19 盗賊
あれから1時間くらい馬車に揺られて俺たちは今カルフールと言う村を目指している。
(あのさ?近くの村だって言ってたよね?1時間で着かない村は君たちとってはどうだか知らないけど、日本人の俺からすると全然近く無いからな!)
ちなみに気弱そうな商人のご主人はロイスさん(35)、ふくよかで優しそうな奥さんはメリサさん(31)と言うそうだ、ソバカス混じりの金髪コミュ障ちゃんはフニルちゃん(15)と言うそうである。
少女はやはり何か俺を避けている節があるので話しかけていない。
ずっと俺をチラ見しては目を逸らすのだ、嫌でも分かる!俺は空気が読める男である。
そんな時だった、前方から何かの気配を感じる、ゴブリンの時に感じた纏わり付く様な嫌な感じだ、すぐ様俺はみんなにその事を伝えることにした。
「あの、この先何かいる様なので少しだけ馬車を止めて待っててもらえませんか?」
「え?は、はい。分かりました!」
ロイスさんは慌てて返事をしてから馬車を止めた。
ちなみに御者も一緒に逃げたそうだ、マジでクレーム案件だ。
「だ、だ、大丈夫でしょうか?」
奥さんも先ほどの恐怖がまだ抜け切れていないのかかなり震えているのが分かる。
「……っ…」
フニルちゃんも同じ様だ、下唇を噛んで自分の体を抱え込む様にして蹲っている。
(まぁ、あんな目に合えば当然だわな)
俺はみんなを安心させる様に『大丈夫ですよ、気にしないでここでお待ちください!』と言うとその反応があった方へ急いで向かうことにした。
(今の俺何か勇者ぽくてちょっと良かったな!)
そんな事を考えながら走っていると目の前に熊のモンスター通称熊田さんがいた。何かバーレリアでの名称があったのだが正直覚えていないのだ、熊が熊田さん、猪が猪本君と呼称している。
熊田さんは早速俺を見つけるとまるで旧友にでも出会ったかの様に勢いよく近づき、抱擁をするかの如く俺に向かってその分厚い右腕を巻きつける様に振り下ろして来た。
俺はそれを一瞬受け止めてやるべきかと考えたが『いや、死んじゃうからそれは無理』と思い直し、身体強化を使って素早くしゃがみ込んでそれを回避し、そのまま立ち上がる勢いを利用して、ガラ空きになった顎へと肘打ちをお返ししてあげた。
あまりに情熱的なお返しだった為か熊田さんは感動を隠しきれずにヨロヨロとなりながら今度は両手でハグをして来ようとしたので、俺は押し入れボックスから槍を取り出し、そのまま熊田さんの首へと魔力を纏わせた槍を負けじとグッとそれは心を込めて熱く深く突き刺して返してあげた。
満足したのか熊田さんはピクリとも動かなくなった為、俺は『うんうん』と頷き『いつもありがとう』と言ってから熊田さんが持って来てくれた魔石をありがたく頂戴して、押し入れボックスへとそれをしまった。
そこでふと熊田さんの体が気になり、俺は熊田さんも一緒に連れて帰るべきか迷ったのだが、ドリー◯キャストがまだ入ったままになっているのを思い出して『さようなら、またね!』と挨拶をしてからその場へと置いて帰る事にした。
俺が帰ってくると3人とも安心したのか緊張が解けるのがすぐに分かった。
「もう大丈夫ですよ、熊田さんが会いに来てくれただけでした。」
「は?熊田さんですか?」
(あ、いけね、俺にしか通じないやつでした。)
「あー熊の魔物ですよ」
俺がそう言い直すと3人と顔色を真っ青にしてもう大丈夫なのか?怪我はしていないのか?と仕切りに心配してくれた。
「えぇ、そんな大した魔物じゃ無いので大丈夫ですよ?」
俺が不思議そうな顔でそう言うと、3人ともビックリした顔をしてから教えてくれた。
何でも熊田さんは冒険者討伐ランクでBランクに当たる魔物だそうでとても強いらしいのだ。
(えぇー熊田さんめちゃくちゃ弱いけど…魔石をくれるとてもいい人ではあるけど…)
その後もいろいろな話をしながら村を目指して進んだ、魔物の襲撃もそれ以降は全然なく順調な旅路だった、ちなみにこの一家は元々この村の住民で王都からの商談の帰りだったらしい。
それから更に1時間後漸く村が見えて来た。
(村まで2時間…コレ絶対近くの村って言わねーから!)
