11 魔法
「うわぁ〜♪うわぁ〜♪」
リノアはテーブルの上に並んだ、おにぎりやサンドウィッチ等を見ながら歓喜の声をあげていた。
「これ、わたしが食べてもいいの?」
テーブルに前のめりになり瞳を爛々と輝かせながら聞いてきた。
「もちろん、リノアの為の朝食だしな好きなのモノ選びな。」
笑顔で答えた。
「んー…どれにしよう……」
人生重大の決断を迫られたかの如く真剣な表情で吟味していた。
1つ1つ手に取り、穴が開くほど真剣に見つめた後、また別の食べ物へと移っていく。
俺はその表情や様子が余りにも可笑しくてつい吹き出してしまった。
「………ぷっ」
「な、何?何かおかしかった?」
ジト目で睨んでくる。
「いやいや、いつでも食べられるからホント好きなの選びな。」
「うーん、じゃこれっ!」
リノアはサンドウイッチを選んだみたいだ。
その際やたらと包装のビニールを気にしているようだった。
(ふむ、バーレニアにはやっぱプラスチックやビニールは無いっぽいな)
そんな事を考えながら食べ物はどうなんだろうと少しリノアに聞いてみた。
バーレニアでもオニギリやサンドウイッチは普通に食べられているモノらしいが1人で暮らしていたリノアにとっては滅多に食べられるものでは無いらしく、俺がビニールの包装を外した瞬間、それはそれは美味しそうに食べてくれた。
食べてるリノアの様子を見るにさすがジャパニーズフード、バーレニアにも有るらしいが味は段違いにこっちが美味しいみたいだ。
ひと口食べる毎に目を見開い驚いている。
その際一緒にパックのカフェオレも渡しておいたのだが…これは間違いなく気に入っている。
ただ、さっき笑われたからか『ま、まーまーね。』とか言いながら幸せそうな顔をし、飲む度に顔のニヤニヤが酷くなってきてるのだ。
(おいしいって言えばいいじゃん!鼻も何かピクピクしてるし!)
俺は娘の幸せそうな姿を見ながら指先に集中し魔法を使ってみる事にした。
(初めての魔法だしまずはライターあたりから…アニメみたいなファイヤーボールなんか間違って出した日には家燃えちゃうしな…)
ライターで火をつけた瞬間を想像しながら集中力を増していく。
_____________ボッ!
「おーーーっ!!着いた着いた!結構簡単だな?」
(しかし色々謎もできたな、全然熱くないし、なんでだ?それにここは日本なのに魔法出せたぞ?魔力の器というのは満たすとこっちに完全に魔力を持ち込めるって事なのか?)
「リノア見てみ?とりあえず、俺にも魔力の器があったぞー。」
(そもそも人間にはみんな魔力の器があるのか?)
「パパ〜良かったね♪」
「うんうん、本当に良かったわ、教えてくれてありがとな♪」
(ファンタジー難しすぎるだろ!)
「……ムシャムシャムシャ」
ほっぺたを一杯に膨らませて頭を左右に振った。
気にすんなっという事らしい。
「魔力って大気中から集めるんだったよなー?」
「………ふぉうだよー」
美味しそうにカフェオレを飲んでいる。
「ふーむ、という事はだ、俺は異世界に行くまでは火を出す事なんて出来なかったんだよな。で、今は出せるだろ?」
『うーん』と唸ってから俺はある結論に至った。
「つまり、魔力の器はあったんだ、魔力が無かっただけでな。という事は地球の大気中には魔力が無いってことだろ?あ、0だとは言い切れないけどな?」
「あ、うん、そだねー。」
返事をしながらリノアの視線はおにぎりに釘付けだ。魔法とかどうでも良いらしい。
「もしさ、地球で魔力が空になったらどうなるんだ?あとバーレニアから日本へ魔力自体持ち込めるって事だよな?」
リノアの手がオニギリに伸びた。
ビニール全体を確認し何かを見つけたような顔をした。
後ろについてるテープを綺麗に剥がしビニールの包みを広げた。
ご飯と海苔が別れた状態になっており綺麗に海苔を取り出そうとして海苔が破れた。
(あ、めちゃくちゃ悲しそうな顔しとる…)
「……………特に何も起こらないと思うよー……モグモグあと器に入ってきた魔力のことは良くわかんない…モグモグ…わたしも日本初めてだし…モグモグモグッ」
気にせずにおにぎりを食べることにした様だ。
「あ、確かにそうか、でも魔力切れても何も起こらないの?」
「・・・・・・・・・」コクコク
詰め込みすぎたのか、口をいっぱいにして頭を高速に上下させていた。
(ふーむ、あ、そっか。俺異世界行く前から器は有ったっぽいけど普通に生きてたもんな。いや、違うか器が異世界に移動した時に作られた可能性もある訳か?駄目だメンドクセー!)
考え込んでいると復活したリノアが話し始めた。
「そもそも、魔力ってね、元々、体内で作られるわけじゃないでしょ?ただ、使ってる時に凄く疲れるだけであって魔力が無くなったからって死んじゃったり、気絶しちゃったりはしないんだよ!」
「敢えて言うなら、少し体が重く感じるとかその程度だと思うよ。魔力が器に満ちてるだけで空の状態よりも身体能力が僅かにあがるみたいだし。」
そう言いながら棒に刺さったから揚げを頬張りはじめた。
「え、そうなの?」
俺は驚いて問い返した。
「うん、身体能力強化とは全く違うからそのまま、戦闘とかそう言うのは無理だけど体が動かしやすい、軽いって言うのかな、そう言う感じにはなるんだよー」
衝撃の事実である。
俺は32年間、バーレニア人からすれば不調な状態で過ごしてきたことになる。
(何だろう、別に損はしていないはずなのに、もの凄い損をした気分なのは……あ、もしかしてゴリタ君のパンチが遅く感じたのもそのおかげなのか?戦闘は無理だって言ってたけど、日本人のケンカは戦闘にすら入らないってことっぽいな…)
考えをまとめているとふいに声が聞こえてきた。
『オフロの準備が出来ました 蛇口を閉めてから お湯張りスイッチを 押してください』
え、ナニナニって言いまくるリノアを無視してお風呂に入れることにした。
お風呂に入ること自体が初めての様子で浴槽を見ては驚き。
シャワーを見れば出したり止めたりを繰り返し。
シャンプーをすれば目に入って暴れ出す。
非常に大変だったが、最後はお湯に浸かってご機嫌な様子だった。
ヨカッタ、ヨカッタ。
ただ脱衣所の床は水でグチャグチャになっていたけどね…。




