表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フスマin異世界  作者: くりぼう
第一章
30/79

30 リノア


わたしにはとても面白いパパととても綺麗なママがいる。


わたしは生まれてから今までパパという存在は言葉の上でしか知らなかった。


今よりもまだずっと小さかった頃にわたしのパパは何処にいるのか?どんな人なのかをしつこくママに聞いていたのを今でもなんと無くではあるけどれど覚えている。


でも、その度にママがなんとも言えないような、困ったようなそんな顔をしていた事もまた同時に覚えている。


産まれてからすぐ魔力の波動が出現しなかったわたしは零民認定を受けた、そのママの困ったような顔を見るたびにパパが居ないのはきっとそれが原因なのかなと小さいながらに感じていた。


ある時、どうしても理由が知りたくなったわたしは今まで以上にしつこくママを問い詰めてしまった。ママはそんなわたしに物凄い覚悟を持った表情をしてから一度だけ教えてくれた事がある。

わたしが零民であると分かったその日に、ママとわたしを自分の側に置いておく事に我慢ができなくなったのだと…現実を受け入れられなかったのか、それとも受け入れて恥だと感じたのか、それは分からないが、わたしを作ったその人はそう言う決断をしたそうだ。


その話を聞いた時、わたしは『あぁ、やっぱりわたしが原因なんだ』そう思ってしまったのを今でも鮮明に覚えている。


わたしはきっと物凄く酷い顔をしていたのだと思う、ママがずっと泣きながら『ごめんなさい』と繰り返していたから。


それを聞きながら、わたしは何故ママがわたしに謝っているのか良く分からなかった、だって悪いのはどう考えても零民のわたしなのに…だからわたしもママの胸の中で『ごめんなさい』と呟いた。


泣き止んだママは別にその人を最初から愛してはいなかったと言うこともわたしに教えてくれた。


わたしの為に嘘をついているのかとも考えたが、普段のママの様子を見ていると、愛していなかったというのはどうやら、本当のようで、それだけはわたしの心の救いでもある。


父親だとは思っていないが所詮こんなものなのだろうと父親という存在については感じていた。


そしてそんな絶望に似た感情の裏で、もしこの世界に父親という私達を置いて逃げたその人みたいな存在では無く、ちゃんとわたしやママを大切にしてくれるようなそんな父親がいるのなら、どうかわたしを見つけて欲しいと強く願っていた。


その話を聞かせてくれた日から数日後、理由は分からないが突然ママはわたしにとても色々な事を教えてくれるようになった。


元々お貴族様のお屋敷でメイド兼護衛として働いていたママはとても綺麗で聡明であり、物凄く強い人だ。


そんなママからわたしは、魔法の事、魔物の事、階級社会の制度の事、本当に色々な事を教わった。


始めは何故こんな事を覚えないといけないのか疑問だったが、わたしが何か一つでも覚えるとママがとても嬉しそうな顔になるのでいつしかそんな疑問もわたしの頭の中から綺麗さっぱりと消え去っていた。


ママが言うにはわたしは覚えるのが物凄く早いらしい、とても優秀だと頭を撫でながら褒めてくれた、わたしはママにそうやって褒めてもらうことが何よりも嬉しい、ママの手はとても暖かくて安心できるから。


だから、わたしは次も褒めてもらえるように更に色々な事を覚えようと一生懸命に頑張った。


そんなある日、零民の事について教えてもらった、わたしは余りのショックに気絶をしてしまう事になる。


わたしが零民認定をされてしまった事、その事自体についてはママには申し訳ないが本当に嫌だし自分自身やこの境遇を恨みもしたが仕方のない事だと考え一応では有るが受け入れている。


しかし、問題は今日ママに教えて貰った方だった、こんなわたしに救われる手段があるという事だ。


教会へ寄付と称して金貨100枚を納めると平民の儀と言われるものを行なってくれるのだという。


目の前に救いの手が差し出されれば人間は必ず縋り付いてしまうものだと思う。


わたしはこの制度を聞いて悪意の様な物を感じたと同時にとてつもなく嫌な予感に襲われた。


だって、零民はみな一様に職が無くその日の暮らしにも困っている状態なのだ、魔力が低い為に零民認定を受けているそんな私たちにどうやって金貨を100枚も支払えというのだろうか?


わたし達が必死になる姿を見て楽しんでいるとしか思えない。


もし払える可能性が有るとすれば、其れは溺愛された上流、中流階級の子達だけであろう。


いくら魔力が血統により遺伝しやすいと言えどそれは遺伝しやすいというだけで有り、必ずしも遺伝する訳ではない、不運にも遺伝し無かった者たちも少なからずいるのだ。


しかし、そういう子達が払って貰える可能性もまた低い、お貴族様はとてもプライドが高い自分の家の者から零民が出たとなれば普通は関わりを絶たれ、放置されるのが関の山であり、それこそ、運が悪ければ処分されてしまうだろう。


そしてわたしはとても運が良くて悪かった。


わたしが7歳になったある日、今まで生活していたカルフール村を離れて森の中に有る家へと引っ越しをする事になった。


友達と離れるのは寂しかったけど、結局の所原因はわたしなのだろうと本心では諦めていたのだと思う。


それから数日してママがお金を稼ぎに冒険者になって家から出て行ってしまったのだ。


きっとママはこの日を見据えてわたしに色々な事を教えてくれていたのだと思う。


この家の周囲には魔物がいる、わたしは幼いながら、知識だけは有る方だと思っている、魔物除けの道具もある、家から出なければ何も問題がないと言う事は不本意ながら理解してしまっていた。