村には特に門番なども居なく、ここ大丈夫なのか?と顔に出ていたのだろう。
ロイスさんは苦笑いをしてから俺の疑問に答えてくれた。
「ここはその…零民が主に暮らしている村ですから…」
(零民の村だから門番がいないってどう言う事?というかここリノアの故郷じゃねーの?)
俺が更に不思議な顔をしていたからであろうか、もう少し詳しくロイスさんが話してくれた。
ここの領主はリズベラートという人で零民を冷遇するのに反対をしている貴族の人でそういう民を集めてここで生活がしやすい様にしてくれている大変立派な人らしい。
(リノアの恩人だな、今度と◯やの羊羹を持っていってあげよう。)
それで零民は魔力が低いから門番は逆に危ないというのだ、もちろん夜中には私兵の人が見回りなどをしてくれているそうだ。
(いや、昼間もせめて監視だけでもやった方がいいんじゃね?)
そう思ったが何か理由があるのだろうと俺は何も言わないでおいた。
とりあえず、村までの護衛は終わり俺はこの家族から離れる事にしようと挨拶をしているとコミュ障の少女がいきなり俺の前にやって来た。
「あ、あの危ないところを助けて頂きまして、本当に本当にありがとうございました!!」
少女はやっとお礼が言えたことへとても嬉しそうな顔をしていた。
「いや、気にしないでよ、あそこで声が聞こえたのも偶然だったしな。」
(コミュ障少女よ、そんなに人と話せたのが嬉しかったんだな…良かったな!)
そんな感じで俺たちはまた機会がれば会おうと約束してから和やかに別れを告げあった。
ちなみに領主はフランス人じゃ無さそうだった。
それと盗賊はその領主の私兵に引き渡して置いた。何故だか私兵がとても嬉しそうな顔で受け取っていた。
何故だ?
(さてと、これからどうしようかねー冒険者ギルドにでも行って魔石でも売るかな…)
そんな事をを考え、ふと腕時計を見るともう夕方の4時だった…。
俺はコレは絶対に怒られるパターンだと覚悟を決めて全力で森の家へと帰る事にした。
俺はもう死に物狂いで道中のゴブリンなどを無視しながら必死に家への帰路を急いでいた。
やっとの思いで家に帰り着きすぐに腕時計を確認したところまだ、4時30分だった…。
(えー俺馬車よりも速いのかよ…ま、まぁ今回は怒られなくて済むからいいか…)
安堵した俺は『ただいまー』と胸を張ってリビングへと向かった。
(どんだけ怒られるのが怖かったんだよ、俺は…)
リビングに入った俺はどんな魔物を今日は倒したのかをリノアへと話した。ついでにドリ◯ャスが邪魔で魔物が入れられない事を伝えると『置いていけば?』と当たり前の返答を頂いた。
(そこに気付くとはお前天才だな!)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次の日、今日の俺も狩三昧だったのだが…実は猪本くんを背負ったまま、家に向かっている。
馬鹿なのでまたしてもドリー◯キャストを出し忘れていて、怖くて押し入れボックスに入れることができないのだ。
なので一度家にドリー◯キャストを置きに戻ろうとしているのである。
