13 恐怖
ポイント&ブクマ付けてくれた読者の方々どうもありがとうございます。
身体強化の魔法にテンションを上げすぎて気づけば俺は森のかなり奥深くまで来てしまっていた。
しかし、ここまでの道中だけでも魔力の流し方の割合など、それなりに扱える様になってきたのでは無いかと思う。
そして、ここから森の家までかなりの距離を移動したと思うのだが、大した時間も掛かっておらずおまけに全くと言っていいほど疲れていない。
(あ、俺これもしかして勇者とか面倒な事押しつけられずに何かチート的なパワー身につけちゃった感じじゃね?)
ハッキリ言って俺は今までにない程このファンタジーな魔法という存在に浮かれきっていた。
(夢にまで見た謎パワー!これは日本でも俺、勝ち組決定だろ!)
その後更に俺は森の奥の方へと進んだ。
〜〜〜〜〜〜
「あちゃー少しはしゃぎすぎたか……てか魔物いるのに少しまずったな。」
そう言って周囲を確認してから大きく背伸びをした。
今考えるとこの時点でも俺はまだ慢心していたんだと思う。
(しかし、森かー日本の街中に住んでたら滅多にこんな場所にはこれないよなぁー)
森の中は都会に疲れ切った俺の心を十分に癒してくている感じがした。
周囲には沢山の大きな木が聳え立ち、その隙間からは太陽の光が差し込んでキラキラと輝いている。
俺は大きく息を吸って大自然の空気を堪能していた。
すると…
何かガサガサと草が揺れる音に混じってガチャガチャとした金属音が聞こえてきた。
「…なんだ?この音どこからだ?」
(こんな所で音ってやっぱ魔物かな…やべー逃げるしかねーな。)
「取り敢えず、魔力を纏い直して上から様子見てみるか、逃げるにしても敵の位置は知っておくべきだろうし?となるとやっぱ木の上から見たほうがいいな。」
すぐにきょろきょろと周囲を見渡し、枝の太い丈夫なそうな木を探した。
「…あった!」
俺は両足にグッと魔力を込め、思いっきりジャンプした、一旦途中の枝に降り、それを2度3度と繰り返し目的の枝へと飛び降りた。
(さて音がしたのはあっちだよな……なんだアレは…人か?くそ、これ登り過ぎたな。)
視界の広さを優先させてしまった為、思ったよりも高い所へと登ってきてしまっていた。
更に発見した対象が遠く肉眼では見え辛かった為、俺は上着のポケットからスマホを取り出し直ぐにカメラモードに変えズームで見てみる事にした。
(あれは…少しぼやけてるがやっぱ人間のおっさんだな、動けないのか?あ、俺もおっさんでした。
うーんさてと、どうすっかな…見つけちまったしな〜正直魔物と戦闘中とかなら考える余地もなく逃げるんだが、何かそういう感じでもないんだよなぁ〜。しかし、ここで見捨てたらリノアの顔真正面から見れなくなる気がするんだよなぁ〜あんまりあの人に興味とかないんだがな…仕方ない…か。)
そう考えた俺は一先ずおっさんの近くまで行く事にした、倒れていたおっさんはどうやら騎士の様で40代くらいのガチムチでプロレスラーの様な人だった。
(助けるにしてもさ〜せめてさ〜女騎士にしてくれないかな〜…プロレスラーって…)
内心そんなクソ最低な事を考えながらも俺は騎士へと近づき、そして絶句した…。
(…ッ…な、何だこれは生きてるのか…?)
俺はすぐさま意識を騎士へと戻し声をかけた。
「おい、アンタ、生きてんのか?一体何があった?おい?意識あるか?」
その騎士の左肩は血塗れで元々あったであろう鎧のショルダーごと何かに食いちぎられ骨が見える様な酷い状態だった。
俺が何度か声をかけていると僅かに騎士の首から唾を飲み込んだ時のようなそんな反応を見せた。
「よし、まだ生きてんな?どっか休める場所まで連れて行ってやるからもう少しだけ頑張れ!わかったな?」
俺がそう叫んだ瞬間…
奥の方から何かがやってくる気配がした。
ガサガサッ
どんどん音が近づいて来る。
俺は念の為に更に魔力を込めて、身体強化を全力にした。
「誰だ?誰かいるのか?魔物か?」
すると木の影から何かが飛びかかってきた。
俺は咄嗟に身を屈め、転げるように左横へと回避し、飛びかかって来たモノの正体を確認した。
「あれは……オオ…カミな…のか⁉︎」
(……それ…より…なんだ…ッ。)
目の前のオオカミは真っ黒な毛並みで全長3メートルくらいはありそうなバケモノだった。
その口元にはさっきまで人間だったモノの一部を咥え、口元には血が滴り落ちていた。
(アレは…足な…のか…)
オオカミはその場で動きを止め、獲物を観察する様にじっと俺へとその凍えるような冷たい視線を向けてきた。
その視線を向けられた瞬間、俺とオオカミの関係性がハッキリとしてしまったのが自分でもわかった。
俺は恐怖で体がガタガタと震えだし、そのまま蹲ってしまいそうな体を必死に支える事しか出来なかった。
(あ…ああっ…ぁあっ…に…にげ…ない…と…にげないと…こ…っここっで…し、しんでしまう、逃げないと!!)
