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フスマin異世界  作者: くりぼう
第一章
31/79

31 生い立ち


俺は背中にくっ付いてきたリノアを気に留めながら暗殺者の女をガムテープでぐるぐる巻きにすると亜人種の男を鑑定する事にした。


この亜人種の男、名をアルキオスという様だが、人狼族という種族だからだろうか、人族よりも明かに身体能力が高いように見受けられた。


【名前】アルキオス(47)

【Level】38

【性別】男

【種族】亜人種 人狼族

【職業】護衛官

【体力】1334/1334

【魔力】694/694

【力】121

【素早さ】288

【防御力】179

【魅力】81

【スキル】格闘lv3 護衛術lv3 身体強化lv2 索敵lv2


「えーっとアルキオスさん、それで何故土下座を?」


俺は意図せずして上から見下ろすような形で質問する事になってしまい、正直かなり居心地が悪かった、またアルキオスは自分の名を呼ばれた事に少し驚き、一瞬だけ顔を上げるが先ほどよりも更に深々と頭を下げながら事情を話し始めた、その行動も俺の居心地の悪さに拍車を掛けた。


「はい、私はリノア様がお生まれになってから数日間の間でしたが護衛官としてお世話を任されておりました。その時にとある事情からリノア様のお母上に大変にお世話になっておりまして、そんな大恩ある御方の娘様のリノア様に対して私は…私は…主の命だと言え、拉致して連れ去ろう等と、とんでもない事をしでかしてしまい……誠に申し訳ございませんでした。」


「おじさん、ママの事しってるの?」


「はい、以前お世話になりましたので、よく存じ上げております。」


リノアは自分や母親の話が出てからすぐに俺の背中から顔だけを出して質問をした。その質問に対して、アルキオスはリノアの成長を慈しむ様に目を細め優しく出来るだけゆっくりと答えていた。


「んー色々聞きたい事はあるんだが……まず俺はアンタを()()信用してはいない。」


「はい、当然のことだと思います。」


「そこでだ!まずリノアの母親にどんな大恩が有るのかを聞かせて欲しい。」

わかるだろ?という視線をアルキオスに一瞬だけ向けすぐにリノアを優しく見つめた。


俺がただ、リノアに母親の事を聞かせて喜ばせたいという意志が伝わったのか、アルキオスは愛好を崩し嬉しそうに頷いてから語り始めた。


「はい、勿論です。そうですねーまずは…リノア様はお父上の事は知っていますか?」


「うーん、零民とわかった時に逃げたという事だけは知ってるかな…」


リノアは不安からなのか、すぐに俺の手をギュッと力強く握ってきた、その小さな手は自分の父親は俺だけだと語りかけて来ているように感じてしまい、不謹慎にも嬉しい気持ちになってしまった。


「そうですか………本来なら私から伝えるべきでは無いのかも知れませんが…しかし今回の事と無関係ではないのですよ。ふーむ…」


「気持ちは分かるんだけどさ話してくれない?俺はある人と出会ってから知らずにいる事は罪だと危険だと考えるようになったんだよね、リノアも自分の身を守る為にも知っておくべきだと思うし。リノアもそれでいいよな?」


「うん、わかった。わたしの事なら知っておきたい。」


リノアは俺の手を握りしめたまま、その小さな体でどんな現実でも受け入れようと覚悟を決める様に、ゆっくりとだが力強く頷いてくれた。


アルキオスはそんな俺とリノアを不思議そう見つめながら尋ねて来た。

「あの、貴方とリノア様のご関係をお聞きしても?」


その質問に対してリノアはこれでもかと言うほどの満面の笑みを浮かべながら答えた。

「パパだよ!リノアのパパ!」


「……は?」

意味が全く分からずアルキオスの口から思わず情けない声が洩れる。


「まぁ、俺の説明は後にするとして、取り敢えず話を進めてくれ。」


「いや、しかし、それは……せめてリノア様にだけお話しさせて貰うわけにはいきませんか?」


「はぁ〜あのさ、気持ちはわかるよ?リノアの母親が言ってない事まで自分が喋ってもいいのか、ましてや、身元不明な人間にまでリノアの事を聞かせても良いのか?どうせそんなとこでしょ?」