しかし、今日の狩り自体は実に順調だった。
遭遇した魔物は、ゴブリン4匹に狼が3匹、猪本君が1匹だった。
残念ながら熊田さんには遭遇しなかった。熊田さんに遭遇せずに残念だというのもおかしな話ではあるが…
ちなみにオオカミだがやはり間違いなく最初の個体は異常だったようだ、今回遭遇した狼も大型犬くらいの大きさしかなかった。
それと討伐中に何度か又頭の中に『レベルアップ』という声がしていたがスキルを獲得する事はなかった。
「しかし、これは思ったよりも楽勝だわ。この短時間で、魔石8個に、猪本君1頭だぞ。」
狩りをはじめてまだ1時間足らずしかたっていないのだ。
そう呟いた瞬間少し離れた場所から人の気配がした。
どうやら纏わり付くような不快感は、魔物の魔力だったらしく繰り返し、戦闘をしているうちにそれが魔物なのか、人なのかというのがハッキリと認識できる様になっていた。
更に盗賊のような殺気のこもった魔力は肌を突き刺してくる様な感じが有る。
今にして思えば微量だがリノアからも魔力を感じていたみたいだ。
「しかし、これ本当に不思議だよな」
そう呟いてから俺は左手に持った槍を眺めた。
◆ゴブリンの鉄槍
[概要] 人族ではなくゴブリンが作ったもの。
一般的な槍よりも性能はかなり劣る
[値段]銅貨17枚
(色々と謎は残るが大変便利でよろしい!!)
俺が得た鑑定はどうやらアイテム鑑定のようで、人物には使うことが出来なかった。
「おふ、そうだった、人の気配がしたんだった、ちょっとだけ見に行って見るかな。」
俺は猪本君をおんぶしてから人の反応があった場所を目指した。
「ありゃ、確かに人の反応で間違いないが、いくつか反応の微妙に違うものがあるぞ??」
俺は首を傾げとにかく急いだ。
近くに来て直ぐにその原因が分かった。
(…あれ、絶対盗賊だろ…)
面倒くさそうな顔をした。
(人の反応が8つ、そのうちおかしな反応が5つか…)
「あーこりゃ間違いないわ…」
目の前には1台の馬車を、取り囲み始めた5人の男達の姿があった。
(どうすっかなーでも見ちゃったしな…つーかまた相手人間なんだよなぁー)
俺は渋い顔をしながら状況を見ていた。
すると1人の山賊らしい男が何かを叫びながら馬車を剣で斬りつけ始めた。
(あーあれ鍵しめてるのか。つうか、短気すぎだろ…しょうがない、行くか…正直、ゴブリンやオオカミより少し強い程度、熊田さん以下ってところだな。)
俺は渋々ながらも助けに入る事にした
俺は男達に近づいて行き、挑発する様にこう言った。
「あーすいませんが、ちょっと静かにしてもらえませんかね?この子、眠ったばかりなんで!」
そう言って背中におんぶしている猪本君をチラッと見せた。
1人の男が声をかけてきた。
「失礼だが、君は誰かね?我々になにか用でも?」
(あっれ?何かおかしいぞ、普通こういう時って『てめぇーふざけんな』とかなって斬りかかって来るんじゃ無いの?というか、よく見ると身嗜みが盗賊っぽく無いよな?それより俺がスベったみたいになってんじゃんかよ!)
