28 来客
リノアへ命の大切さを伝えようとして失敗し猪本君を美味しく頂いた日から既に数日が経過していた。
その間特にこれと言って特筆する様なことは何も無かった、まぁ、日常生活の方は毎日仕事に行って、俺の事が大好きな係長に監視され何とかその監視の目を潜り抜けながらどうにかこうにか残業をせずに帰ってくるこんな感じである。須藤の方も特にこれと言った変化は起こっておらず、現状維持のようだった。
家に帰って来てからは夕飯までの1、2時間程戦闘訓練を兼ねて猪本君を探す俺の一日は大体こんな風にして終わりを迎える。
正直あの肉は今まで食べたどの肉よりも絶品だったのだ、お陰であの肉を手に入れる為に必死で戦闘を行い以前より大分様戦い方が様になったのではないだろうか?変わった事があるとすればレベルの方も結構上がりそのお陰で鑑定のレベルが上がり、人物を鑑定する事が可能になった事位だろうか?
ちなみに俺のステータスはこんな感じである。
【名前】アリヒト・フォン・コンノ(32)
【Level】28
【性別】男
【種族】人族
【状態】良好
【職業】公爵家当主
【体力】369/369
【魔力】24892/24892
【力】51
【素早さ】47
【防御力】32
【魅力】51
【スキル】鑑定LvMAX 槍Lv3 火魔法Lv1 水魔法Lv1 身体強化Lv5 格闘Lv2
自分を鑑定して見て一番に思った事が魔力がおかしいと言う事だ、最初は鑑定スキルが壊れているんじゃないかと本気で疑った。
それから魔法について1つ分かったのだが、恐らくリノアが説明してくれたのは初級レベルの話だと思われる、そもそも魔法の能力、身体強化等にレベルがある事を知らないのではないだろうか?
ちなみに身体強化を使うと力、素早さ、防御力に上記数値へ約+1〜+12500の間で自分の意思で調節できる。身体強化のレベルが1上がるたびに恐らく総魔力量の10%身体強化へ使える物だと思われる。
まぁ、ステータスについてはもう少し色々と調べてみないとはいけないと考えているが明らかに俺はレベル関係無しにチート野郎である。
それから砂糖だが、上白糖が某ネット通販で10k、2400円で売っていたモノをお試しで注文しておいたので今度マーロンの所へ持っていってみようと考えている。コップもついでに5個ほど購入しておいた、これは100均にあった。
リノアの方もこれといって何事も起きてはいない。
俺が仕事に出かけている間に家電の使い方や、日本語の勉強をしている様だ。本来なら夜日本語の勉強をする予定だったのだが諸事情により昼間やることにしたのだ。その事情というか原因なのだが、俺である。
もう一度いう、俺である。
リノアは8歳の子供のわりに色々知っており大変に賢い印象があったのだがその認識はまだ甘かった、あいつは天才である。親の欲目だと思っているだろうが決してそうでは無い、あいつは日本語の勉強初日にひらがなを全てマスターしやがったのだ、今ではカタカナは勿論、小学生程度の漢字まで描ける始末である、おまけに日常会話はもう日本語でやっているのだ。
余談だが、最初日本語で話しかけてきた言葉は変な外国人の様に聞こえてまだまだだなとか鼻で笑っていたのだが、気付かないうちに流暢に話せる様になっており、俺はバーレリア語で話かけていると思っていたのだ。どうやら、俺のこの不思議な言語能力は日本語とバーレリア語の判別はできない仕様のようである。
聞き分ける判断は話してるバーレリア人が日本語をうまく話せない場合にはカタコトだったり意味不明に聞こえ、そこで判別できるが、リノアの様に流暢に話をされるとどっちだか俺にはわからないらしい、ちなみに最近はずっと日本語を使っているといっていた。
リノア…恐ろしい子。
それで、昼間に勉強することにした原因なのだが…俺がリノアの様に天才ではないからだよ!何とか自分の名前とYes Noくらいは書けるが、それ以外はまだ見ながらでないと書けないのだ…しかし、読む事はできる様になった。
俺の覚えが悪いのではない、リノアが賢すぎるのだと信じたい…。ちなみに今は書き取りの勉強中だ。
俺がバーレリア文字を書くのに苦戦を強いられているとリノアが蜜柑を食べながらニヤニヤ顔で言ってきた。
「パパ〜いい加減に5歳児程度は書けるようになってよね?教えてるわたしの立場も考えてよ〜!」
「ぐぬぬぬぬぬっ!」
「あ、ここ間違ってる、ここも、あ、ここも違うし。」
更にぷるぷると体を震わせながら耐えていると、蜜柑を一房掴んだ指で指摘しヤレヤレと肩を竦めていた。
「うがぁぁぁ〜!!俺の文字レベルは4歳と3ヶ月くらいはあるはずだ!!」
俺はとうとう我慢の限界に達してしまい意味不明な事を大声で叫びながら足音を立てる様に力強く床を踏みしめ大股開きで風呂へと向かった。
「まったく子供なんだから!」
そんな俺の背後からリノアの残念な子を見た様な呆れた声が響いていた、子供に子供って言われてる俺って一体何なのだろうか。そんな複雑な心境を胸に秘めながらとりあえず風呂にでも入って落ち着こうと服を脱ごうとしたその時、バーレリア側の玄関から音がした。
ドンドンドンッ!
