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嵐の山

作者: 原田朱里

僕は山の中にいた。


そう高くない山だ、登る時には422mと言われたので山頂までは1時間もいらないだろう。


しかし、僕は山頂へは目指さず、中腹を北に歩いて行っている。


山の中に入る経験は小学生ぶりだ。

都会育ちの僕にとって山は小学生の遠足ぶりであって、めったに足を踏み入れる場所でもないし、眺めることも少ない。しかし、今日僕は山の中に足を踏み入れることになった。


山の中は、想像以上に静かである。

都会の喧騒と比べたら、風の音、木が揺れる音、自分のズボンが歩く度にこすれる音

そんな一つ一つの音が容易に聞き分けることが出来るような音しかここにはない。



日暮れまであとどれぐらいであろうか。

昼過ぎに山に入ってそれほど経っていないと思うのは、まだ樹々の木漏れが僕を照らしていることで想像がつく。

朝には、雲一つない天候だったが、午後から天候は崩れるということで、麓でかっぱを買ったある。

それを着る機会がなければよいがと思い、僕はまだリュックの中にそれを封も切らずにしまっている。



僕は相変わらず山頂には向かわずに、地図をたよりに山腹をそのまま北に向かっていた。

北に向かう理由は単純だ、南から登ってきたからである。



僕はそのまま歩いているのも疲れたので、大きな岩に腰を掛けて休憩を取ることにした。


僕は上を見上げて天候を確認しようとしたときに、遠くで大きな音がした。

反射的に周りを見渡すが、周辺に大きな変化はないように思えた。

しかし、万一ということもある。僕はリュックを肩にかけ腰を上げた。


また、大きな音が静かな山に鳴り響く、木が折れる音がする。ミシミシという音は僕が山に入ってから初めて聞いた音であり、それは自分より下で鳴っていることが分かった。


直感で僕は山頂を目指すことにした。

今までの地図をもう一度よく確認し、山頂に向かう最短ルートを考えがえる。

少し急坂にはなるが、今の道を少し戻った方が早いと判断した僕は急いで、来た道を折り返し山頂を目指した。

下からは、異様な音が鳴り響き続けている。すこし大人の声も聞こえるようだ。

しかし、下の様子に構っている暇は今の僕にはなく、そのまま山頂を目指すしか道はなかった。


焦って登っているせいだろうか、息も絶え絶えになり、足元もおぼつかなくなった。しかも雨が降り出し足元も悪い。レインコートをさっき出る前に着ていたのがひとつ救いである。


体力が奪われ意識が朦朧とするなか、下からの音は更に僕に近づいてくる。


「登れ、登れ、足動け」

「こんなところでくたばってたまるか」

僕は最後の力を振り絞り山を駆け上った。



少し広い場所にでた。

太陽の光はもう僕のことを射してはくれないが、木々の下にいるよりはまだ明るい。

僕はもう一度周りの様子を見渡した。


しかし、僕はもう囲まれていた。下からはもう追いつかれる寸前だし、上からも横からも音が近づいていた。

僕はもうだめだと思った。


「はい、君アウト」ねと言われたような気がする。

僕はもう終わったのだ。


「ピンポンパンポーン」

「ただいま最後の参加者の方が捕まりました」

「これにて第16回高祇山逃走中を終了いたします。皆様、ご参加いただき誠にありがとうございました」


僕はそんな音を下山中に聞くことになった。


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