恥ずかしくなり心の中で悶えていた。
だが俺の意識は即座に現実に連れ戻された。
「あ、これは失礼しました。何か馬車に対して攻撃の様な事をなされている様でしたので、気になりまして。」
そう言って俺は軽く会釈をした。
「あー、なるほど、それはこちらこそ申し訳なかった、大した事では無いので、どうぞ先に進まれよ」
男はうっすらと笑みを浮かべながらいった。
(なーんかこいつ胡散臭せーな……)
そう思いながら立ち去るべきかどうか考えていると馬車から声が響いた。
「誰だか知らぬが、頼む!!助けて来れ!!礼はする、コイツら護衛の分際でワシの金を狙っておるのだ!!!!」
すると取り囲んでいた男の1人が反応した
「うるせぇ〜テメェーはさっさとくたばってその金をこっちに渡せばいーんだよ!!」
「チッ、低脳供が!!」
仲間の男の失態を目にして先ほどの男から笑みが消え、態度が豹変した。
俺はその様子を目にしてこれは調子に乗る絶好の機会だ、チャンスがやって来たと思った。
「アレアレ〜??せっかくの紳士な態度が台無しですよ〜♪」
俺は揶揄う様な口調で言い放つ、ちなみにニタニタのドヤ顔である。
「まぁいい、貴様も死んでいけ!」
挑発が効いたのか、男は急に斬りかかってきた。
「うわっと!」
俺は後方へ回避して、おんぶ中の猪本君に頼る事にした。
「猪本君、君に決めた!」
そう言うや否や俺は猪本君を放り投げた。
男は剣で斬りつけた体勢のまま腕が伸び切っており回避が間に合わず、猪本君が直撃した、その衝撃で剣を落としそのまま下敷きになった。
「ぐわっ!」
すぐさま俺は剣を右手で拾い、左手に持った槍を別の男へと投げ刺した。
その勢いのまま更に、馬車を斬り付けていた男へと近づいた。
男は慌てて、両手で持った剣を俺に対して振り下ろしてきた。
俺はすぐさまそれを左に回避。
すかさず振り下ろした剣を握ったままの両手首を切り飛ばした。
「ぎゃぁぁぁぁぁあっ!!」
両手首を失った男はその場に蹲りバタバタともがき続けている。
俺は一瞬だけど動きが止まってしまった。
(やっぱりだ、昨日から何となくそうじゃないかと思ってはいたが…魔物を対処したのと気持ち的に変わりがない…)
実は昨日の盗賊の時にも感じていたのだが、殺したくはないが殺せない訳ではないという妙な感情を抱いていた。
(これも指輪のせいなのかな、日本でこの感覚は危険だぞ…)
それを見ていた残り2人の男は「「ひぃ〜っ」」と同時に悲鳴をもらし
その場から逃げ出そうとした。
(………ちょっと魔法使ってみるか。)
俺は手のひらを前に突き出し、アニメやゲーム等のファイヤーボールをイメージした、手のひらが段々と暖かくなっていきその先には炎の球体が出現していた。
それは暖かいだけであり、決して熱いと言うものではなかった。
俺は頭の中で球体がドッジボールのボールの様に飛んでいく姿をイメージした。
すぐさまそれは現実として表現され、逃げていく2人の姿を追うように飛び立つとすぐに直撃した。
直撃した炎弾は消炭とまではいかないが、それなりに威力はあり直撃した男達を火だるまにした。
「ぎゃあああああああ、あついあついあついあつい!!!!」
「た、たすけてぇーーぎゃあああづいぃぃぃぃ!!」
それぞれの男たちは地面を転げ回りながらバタ狂いやがて黒焦げのプスプスになって動かなくなった。
俺は馬車の方へと声をかけた。
「悪いんだけど、まだ出ないでくださいねぇ。」
俺は周囲を確認する。
手首を切り捨てた男はピクピクと痙攣をしており出血多量で虫の息だった。
槍を投げつけた男はそのまま即死だったようである。
俺は男から槍を抜いて剣を放り投げた。
そしてゆっくりと俺は猪本君を投げつけた男の確認をした。
「なんだ、お前何故逃げない?」
何もしていないのに逃げようとしない男に対して不思議に思い問いただした。
「ち、ちかづくな、このバケモノが!!!」
心の底から怯え切った瞳をしながら叫んできた
「・・・・・・・・・」
俺はそれを無視して近づき、男の状態を確認した。
「あーなんだ、お前あれで両足が折れてたのか、ご愁傷様♪」
そう言ってニヤニヤ顔で男を必殺のガムテープぐるぐるの刑に処した。




