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フスマin異世界  作者: くりぼう
第一章
3/79

3 時間


家に向けての帰り道きっと今までの人生で一番俺は頭を使った事だろう。


まず自分がどうしたいのかが俺は結局分かっていなかった。別れるを切り出すつもりは無いが、あんな姿を見て好きかと聞かれれば答えはNOだ。じゃあ嫌いかと聞かれればそれも答えはNOだ。唯もう以前の様な存在では無い事だけは確かだった。

そこで結局また考えている自分がいる事に気付き、嫌悪して思考を1分くらい中断させる。これの繰り返しである。愛子スパイラルとでも呼べば良いのか本当に面倒臭い、しかし考えてしまう。そんな自分自身に苛立ちすら感じる。


俺は乱暴に頭をガシガシと掻くと視線を前方へと向ける、いつの間にか俺の住んでいるワンルームアパートの前まで既に帰り着いていた様だ。


何も無い俺にも実は一つだけ他者より恵まれている部分が存在するのだ。

それはこのアパート、実は俺の持ち物件である。


というのも、うちの親族でばあちゃんだけが謎の金持ちなのだ。


何故かこのアパート以外にもマンションや、貸し物件に預金、保険金に至るまでかなりの財産を残していたのだ、ちなみに2年前に老衰で亡くなった。


その際、このアパートと高校入学の時に貰ったシルバーの指輪だけが、今では俺とばあちゃんの繋がりと言うわけである。


俺は物凄い、ばあちゃんっ子で家族の中で一番可愛がられていたと胸を張って自分で言い切れる。

そのせいもあってか他の親族とはそこまでの付き合いが無い。両親や祖父(じいちゃん)は別だが、従兄弟やその親達からは疎まれていた節さえある。金持ちに気に入られると言うのはそういった面も付き纏うのだろうと中学生にして既に俺は諦めていた。



そんな考えが頭を過り俺は思わず視線を目の前のアパートへと向けながらもう少し昔の思い出に浸る事にした。


俺が5歳くらいの時迄はよくこのアパートに遊びに来ていたのだ。今考えると不思議なのだがあんなに大きなマンションを持ちながらばーちゃんはこのアパートで暮らしていた。


有人(ありひと)このアパート大きくなったらお前にあげようかねぇ、欲しいかい?」


「うん、ほしい!!だってここにくるとすっごくげんきになれるんだもん!!ばーちゃんのわっかもほしい!かっけーし!」

当時の俺はアホ丸出しの笑顔で答えていた。


「そうかい、そうかい♪やっぱりここは有人に貰ってもらうのが一番だねぇ〜。しかし、これも欲しがるとはねぇ〜さすが、わたしの孫だねぇ〜。」


ばーちゃんは俺の返事を聞くと凄く優しくどこか嬉しそうな…何となくだが今思い出すと楽し気な笑顔で話をしていた様な気がする。


その話を覚えてくれていたばあちゃんが高校生入学時にいきなり封筒を手渡して来た。中には〝おめでとう〟とだけ書かれた手紙と指輪が入ってた。

このアパートの方は遺言書を残してくれていて弁護士の先生が持って来てくれたわけなのだが・・・


ばあちゃんや・・・。


『アパートは有人へ他の財産は有人以外で分けてよし!!』

と言う一文は要らなかったと思うわけよ・・・


弁護士の先生がいるにも関わらず他の親族は大爆笑・・・・


俺は呆然……………


弁護士の先生は総資産の額を知っているのか視線を俺へ向ける事すらせずに只々居た堪れない表情で見つめて来ていた。


あれだけある遺産の中から一番可愛がられた筈の俺がアパートだけだと分かった瞬間…皆ニコニコ顔で快く譲ってくれたよ・・・


そりゃそうだよな、みんな俺の分与が絶対一番多いと思ってたはずだしな。


確かに金銭的なモノも欲しかったのは間違い無いけど逆に『アパート以外は有人に』となるよりは遥かに良かったとは思っている。


婆ちゃんが本気で大切にしていた場所だし不思議と元気が出る場所だからな。


それに庭のミカンが驚く程美味いのだ。

実は俺は庭のミカンが大のお気に入りで毎日の様に食べていた。

残念ながら今は仕事も忙しくなり帰って寝るだけの生活なので昔の様には食べていない。


今日は帰ってからミカンでも食べるか等と思いながら俺は部屋に戻った。


〜〜〜〜


部屋について着替えた俺はすぐに何をすることもなくその場へと寝転んで天井を見続けていた。


すると愛子スパイラルがまた始まってしまった。そこで俺は思う。

結局気にしていないつもりで物凄く気にしていると言う事を…そんな自分があまりにも情けなくて盛大な溜息を吐く。本当に情けない。


確かに恋愛感情はもう無くなった…あの浮気を見た瞬間冷めてしまったのは間違いない。

それなのに気を抜くと考えてしまう、じゃまだ好きなのか?そう問われれば間違いなく昨日よりも全然好きでは無いだろう。


俺はあまりにも考えすぎて全く自分の感情がわからなくなっていた。

そんな自問自答が堂々巡りを始め、結局考える事をやめた。


そしてふとスマホを見るが愛子からの連絡は一切来ていなかった。


(そりゃそうか、見られてたの知らないもんな。)


一瞬こっちから連絡を入れて綺麗に別れるようかとも考えたが小さなプライドが邪魔をして俺は連絡を取る事を辞めた。


横になったまま俺は静かに瞼を閉じる。


俺が29歳、愛子が24歳からの付き合いでもう3年も付き合っていた。コンビニの現場を見るまでは俺は上手くやれていると勝手に思っていた。何が駄目だったのか、今考えても全く分からない。

仕事の事?それはお互い様だと思う。

イベント事も二人で過ごして来た。楽しかったのは俺だけだったのだろうか?

好きだった、浮気したのが許せない、許せないから戻れない…


「あぁ、そう言うことか…俺は只々悔しかったのか…。」


気付いてしまえば簡単な理由だった。


悔しい気持ちがない方がおかしい。


「なんだ、結局俺はショックが大きすぎて色々と考えてただけか。はぁ〜情けねーな!」

そう呟くと勝手に笑い声が洩れていた。その時どう言う訳かやっと俺はちゃんと泣く事ができた。





俺は未練を断ち切る様にスマホから彼女の携帯番号を拒否して写真の全てを処分した。


これは彼女よりも幸せになりたいとかそんな事では無い、唯の前に進むためのヤセ我慢と男の小さな意地である。


消し終えた俺はテーブルの上に置いてあるミカンに手を伸ばした。


(こんないつまでもウジウジしてちゃ情けねーな。)





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



失恋した気持ちを紛らわすには取り敢えず手近にある仕事が丁度よかった。


俺は自分の感情に気づいた次の日から残業をしまくっていた。



我武者羅に働いている間も時間だけは淡々と流れ続けてもう1ヶ月たっていた。


俺はこの1ヶ月で自分でも驚くほど気持ちが前向きになっていた。


その間彼女とは一切連絡は取っていない、勿論拒否しているのだからスマホで連絡の取りようもないのだが彼女がアパートを訪れることもなかった。


もしかしたら拒否された時点で浮気がバレたと気づいたのかもしれない。


しかし、そんな事は気にもならなかった。

唯一つだけ感じている事が有るとすればちゃんと言葉にして別れるべきだった。


ある日の帰宅途中、アパートの前に差し掛かった時だった、急に後ろから声が聞こえてきた。



「………有人。」


俺が振り返るとそこには俺にとって以前彼女()()()人物が立っていた。

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