「・・・・・・・・」

アルキオスは黙り込んで聞いている。


彼の言うことは至極当然である、だがリノアへと一瞬視線を向けその姿を見た俺は黙り込んだアルキオスを見ても止まれなかった。止まるどころかかなりキツイ物言いで責め立てるようにしながら捲し立てていた。


「あんたさ、何か勘違いしてない?アンタは誘拐犯俺はリノアを守る側、どんな話でも一緒に聞くに決まってるし、ましてやリノアと()()信じていないアンタを二人きりになんかさせられないからどっちみち話すしかないんだよ?オーケー?」


リノアの様子を再度見てみると折角母親のいい話が聞けると思っていたのに何だか違う雰囲気になってきてしょんぼりと俯いて寂しそうにしていた。


「そうですね、分かりました、すみませんでした。」


「そ、それで、リ、リ、リノアの言いたくない、言いたくないが!くっ…ち、ち、ち、ち、父親について…だったっけ!!」


涙ぐみながら唇を噛みしめ必死に絞り出した自分自身の言葉に〝ぐぬぬぬっ〟と唸り声をあげ話の先を施した。


俺のそんな悔しそうな姿にリノアは嬉しそうにハニカミながら俺の腕に抱きついて来た。


「全く、ホントにパパは子供なんだから!!安心して、わたしのパパは1人だけだよ♪」


「……………ふん。」

俺は途轍も無く恥ずかしくなり顔全体を耳まで真っ赤に染め上げ何も言わずにそっぽを向いた。


「ふふっ♪」

更にそんな俺にリノアは嬉しそうに楽しそうに笑っていた。


「いやはや、本当に仲がお宜しいですね、余計な心配でした。」


俺はアルキオスの言葉を受けてさらに恥ずかしくなり聞こえないフリをした。


今この状況でそんな事を言い出すアルキオスに何やら悪意の様なものを()()()感じ、被害妄想も良いところだがきっと此れは先程俺がキツイ言い方をした事への仕返しなのだと()()()結論付けるとアルキオスをジト目で睨みつけた。


俺が軽く睨んでいるのに気付いたアルキオスは誤魔化す様に話を続けた。


「えーっおほんっ、いいですか?驚かないで聞いてくださいね?リノア様は実は男爵家のお生まれなのです。」


しーーーーーーーーーーんっ


一瞬にして場が静まり返った。


「えぇ、えぇ、大変驚かれた事だと思います、零民として並々ならぬ苦労もお有りだったでしょう、しかし、事実なのです、どうかお受け止めください。」


アルキオスはリノアの事を想い涙を流しながら切なそうにそれでいて言い聞かせるかのように語っている。


「あ〜いや、それで?」


「…は?それでとは?」


「いや、だからさ、リノアが男爵家の出だという事はわかったし?というか護衛官してたとか言ってた(くだり)から、貴族か中流階級の出だろうとは思ってたし?」


「なぁ〜」と俺がリノアに話を振ると「うん。」とだけ返事をし当の本人も〝そんだけ〜?〟みたいな物凄く不満そうな顔を見せた。


「いやいやいやいや、貴族ですよ?こう言っては失礼かと思いますが、零民という、最底辺の層から魔力の波動さえ産まれた時に出してさえいれば貴族だったのですよ?」


そんな俺とリノアの質問の意図を図りかねたアルキオスが意味が分からないと言わんばかりに身振り手振りを駆使しながら捲し立てるように告げた。


「いや、あんた本当失礼だな!」


「あ、いえ、リノア様大変失礼しました、悪気はないのです、申し訳ございませんでした。」


「んーん、全然もうまんたい!」


(ちゅ、中国語だと……いつだ、こいつの言語能力はいつ国外に出やがった!)