「すみません、少しお話を聞いていただけないでしょうか?」
透き通ったとても綺麗な若い女の声が聞こえて来た、だがそれはこの森の中にある家でしかも夜中に聞くには余りに不自然すぎた。
これ以外にも更に気になる事が俺にはもう一つあった、不安を胸に抱きながら今脱ぎかけた服を素早く着直すと、急いでリノアの元へと向かった。
「はーい、どちらさまですかー?」
俺がリノアの元へと駆けつけると丁度ドアの閂を開けようとしている所だった。
「リノア待て!俺が開ける。」
「えっ?」
俺の切羽詰まった様な声を今まで一度も聞いたことが無かったリノアはその様子に驚きで小さく声を漏らすと閂に触れていた手を離した。
「言うことを聞くんだ、リノアは後ろへ下がって。」
俺は小声でそう呟いてから、リノアを背に隠しながらゆっくりとドアを開けた。
ドアを開けてみると、外は真っ暗で、遠くから獣の遠吠えのようなモノも聞こえていた。そんな場所に不自然なほど綺麗な女が目の前に立っていた。
俺は警戒をしつつ目の前の女へと視線を向け確認をするように足元から相手の顔へとゆっくりと動かした。日本で言えば黒髪に近い茶髪をアップに纏めた、キャリアウーマンの様な印象を持つ仕事の出来そうなイメージのとても綺麗な女だった、その女は俺を見てから少し驚いたような表情を見せたがすぐに平静を装い話しかけてきた。
やはり俺が先ほど気になった感覚は間違いではなかった、気配は3つあるのに、目の前には女1人しかいない、どう考えても普通じゃない。
「あのー申し訳ないのですが少々お聞きしたい事がございまして…」
しかし俺の中でこの女は完全に不審者確定しているのでそんな声には耳も貸さずにすぐ様鑑定をかけた。
【名前】アンヌ(27)
【Level】45
【性別】女
【種族】人族
【状態】良好
【職業】暗殺者 メイド
【体力】799/799
【魔力】649/864
【力】85
【素早さ】79
【防御力】61
【魅力】78
【スキル】短剣lv5 火魔法lv1 身体強化lv2 回避lv2 索敵lv3 投擲術lv2
思った通りこの女の職業は明らかに堅気のそれでは無かった、しかもレベルも俺よりも高くハッキリ言って危険人物である。だが、ここで魅力の数値が気になった、この女の容姿と数値の高さが比例しているのだとすれば俺の五十台と言う数値は…レベルアップと共に魅力値も増えていくのだろうか?もしそうならレベル1の状態の魅力値は一体いくつだったのだろうか…。ふと何かが頭の隅を過ぎったが考えすぎるのは今はやめるべきだと思い直し目の前にいる暗殺者へと意識を集中した。
「あー1ついいか?」
「はい?」
「俺は暗殺者に知り合いはいないが?アンヌさん」
「なっ!」
アンヌは驚きで声を上げた。
その声と同時に俺は魔力を纏い右足を前方に踏み込むと即座にアンヌの背後へと回り込み手刀を首筋に押し当てると意識を刈り取った。
余りの展開に残りの二人は驚いたのだろうか、反応のあった気配の内1つは既に逃走を図ったらしく近くにはいなかった、ただ、遠くで草木が揺れる様なそんな音が微かに聞こえていた。
もう1つの気配の方は遠ざかるどころか明らかに近付いて来ていた、俺は瞬時に身構えたが、近づいて来た気配の主は俺の目の前まで来ると即座に足元に平伏していた。余りの事に俺が動揺を露わにすると更に土下座の主は言葉を発した。
「誠に誠に申し訳ございませんでした!!」
しかもその土下座の主をよく見て見ると夢にまで見た亜人種の獣耳を付けた男だった、こんな形の初対面等想像もしておらず何とも微妙な気持ちになってしまい、一瞬魂が抜け出てしまうのではないかと本気で思った、軽くトラウマ案件であったがショックを受けてばかりも居られずリノアが背中にくっついて来たのでリノアの頭を人撫でしてから女をいつも通りガムテープでぐるぐる巻きにし部屋に放り込むと土下座の獣人を鑑定する事にした。
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