俺はその一瞬で完全に騎士の事が頭から消え去っていた。
(クソッ!くっそ!クソクソくそくそっ!うごけうごけうごけっ!、、うごけえええええええッ!)
俺の足は恐怖から完全にすくみあがり、その場に張り付いたまま全く使い物になら無くなっていた。
するとその巨大なオオカミは鋭い眼光にギラギラと濁った光を宿しながら、口の中に残っていたその人間の一部と思われるモノを『バリバリ』『グチャグチャ』とまるで俺に聞かせるように音を立てながら食べ始めた。
次はお前を喰わせろと言わんばかりに。
「……ぁぁああぁっ…く、くるな!くるな!くるなバケモノォォッ!!」
気付くとあまりの恐怖に涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、錯乱しながら手近にあった、枝や石を投げまくっていた。
「グルウルルルルッッ」
そんな俺を嘲笑うかの様にオオカミは涎を垂らしながら更に飛びかかって来た。
「…ぁぁあっ… ぐあぁぁぁっ!!」
俺は恐怖から両手で頭を庇うようにクロスを作りただ怯えるように蹲りかけた、だがそんな俺を狼は弄ぶようにその大きな頭で俺の身体を後ろの木の方まで吹き飛ばした。オオカミに吹き飛ばされた瞬間、物凄い異臭が俺の臭覚を刺激した、これが死の匂いなのだと自覚するのにさほど時間は必要では無かった。
バゴッ!!
「う…ううっ…うっ…」
(死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない…)
ただ、一点しか思考をする事ができなくなっていた俺に木の影から誰かの声がした。
「い、いきている…か…。ま、巻き込んで、すま、なかった…わ…私のこ、事はい、いから逃げ…ろ…。」
震えながら恐る恐る声のした方へ視線だけを向けるとそこにはさっき俺が自分の都合だけで助けようとして自分の都合だけで忘れてしまっていた今にも生き絶えそうな騎士の姿があった。
その姿を確認した瞬間、俺は目は大きく見開いて固まった。
こ、こんな状態で俺の事をこの人は気にする事ができるのか?
俺は騎士の存在すら忘れていたのに?
自分は死にそうなのに俺には逃げろとそう言ってるのか?
俺は自分だけ助かりたい、生き残りたいと思っているのに?
この人は俺を巻き込んだと謝ったのか?
俺はリノアに顔向け出来なくなりそうなのが嫌で助けただけで別に騎士の事を心配していたわけじゃないのに?
(俺は一体何なんだ?自分の都合で助けようとして、自分の都合でそのことさえ忘れ、自分だけが助かればそれでいいと思っている…。
ははっ…本当日本でも思っていた事だが俺は何て醜くいんだ、本当にクズだな…。でも、それでもそれでもそれでも生きたい、俺はそれでも生きたい!死にたくない!)
