23 親娘の証明
家に戻りお風呂に入った後、俺たちはリビングと化したフスマの部屋で寛いでいた。
だがそんなまったりとした雰囲気は俺の一言で少しだけ緊張した場所へと変化する。
「リノアこれを見てくれ。」
そう言って俺は自分の身分認証プレートに魔力を通した。
魔力を通したプレートから何も無い空間へと文字が浮かび上がった。
【名前】アリヒト・フォン・コンノ(32)
【性別】男
【種族】人族
【階級】上流階級 貴族
【爵位】公爵
【職業】公爵家当主
「…嘘パパ」
リノアは目を大きく見開き口を両手で押さえたまま僅かに固まった。
「俺の身分認証プレートだ、見ての通り俺は貴族になってしまってた…。」
しかし、リノアは真剣に俺を見ながら頷いてくれた。
「うん、うん…そっか。」
俺が申し訳なさそうに見ているとゆっくりと話し始めた。
「あのね、パパ私が零民だって話はしたでしょ?」
「……?あぁ、聞いたぞ?」
俺は首を傾げて答えた。
「だからきっとこれ、問題に成っちゃわない?」
「悪い、リノアちょっとわからない。リノアが言いたくないことは聞かなくてもいいと思ってたんだが、それじゃこれから、お前を守ることが出来ないかもしれない。だからそもそも零民とは何か聞いてもいいか?」
もう無理だと諦めていた娘という存在を前に俺はハッキリと言ってここ数日の間浮かれに浮かれていただろう。
だから俺は常に楽しく、2人で笑っていれる様に、それさえ出来ていれば問題が無いと考えていたし、俺の認識としては零民とは蔑まれた存在だと思っている、何故蔑まれているのかその辺りが全く理解できていないが、それを聞くことでリノアが苦しんだり悲しんだりするのであれば知る必要は無いと考えていたんだ。
だが今日ミアと会話をしてそれではいけないと思った。
知らないと言うことはそれだけで罪であり、危険への対処が遅れてしまうと考える様になった、もう目を背けている場合では無いと。
そう、俺はリノアの父親として、リノアの悲しみの原因でもある、零民という存在の意味を初めから知っておかなければいけなかった。
俺は普段の生活が楽しくて、そんな当たり前のことからも逃げているという事実を今日ミアから教えられた気がした。
「…うん、わかった。」
俺が真剣である事を理解したリノアがゆっくりと教えてくれた。
そして俺は目蓋を閉じながら考えていた。
リノアの説明によると零民とは生まれてすぐに魔力的波動を出さなかった者のことを指す言葉の様だ。
(まずココ、俺はきっと生まれてすぐ光ったりしていない)
どう言うことかと言うと産まれたばかりの赤子は一瞬光の様なものを身に纏うのが当たり前とされている様で、それを起こさない赤子は魔力が0ということは無いがバーレリア人からすれば無いのと等しい魔力量で有り、それは例外無く魔力量の成長が今後望めない者達、つまりコレから国のために役に立つ可能性が無いもの達を指す蔑称だった。
(そしてココ、俺はリノアの説明によればかなり身体強化が強いらしい、と言う事は魔力量が多いと考えられる、別に最初の光関係ないんじゃね?)
