのではないかと考えておりました。仮にもし後でもつけられたりすれば…。」
俺は飲み終わった缶ビールの缶を潰しながら言った。
「なるほど、仮に王都に戻って来た初日か次の日辺りに男爵に会ったとすれば帰るに帰れない状況になったと考えられるのか。」
「本当、オヘイリア男爵は邪魔だな。まじでクソやろー過ぎるだろ!」
「僭越ながら私もそう思います。」
「じゃあさ、もういっその事こっちから挨拶に行っちゃおうか?」
俺はそう言うとソファーに凭れ掛かりながら大きく息を吐き出しだ。
「一体何を為さるおつもりですか?」
アルの眉間に深いシワが寄る。
「いやーだってさその男爵はっきり言ってリノアの為にもいらないよね?何かスゲー邪魔だし?大体さ、さっきはリノアが居たから黙ってたんだけど、命狙ってんでしょ?じゃ逆に殺られる覚悟もしてる筈だよね?俺さミアと話してから、ちょっと心に決めてる事があってさ、リノアをどんな手段を用いてでも守るって事なんだけどさ、男爵は明らかに今回敵だし、正直リノアも悲しむからさ、退場してもらっちゃおうかなーって?あ、退場って言ってもさ別に殺しちゃうって言ってる訳じゃ無いんだよ?一応リノアの実の父親になるんだしさ…言葉通りの意味だよ、もうリノアやミアの人生に関わらないようにしちゃおうかなって。」
アルは冷や汗を掻きながら静かに口を開いた。
「閣下は普段は温厚そうなのに怒らせると恐ろしい方ですね。」
「いや、今回は仕方が無いでしょ?だって場所バレちゃってるわけだし?実の娘とか言いたく無いけど、娘を狙うとかそもそも頭おかしいよね?その人。」
俺は自分で話しながら少しずつではあるが体の中で怒りが滾っていくのを感じていた。
「私も閣下と御一緒した方がよろしいですか?」
「んーリノア次第かなぁ〜俺はアルにはリノアの身体だけじゃ無くて心まで守ってほしいんだよ…というかもう朝だな…」
窓の方へ視線を向けると窓からは朝日が差し込んでおり俺は眩しさに耐えきれずに思わず目を閉じた。
「リノアお嬢様の心までございますか?」
アルが今までに無く真剣に問い返してくる。
「あぁ、心まで、だから赤ん坊の時から今日に至るまで要所要所でリノアを守ってたアルを家臣に加えた。」
そんなアルに応える様に俺もアルから視線を逸らさずにジッと見つめ返す。
「分かりました、閣下のご期待に添えます様にこのアルキオス命に代えましても…いえ、自惚れで無ければそれでは心は守れませんね、自身も含め、リノアお嬢様から離れない事をここに改めてお誓います。」
アルは惚れ惚れする様な臣下の礼を取った。
「うんうん、そう言う所だよ、宜しくねアル。」
俺はアルの答えに心からの賛称を送り満面の笑みで答えた。
「はっ!」
「アンヌはじーちゃんが元気になってから頑張ろうな。とりあえず、悪いんだけどこっちに何か食い物もってきてくんない?俺シャワー浴びてくるわ。」
やはりおっさんの体には徹夜はかなり堪え、俺はあくびを噛み殺しながら風呂場へと足を向ける。
「はい、お心遣いありがとうございます。それと朝食の件畏まりました、サンドウイッチとコーヒーでよろしいですか?」
「あ、それでよろしくね。」
余談だが実は3人で話した時に、アルとアンヌには俺とリノアの事情を説明しておいた。
2人とも最初は異世界だと聞いて訝しげな目を向けて見ていたが、地力でフスマを開けられない事や、TVやパソコン、タブレット、電子レンジやエアコン等を見て最終的には納得してくれた、外を見せれば早かったのだが、外はその時まだ朝日が登っておらず、後から見てもらおうと思っている。
アルは驚きよりも、ここにある道具(電子レンジや、エアコン等)を使いこなせないと〝リノアお嬢様が快適にお過ごし頂ける空間をお作りする事が出来ない〟とそれはそれは物凄い勢いでそれらの操作を覚える方へと意識を向けていた。
さすがリノアの教育係である。
アンヌに至っては何か俺を神か何かと思っているのか恍惚とした表情を受かべながら〝ここが神の国ですか?〟等と言いだす始末である。
うん、もうね、病名を言った辺りから何か俺を見る目が明かに尊敬を通り越して来てるんだよね?放置しとこうかと考えています、はい。
ただ、二人とも〝この秘密は墓場まで持っていきます〟と固く誓ってくれたのは正直有り難かった。
これから先絶対に避けては通れない話題だし、二人には色々と協力をお願いする事にもなると思うのでスムーズに事が運んで良かったと思う、ただ順応性高すぎだろ!と突っ込んではおいた。
アルやアンヌが来てくれたことによって、これからはママが帰って来るかもしれないと言う、リノアの願いを聞き入れフスマを開けたまま仕事に出掛けてもあまり心配せずにいられ、精神的にもかなり楽になると思う。実はかなり心配だった。
それとアンヌのじーちゃんは今王都で療養中らしい。最初は王都から大分離れた村で療養していたそうだが、男爵お抱えの医師が王都にしか居らず、そんな遠くまで行っていられないと男爵に言われ、病の身を押して、荷車に乗せアンヌが連れてきたそうだ。
アンヌの本職はメイドである為、貴族に仕えていただけありそれなりに詳しく、とても頼りになる、なのでメイド達や家臣の皆、治療のことも含めオヘイリア男爵が領地に帰っている間はどうするのかと聞いてみたのだが、何でも領主代行に全てを任せて、領地に戻ることはなかったそうだ。
貴族にも色々いて、逆に領地から全く出てこない人もいるとの事、その辺りはまだ全然わからないが、俺個人の事情を説明した事により情報をアルやアンヌから聞き出しやすくなって本当によかった。
ちなみにアンヌには103号室、アルには104号室を仮ではあるが部屋にしてもらった。
シャワーを浴び終えた俺は男爵家訪問につてどうしようかとサンドウイッチを食べながら考える事にした。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、続きが気になると感じたらブクマ&評価の方よろしくお願いします。