もう一度騎士へと視線を向け、じっとその騎士の姿を目に焼き付ける様に見続けた。
だが、俺には名前も何も知らないこの人を命がけで助けてやりたいなんて気持ちは微塵も浮かんでこなかった。
(…はは、本当に俺はクズらしいな、普通の人ならここでこの人の為に命なんか張っちゃうのかな?俺には無理そうだ、名前も知らない人より自分の命の方が大事だわ、すまん騎士。)
そしてグッと表情に力を込めてオオカミを始めて睨み返した。
「ただ、自分が生き残るためにもあのクソやろーはどうにかしないと駄目なんだろ!!!!あーわかったよ!クソクソクソクソわかったわかったよ、やってやるやってやる!やってやる、あいつをぶっ殺す!ぶっ殺してやる!」
俺に覚悟が生まれた瞬間だった、何処か日本と同じだと考えていた、いつでも帰れる、俺にとってのこの世界はいわゆるご近所だった、ただフスマの先にある場所、それだけだった。
(くそ何が勇者だ、何がチートだ、何が転生だ、何が魔法だよ……こんな、こんな世界にすき好んで来たいと思う奴なんか思う奴なんか……)
そう思考を張り巡らせているとオオカミが獰猛な牙をギラつかせ、俺を食い殺そうと物凄い速度で近づき、俺の頭を噛み砕こうとしてきた。
「こんな世界に単身来ようとする奴なんてな、頭がぶっ飛んだ変態のドMやろーだけなんだよぉぉぉぉぉッ!!!!」
俺は口を大きく開き飛びかかって来るオオカミの首を左手で無我夢中で必死に払い落し、それと同時に左足を前に突き出し力強く地面を踏み締め、そのまま逆の手で思いっきり魔力を込めてオオカミの顔面を殴りつけた。
「くたばれクソやろぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
ドガンッ!!バキバキッグチャッ!
生々しい音と共にオオカミはピクピクと痙攣をし始め、やがて動かなくなった。
「………はぁ‥はぁはぁっ…」
肩で息をしながら自分の殴りつけた場所へと視線を移した。
「…………………嘘だろ。」
オオカミの左耳から側頭部を粉々に粉砕していた。
(身体強化の事舐めてたわ…ここまで変わるモノなのかよ…これ日本人に今のまま使っちゃダメなやつだわ…ていうか、木に飛ばされた時もそういえば怪我すらしてないぞ、俺。)
俺は静かに右手を見つめ、左手でその血塗れになった方の手を拭った。
だがそこに忌避感は感じなかった、ただ生き残った、今回は死ななかった。
只々、その事への安堵からかその場にへたり込みこの世界の事を考えていた。
(やらなければ次は俺がこのオオカミの様になる。殺す事に躊躇っちゃ絶対ダメだ!)
そしてここは日本ではなく異世界なんだと言う事を強く胸に刻み込んだ。
決意の様なものを堅めながら今はもう動かなくなったオオカミを唯、見つめ続けた。
そんな時、頭の中で声が聞こえてきた。
『レベルアップ スキル〝鑑定Lv1″を獲得。』
(は?やっぱレベルあんの?鑑定?つうか誰?鑑定も気になるが現在のレベルってどうやって確認すんだよ!やっぱあれか…)
「そうだ!おっさんは?」
俺はレベルやスキルのことも気にはなるがそれでも今は騎士を優先すべきだと考えを改め、鉛のように重く感じる体を引き摺りながら騎士の元へと向かった。
「おい、おっさん生きてるか?まだ生きてるよな?」
俺が呼びかけると騎士は血塗れの肩を揺らしながらただ一言だけ。
「み、見ていたぞ…あ、ありがとう…。」
それだけ呟くと気を失ってしまった。
死を覚悟していた時よりも瞳に力が宿っていた、恐らくおっさんは大丈夫だろうと安堵したのはいいが俺はこれからどうしたものかと考えた、この騎士をここにこのまま放っておく事はできず、結局連れて帰るしか無いかと思ったその時だった。
「な、何だこれは!おい、貴君がコレをやったのか?」
振り返ってみると凛々しいブルーの髪色をしたショートボブの若い騎士風の女と見るからに執事風の鋭い目をした年老いた男がさっきのオオカミと俺を見比べながら話しかけてきた。
「あーそうですよ、と言うかですね、今はこの騎士の人をどうにかしたいのですが…」
そう言って俺が視線を横たえた騎士へ向けると釣られる様に女騎士も視線を向ける、すると大声で叫んだ。
「ア、アーレンでは無いか!!一体何があった?知っているなら詳しく話せ!」
そう言っていきなり俺の肩を掴んでガシガシと揺すり始めた。
俺は態とらしく『やめて〜やめて〜!』と言いながら揺すられ続けた。
ある一点に目を釘付けにしながら…。
(うん、名も知らぬ女騎士よ、ありがとう、あなたの一部がポヨンポヨンですよ。)
俺の視線に気づいた老人もとい老紳士は『グッ』と親指を立てサムズアップしていた。
(この爺さん見た目ちょっと怖いのに気が合いそうだ!しかし今はそれどころでは無い!)