俺が驚愕した表情を向けると、リノアはしてやったりの顔でニヤリとしていた。


「はっ、それはどうもありがとうございます、それで…」


そこで不思議なことが起きた、中国語を知らないはずのアルキオスに言葉が通じてしまったのだ。


「ちょっと待った!!」


「あんた、今リノアがいったこと伝わったんだよな?」


「は?」

首を傾げながら訝し気な視線を俺へと向けて来た。


「いやだから、リノアがもうまんたいって言った事だよ。」


「えぇ、問題ないっと仰ってくださって安堵いたしましたがそれが何か?」


「いや、悪い何でもない、続けてくれ。」


俺とリノアは2人で顔を見合わせながら不思議そうに首を傾げあっているとそんな俺たちを見てアルキオスも首を傾げていた。


「それでリノア様のお父上なのですがヘンリー・フォン・オヘイリア様と仰います。現在オヘイリア男爵家のご当主をなされております。」


「ふーん。」


今更男爵家だ貴族だと言われようが何の関心も無いとばかりにリノアは興味無さそうに呟いた、実際問題、俺自身も〝へーほー〟くらいの感想しか持つことができなかった。


俺は一度周囲を見渡すと、最後にリノアの様子を確認し問題がなさそうだと判断を下すと皆が言い出しにくい事を敢えて聞く事にした。


「それで、リノアがさっき言ってた零民と分かったら居なくなったって話はどうなんだ?」


アルキオスはリノアの事を一度確認してから小さくため息を漏らすと重そうな口を開いた。


「本当です…オヘイリア様はそう結果がでてからすぐにお怒りになられて、お母上を責め立てておられました、その後数日間お帰りになられませんでした。その間のリノア様の護衛を私が勤めていたのです。それから1週間程経ってでしょうか?戻って来たオヘイリア様は準備が全て整ったと仰られて、その……」


「アルキオスさん、わたしは大丈夫!続きをおしえてください。」


アルキオスはリノアを見つめるとこれ以上は言い出しにくいのか、聞かせたくないのか口籠ってしまった、しかしリノアはそんなアルキオスに対して頭を下げた。


俺は頭を下げたリノアへそっと近づくと抱き抱えまたしてもリノア至上主義が発動してしまう。


「アンタのそのどっち着かずの態度がリノアに頭を下げさせてんだよ!気にしてくれてんのは有り難いんだけどさ、俺はコイツ最優先だからいい加減にしろよ?そういう自分の出生を聞かされながらコイツに頭を下げさせるな!!」


自分でも滅茶苦茶な事を言っている事は十分理解しているが理性より感情を完全に優先させてしまっていた、そんな俺の頭上に〝ゴツン〟とリノアのゲンコツが降り注いだ。


「パパはわたしが大好きなだけだから気にしないでくださいね。ほら、パパ謝って!」


「ど〜も〜すみませんでした〜!」


ここは自分でも無茶苦茶な事を言っている事は分かっていたので不貞腐れながらも謝罪をする事にしたのだが、やはり態度がお気に召さなかったらしくキッとリノアに睨まれてしまい、俺は気まずさからサーッと視線を外しておいた。