そして理解してしまったわたしは我儘をいう事が出来なかった、本当は1人になるのが怖かった、寂しかった、でもママはわたしの為にお金を稼ぎに行ってくれている、だから泣き喚いたり、ママを困らせる事を言うことはできなかった。


ママが出て行ったその日は、笑顔で感謝を述べる事と後ろ姿を見送る事しかわたしには出来ることがなかった。





こんなわたしがパパのいる日常を体験する事になるとはこの時のわたしはまだ夢にも思っていなかった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ママが冒険者になってこの家を出てから丁度1年が経った。


その間ママには1度も会っていない。本当は今すぐにでも会いたいがわたしだけが我儘を言える訳がない。


ただ、手紙のやり取りくらいはできる様にとママが色々と手配をしてくれていた。


日課の水汲みも終わり、わたしはいつもの様に暇を持て余していた、そんな時はいつも『誰か助けてください、この場所から誰かわたしを連れ出してください』とついつい願ってしまう、そんな夢のような都合の良いことが起こるはずがないのに。


そう思っていたある日、朝起きてみると、家の中に今まで存在し無かった不思議な扉が現れていた。


これはもしかして、わたしの願いを神様が聞き届けてくれたのではないかと素直にそう思った、そして生まれて初めて神様に感謝を捧げた。


この扉の先に向かえば、わたしもママも幸せになれるかもしれない、そう思ってわたしはすぐにその扉に手をかけ…そして絶望した。


全くこの扉を開けることができなかったのだ、無言で『お前は幸せになる権利がない』そう言われているように感じた。


ただ、不思議と扉自体に嫌悪感を抱く事は全くと言って良いほど無かった。


それからのわたしの日課に水汲みとは別に扉の監視も含まれた。



〜〜〜〜〜〜


扉が出現してから約1ヶ月が経った。


わたしはまだ子供でしかも外には魔物は勿論、人間の盗賊なんかもいる。そのような危険を回避する術をわたしは持ち合わせてはいないので極力外には出ない様にしている、そんな家に引きこもっているわたしにも2か月に1度しか会う事ができないが話し相手になってくれる人もいる。


その人は2ヶ月に1度ママの手紙と銀貨15枚を届けてくれる人だ、名をラッタさんと言って亜人種の猫人族の女性である。


届けてくれるお金は生活費と言ってくれてはいるが、寄付金を貯めておいてくれと言う事だろうと勝手に解釈をして殆ど手をつけずに貯める事にしている。


使う事があるとすれば不定期だけど行商人の人が来た時に僅かばかりの食料を買うくらいである。


ある日いつものようにラッタさんがお金と手紙を持ってきてくれた。


「あ、こんにちは、ラッタさんいつもありがとうございます。」


「もぉー相変わらずリノアちゃんは礼儀正しいなー」


わたしがちょこんと頭を下げながらお礼を言うといつもの様にラッタさんはハグをしてくれた、この優しいハグがわたしは大好きだ。


「それに、親友の頼みだし、ギルドの依頼でも有るんだから問題ないのよー?」


ウインクをしながいつもの様に告げる。

そんないつものやり取りをしながらもわたしは例の扉を眺めていた。


「リノアちゃん、本当にそれ好きね?」


「うん、何だか見てると安心できるの!」


「へぇーわたしは何も感じないけどー?でもいきなり現れたんでしょこの扉?不思議ねぇー怖くは無いの?」


「うん、全く怖く無いよ?」


「ふーん、案外夢の国とかに繋がってて凄く優しい王子様が現れたりしてね!」

ラッタさんわたしと扉を交互に見ながらコロコロと笑った。


わたしはその言葉を聞いてハッとした、ラッタさんは冗談の様に言っていたが、わたしはそんな風には考えなかった〝きっとそうだ夢の国、絶対そうに違いない〟とわたしは胸が躍るような気持ちになった。


そして、この扉がママとわたしを幸せにしてくれる、ここから王子様じゃなくてもいい、わたしは王子様なんかよりもわたしとママを大切にしてくれるそんな暖かい人がいい。


そんな願いを込めながら次の日も又次の日もわたしは扉の監視を続けた。


ラッタさんが来てから3日目くらいだっただろうか、わたしはその日も期待を込めて監視を続けていたがほんの少しだけ冒険をして見る事にした。


このいきなり出現してくれた不思議な扉から王子様じゃなくても良いから誰か…ママとわたしを幸せにしてくれる誰かが現れて来てくれる事を切に願いながらその扉を今日わたしはノックする事にした。





そして、ここからわたしの幸せがとある人物との出会いによって始まる事になる。





『うるせぇー!!今幼女について考えてんだよ!静かにしろよ!』



子供っぽくて、ちょっと変態で、変な顔をする、今よりもっと幼い頃にわたしが夢に見た父親、最高に頼れて最高に面白いわたしのパパである。

お読み頂きありがとうございます。

面白い、続きが気になるそう感じましたらブクマ&評価の方よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 泣けてきました 更新ありがとうございます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