そう思い直すと俺はここで騎士を偶然見つけた事、オオカミに襲われたが、戦って撃退し今からこの人を治療したいがどうしようか悩んでいた事を告げた。
「…なるほど、事情はわかった、このアーレンは私が責任を持って城へと送り届けよう!貴君の助力にアーレンに変わり礼をいう。」
(え、城ってあの真っ白な城のことだよな?これ関わっちゃ絶対に面倒臭い事になるわ…)
「あ、自己紹介がまだだったな、私は、レイシアt…」
(あーこれ名乗らせちゃ駄目なパターンだ!逃げれなくなるわ、絶対。)
そう考えると俺は態とらしく腕時計を見てから、『げっ!』と声を張り上げた。
「ん?どうした?」
女騎士は急に声を上げた俺に驚き不思議そうな顔をした。
「すみません、子供がお腹を空かせて待っているので俺はこれで失礼します、レイシアさんご機嫌よう!その騎士の事よろしくお願いします。」
俺はそう矢継ぎ早に告げると何処かの御令嬢のようにズボンの横をちょこんと摘みカーテシーをしてから素早く逃げ去った。
そんな俺の様子に2人ともポカンと口を開け呆気に取られていたのか難なく逃走に成功。
(まさかこんな所で俺のオタ知識、必殺カーテシーが役立つとは…。)
背後から『………ノ家に私は仕えている、何かあったら必ず連絡してくれ!』と何か叫んでいたが俺は気にすることなく全力で面倒ごとになりそうな元から遠ざかった。
〜〜〜〜〜〜
帰る途中で、どうしても気になっていた俺は周囲を見回してから小声でアレを言ってみることにした。
「…ス、ステータスオープン…!」
「・・・・・・・・・・」
(あ、あぶねー!何も起こらないパターンの方だったか!誰にも見られなくてよかった…見られてたら痛い人だぞこれ。)
「ふーむ、でもだったらどうやれば現在のレベルを確認できるんだ?さっぱりわかんねーぞ!」
その後も色々と試行錯誤を繰り返すが結局ステータスを見る事は出来なかった。
鑑定も気になったが特に鑑定できるものも無く仕方がないので俺は諦めてリノアの待つ家の方角へと足を向けた。
(そういえばあの女騎士鑑定してみりゃよかったんじゃね?ラノベ主人公はほんとすぐ能力使いこなせてすげーわ…)
〜〜〜〜〜〜〜〜
「リノア〜戻ったぞー!」
玄関を跨いで直ぐにリノアが飛びかかって来た。
そのまま抱き上げようとしたが、手に血がついているのを思い出しすぐに下へと下げた。
「ぐへっ!」
そのまま溝落ちへと頭突きがclean hit。
「リノアさん、相変わらず過激ですね…」
蹲って悶えながら必死に言った。
「パパが悪いんだよ!!」
苛立ちを隠そうともせず地団駄を踏んでいる。
「何がよ?」
「バーレリアには危険な場所がいっぱいなんだから……」
瞳をウルウルさせながら何かを伝えようとしている。
「ふむふむ」
「だから、出発前にそういう場所を教えようと思ったの!!」
ウルウルさせたままの瞳が一瞬にしてキッと鋭くなる。
「あーそうだったの?」
俺は返事をしながらアパートの流し台へと向かった。
リノアもブツブツ言いながらついて来た。
「パパは話の途中で行っちゃったけどね!!」
ポカポカと背中を叩いて来た。
「そうだったけ?ごめんごめん」
手を洗いながら謝ってるとリノアがじっとその手を見て来た。
「手、どうかしたの?何で……血が付いてるの?」
顔色を真っ青にし、様子を伺うように聞いてきた。
「いや、実はさ………」
俺は森の奥へ行ったことや、オオカミとの戦闘などをまるでちょっとした冒険譚を語るように話して聞かせた。
するとリノアはどんどん顔色を青白くさせていき驚きで見開いた瞳からは大粒の涙がこれでもかというほどこぼれ落ちてきた。
「ふぇぇぇぇん、パパのばがぁ〜いぎでてよがっだぁぁ〜!!うわぁぁぁん!!」
一瞬、余りのリノアの取り乱した姿に動揺したが、すぐにその動揺は後悔へと変化した。
(あぁ、そうか、これは俺がいけなかった。この子は今までずっと1人で耐えてきたんだ。こんなにも心から俺を必要としてくれている。俺の為に泣いてくれる。俺はこの子を1人にするわけにはいかない。こりゃリノアの為にも俺は死ねねーなぁ。)
そう感じた瞬間、俺はリノアを抱きしめていた。
「…………悪かった。」
「…………パパのあほー。」
『面白い』『今後も読んでも構わない』と感じたらポイント&ブクマをよろしくお願いします!




