安心した…
「アメリア、もう大丈夫?」
「…え?」
ニコニコとこっちを見てくるお母さん。え?絶賛傷心中ですが?今生きる希望を失いかけてたところですが??
「あら…まあ、大丈夫そうね!説明の途中だったから、続けるわよー。」
ちょっと?お母さーん?あんたの目は節穴か?今、「あら…」って言ったよね!落ち込んでるの気づいたよね!!なんで大丈夫そうになったわけ?ねえ!ちょっと!普通に話し続けんなよ!心折れちゃうよ!?!?
「て言うわけで、やってみましょう!」
「お母さん、ごめんなさい。聞いてなかった…。」
「もう…どうしたの?上の空じゃない。」
まあ、今さっき絶望という名の衝撃的な現実を突きつけられたわけですからね?そりゃ上の空にもなるでしょ!!
「えと、い…家が心配なの!だって家にはシグニールもいるし…。」
これでもしシグニールが家の下敷きにでもなったら、私が嫌われる。もっと拗れる。めんどくなる。
「そうね…。シグニールが下敷きになったら、また嫌われちゃいそうだものね…。」
そこは分かるんだ?ただ狂ってるだけかと思った。よかった、ちゃんと常人の思考はあるんだ。
「あ、記憶操作すれば大丈夫かしら。」
やっっぱ、おかしいこの人。怖いよ、なんでもありかよ。だめだ、なんかこの人といるとサイコパス思考に染まりそう。怖い。
逃げろシグニール!!脳内いじられるぞ!
「お、お母さん。シグニール呼んでくるね…。」
「そうね、行ってらっしゃい。」
もうだめだ。引き篭もりたい。チートとかもうどうでもいいからヒキニーになりたい。切実に。
家に入ると、
「…シグニール?」
「あっ!おかえり、アメリア。」
ぱたぱたと駆け寄ってくるシグニール。弟とかいたらこんな感覚なんかな…。可愛さに思わずホワっとしてしまう。
「ずいぶん早かったんだな。もう終わったのか?」
「いや、あのね。お母さんがそこの巨大な木を魔術で倒してみろとか言ってくるから、逃げてきたと言うか、あの木倒したら家が下敷きになってシグニールも巻き込まれるからさ、呼びに来た、というか…。」
「…。」
うわ、すっごい顔。どうやってもお母さんの評価は下がるだけなんだね…。お母さんかわいそ。
てか、シグニールには完全に素なんだけど、大丈夫かなぁ、これ。うーん…。ま、いっか!お父さんとお母さんのこと大っ嫌いなシグニールなら大丈夫でしょ!うん!きっと大丈夫!
シグニールを連れてしぶしぶ外に出ると、お母さんが日に照らされて笑顔で小さく手を振っている。絵になるって言うかもう…美しすぎてよく分からん。あそこだけ別世界?お母さん女神?金髪だからかな、いや色白だから?透けそうなんだけど。
「うーん、綺麗…。」
「否定はしない。」
思わず呟くと、シグニールがちょっと不機嫌そうな声で肯定してくる。…ま、そうだよね。
お母さんのこと綺麗じゃないっていう人は、相当ひねくれた人以外は言わないだろうし。シグニールがひねくれてなくて安心したよ。お母さん嫌いは変わらないみたいだけど。
「よし、家を潰しに行こうか。」
「魔術を使いに行くって言ってくれ。」
そういうとシグニールは光に包まれて剣になり、私の腰にぶら下がった。ちょっと左が重いけど、案外大丈夫そうだな、これ。
「そんなこともできるんだ?」
『オレはもともと聖剣だからな。剣になれるのは当たり前だろ。』
「そのまま喋れるんだね。」
『一応な。』
「便利だことー。」
なんかシグニールと話してると落ち着くわ。お父さんもお母さんもキャロお姉ちゃんも頭いってるとしか思えないし。まともなのが聖剣しかいないってどゆこと?この世界おかしいんじゃね?
「シグニールがいてくれて安心したよ。」
『なんでだ?』
「え?分かってるでしょ?周りの人間がおかしいからまともなシグニールがいてくれて私も正気保てそうってこと。」
『ああ…。アメリアがまともでオレもよかった。あの狂気の塊みたいな奴らとこれ以上一緒にいたらいくらオレでもイカレるところだったと思う。』
「あはは、お互い苦労するね…。」
ははは、と乾いた笑みを浮かべると、シグニールもあはは、と乾いた笑い声をあげた。どの小説の主人公よりも精神的に疲れてる気がする。help me神さま…。