するとすぐに辺り一面にアルキオスの大きな笑い声が響いた。


「あはははははは、いやいや、これはなんとも!いや、お気になさらないで下さい。貴方の仰る事もわかる、その前に1つだけよろしいですか?リノア様」


「はい?」


「リノア様は今現在お幸せですか?」


いきなり楽しそうに笑い始めたアルキオスにリノアはきょとんとした表情を見せたがアルキオスの質問に対してパーっと顔を綻ばせて満面の笑みで言い切った。


「はい!!とってもと〜〜〜っても幸せです!!」


「そうですか、本当によかった……」


そう呟くとアルキオスは安心したように頷いてから話の続きを語り始めた。


「それでは続きを話させてもらいますね、オヘイリア様が準備ができたと仰られてからすぐにリノア様とお母上様はその場にて離縁され、屋敷を追い出されました。そして新たに商家の娘を連れてきて再婚なされたのです。私はその男爵様の行為に正直申し上げれば大変憤りを感じました、もう辞めてしまおうかとも考えましたが、その時家族の為にどうしても職を失う訳には参りませんでした。しかし大丈夫だと気にしないようにとお母上様は私にそうおっしゃられてカルフール村へとリノア様をお連れになりお二人でお暮らしになられるようになったのです。しかし、それだけでは済まない事態が発生しました、男爵様は事もあろうにご自身の血筋から零民が出る事など有ってはならないと仰られてリノア様のお命をお狙いに成られるようになりました。その為私はお二人を何としてもお守りする為、今の森の家を準備させて頂いたのです、この程度のことしか出来ず、本当に申し訳ありませんでした。」

語り終えるとアルキオスは涙を浮かべ深々と頭を下げた。


「そうだったんですね、ここはアルキオスさんが…」


その後一瞬ハッとしたような表情をしたリノアは何かに気がづいたのかアルキオスへと視線を向けると言葉を続けた。


「一番大変な時に助けて頂いてどうもありがとうございました。こんなに素敵な家をホントにありがとうございました。」

リノアは笑顔を浮かべ微笑んだ後にしっかりと頭を下げた。


「俺からもリノアを守ってくれてありがとう。」

俺も先ほどとは違い誠心誠意、心を込めて深々と頭を下げた。


「……いえ…いえ、私は何もできずに…ただ、幸せそうで…本当によかった…」

よく見るとアルキオスは瞳に涙を溜めながら溢れ落ちないように必死に言葉を続けていた。


「はい!」

アルキオスの気持ちに応える様に全身を使い飛び跳ねる様に元気いっぱいにリノアは答えた。


「それでさーリノアのママにいつお世話になったのよ?」


その話を振るとアルキオスは思い出すように夜空に輝く星々を見上げ、大きく息を吐いた後語り始めた。

「あぁ、それはカルフール村に移られてからすぐの事ですね。」


アルキオスの話によるカルフール村にリノアたちが住むようになってからすぐにアルキオスの実家がある村で大飢饉が起き、唯一の肉親であるアルキオスの妹が死にかけながらも痩せ細った体で、戦うことの出来る数名の村人と一緒にアルキオスを訪ねて来た事があったそうだ。しかし、オヘイリア男爵にそのことを見つかり問題事は近づけるなと無碍に扱われ追い出された所を匿い食事を与えて看病したのがリノアのママだという事だった。


「へぇ〜さすがリノアのママだな!」


「えへへへっ♪でしょ〜?」


リノアの頭をわしわしと撫で付けるとリノアはママが褒められた事が余程嬉しいのか、目尻を下げてにへらっとした。


しかし、その直後、俺はアルキオスの口から思いも寄らない人物の名を聞く事になった。


「本当にリュノミア様にはいくら感謝してもし足りません。」


「あ、あのさ?リュノミアって物凄い綺麗な金髪の人?それがリノアのママさん?」

俺は恐る恐る聞いてみた。


「え?えぇそうですよ?」


アルキオスの返答を聞いた俺は、軽く片手で頭を抱えながら、何とも言えない表情でリノアへと視線を向けた。


「あーリノア。」


「なに?」


「あーえっとさ、凄く言いづらいんだけど…実は俺お前のママとどうやら知り合いらしいわ、というかこの前会った時に友達認定されてるみたい俺…。」


気不味さから呟きのようになってしまった俺の言葉を耳にしたリノアは笑顔のまま固まり一瞬間を開けると大声で叫んだ。


「えぇぇぇぇっ!!い〜つ〜ど〜こ〜で〜!!!」


静寂に包まれた真夜中の森の家(玄関先)にはリノアの叫び声だけが響いていた。

お読み頂きありがとうございます。

面白い、続きが気になるそう感じましたらブクマ&評価の方よろしくお願いします。

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[良い点] 読んでますよ〜 更新ありがとうございます!
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