俺はゆっくりと目蓋を開いて聞いてみた。
「…零民から這い上がれる方法は無いのか?」
「…あるよ」
リノアは俯きながら悲しそうに呟く様に答えた。
「白金貨を…教会に白金貨相当の金貨を寄付すれば、平民として認めてもらえる洗礼を受けられるの…。」
俯きながら答えた。
「なんだ、そんな事か?それで白金貨って金貨何枚なんだよ?」
「そんな事?今パパそんな事って言ったの?金貨だよ?銀貨じゃないの!金貨100枚よ!!」
リノアは怒りを帯びた瞳で睨みながら叫んだ。
「それが出来ないと結局は役立たずの烙印を押されて、王都で普通の生活をする事も出来ない、普通の街や村でも厳しいの。中には自ら奴隷として生きている者もいるの!」
「別に俺は、金貨100枚が安いとも思ってないよ?そういう意味でそんな事呼ばわりしたわけでも無い!ただ、娘がそれで幸せになれるのなら俺にとってはそんな事なんだよ。」
「…ありがとうパパ、わたしは一人でずっと寂しかった…バーレリアは13歳で成人なの…パパと始めて出会った時に一緒に暮らそうって言ってくれた事が本当に嬉しかったの、成人を迎えると本格的に零民に対して扱いが酷くなるの、だから、わた…わたしの我儘なんだけどパパと13歳を迎えるその日まで一緒に居たいと思った、楽しかったの、せめて大人になるまでだって、自分に毎日言い聞かせて、金貨100枚なんて無理だから…だからそうなったらこっそり居なくなろうって…。」
リノアは瞳を真っ赤にさせ、大粒の涙の溢しながらも俺にそれでもしっかりと伝えて来た。
「何でだよ、何でそこでお前は諦めてんだよ!!!居なくなる?ふざけんなよ!!」
「わ、わたしは、わたしは魔力量が驚くほど少ない!戦う力も無いの!もちろんお金を稼ぐ手段もないの!!居るだけで迷惑しかかけない零民なの!」
「・・・・・・・・」
俺はリノアの悲痛な叫びを聞いて押し黙った。
(あぁ、リノアは色々知ってて頭もいいがまだまだ8才だった。完全に俺が悪い、何でも諦めて流されてた自分に重ねちまった。)
「ママも…あんなに凄いママでも無理だったの!!」
リノアは席を立ちカラーボックスから小さな袋を持ってきた。
そこから金貨を7枚取り出して俺に見せた。
「1年間、ママはもう1年間も私の為に危険な仕事をしながらお金を作り続けてくれてるのそれでも足りないの!何度ももう辞めてほしいと手紙を出した、でも全然辞めてくれないの!零民が零民の私がいるから!!」
そう言って悔しそうに金貨を握りしめた。
「・・・その言い過ぎた、つい…な…悪かった。」
(というか、ん?ママ?あれ?リノアのママ生きてるの?)
「すまん、リノア、リノアのママって生きてるのか?」
「なっ!!」
リノアの顔色が変わった。
俺はハッとして慌てて言葉を続けた。
「違う、そういう意味じゃない!!いいか?勘違いすんなよ?俺とリノアが出会ったとき言い出し辛そうだったし、その…1人で暮らしてるっていってたろ?だから俺はてっきりそういう事なんだと勝手に思い込んでこれまで聞いてこなかったんだよ!」
そこでリノアは表情を緩めて「あっ…」と声を漏らした
「ママは勿論生きてるよ…今までボルネアって街にいたみたい。」
「そうか…」
そう言って一拍置いてから言葉が漏れた
「………だったら俺はリノアのママさんにも取り返しがつかない事をしちまったのかもな…」
だが、その呟きはあまりに小さくリノアの耳には届かなかった。
「リノア身分認証登録をやってくれ、俺の想像通りならそれで、零民問題は解決するはずだ。」
(ただ、別の問題が生まれる可能性が大なのが心苦しいが…)
「そ・れ・に・・・もし解決しなくても俺が解決してやる!」
そう言って俺は徐にソファーの上に立ち押し入れボックスから金貨のつまった袋を取り出してテーブルの上にその中身を頭上からまるで降って来た様にばら撒いた。
________ジャラジャラジャラッ
机の上にばら撒かれた大量の金貨を前にしてリノアは硬直した。
「なっ?お前のお父様、最高だろ?」
悪戯っ子のような顔をして舌を出した。
「・・・・・・・・」
リノアは固まったまま、コクコクと首だけ動かしていた。
リノアが落ち着いてから、1日でこの金貨を稼いだ事や、マーロン商会との砂糖の話等をした。
「はぁ〜っ……」
「あのさ、パパってさ、そう言うところあるよね〜?子供ぽいって言うかさーもう良い大人なんだからそう言うのやめた方がいいと思うよー?」
焼肉屋の時とは違い、泣き笑いしながらも瞳はとても優し気に微笑んだ。
だから俺は…
「こういうお父様も結構好きなくせにー!」
あのムカつく顔で返した。
「「ぷぷっ!あはははははは!」」
しばらくの間、2人で笑い合った。
「パパ、もう大丈夫、わたし登録やってみるね!」
リノアが笑顔で言った。
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