冒険者 VS 邪生物
受付嬢に案内された部屋では大柄の美女と2人の屈強そうな男が待っていた。
美女が、自分のパーティーの紹介を始めた。
「私はコウ。この2人はトウとシャゾーよ。3人合わせて『アイディX』ってパーティー名で活動しているわ。」
「初めまして、三角 正弦と申します。今回はよろしくお願いします。」
そう自己紹介した途端、3人組がざわつき始めた。
「苗字だと?依頼人が貴族だとは聞いてないぞ?」
「っていうか、『ミスミ』なんて家名の貴族いたか?昇鎖爵にスミス様ならいるけど、、、」
「スミスってあのスミス・ノエテール様か?あの方だって苗字はノエテールだぞ?」
しまった、苗字持ちだと貴族だと勘違いされるぞって商人に忠告されてたの忘れてた。
因みに昇鎖爵というのはこの世界の貴族の爵位の1つだ。爵位は5つあり、環爵、整閉爵、昇鎖爵、単項爵、体爵の順に偉くなっていく。昇鎖爵はちょうど真ん中だな。
「いえ、貴族ではないです。誤解を招くようなことを言ってしまい申し訳ございません。」
「そうね、貴族でないならその名乗り方はやめた方が良いわね。まだ公的書類を書いたことが無いなら、今から新しい名前を考えておくと良いわ。」
こうして自己紹介でちょっとしたアクシデントこそあったものの、その後の打ち合わせはすんなりいってすぐに出発することができた。
「それじゃ馬車を借りに行きましょう。」
「いえ、僕は走って行くつもりです。」
「『走って』って、、、ここから林間学校まで500kmもあるのよ?私たちは何とか走れない距離じゃないけど、、、本当に大丈夫なの?」
「問題ありません。」
「なら良いけど。言いにくいんだけど、本来馬車で2日で着くつもりだったから、もし走って行くことに変更して2日以上の日程がかかるようなら追加料金を頂くことになるわ。それでも良いの?」
「大丈夫です。」
林間学校への道のりだって大切な基礎体力作りの一環だ。馬車で楽する訳にはいかない。
こうして俺たちのマラソンが始まった。
◇
「・・・というわけでテイマーってのは基本的には役立たず扱いなんだが、実はごく僅かに例外が存在するのさ。それは、「超臨界流体スライム」をテイムしたヤツだ。」
「超臨界流体スライムってのはあらゆる種類のスライムから変異して発生する特殊変異体のことなんだけど、奴らは王水さえも目じゃないくらいのエゲツない酸化力を持ってるのよ。」
「そうそう、超臨界流体スライムはオリハルコンさえも酸化オリハルコンに変えちまうのさ。」
「ちょっと、あれの名称はテトラアンミンオリハルコンイオンよ。嘘教えちゃダメでしょ?」
「おお、そうだったな。オリハルコンは頑丈すぎて酸化させなければ加工できない。そしてオリハルコンの唯一の酸化手段が超臨界流体スライム。一攫千金目当てでスライムの進化に勤しむヤツも少なくねえってもんよ。」
こんな感じで世間話をしながら走ってきたお陰で、この世界に関する膨大な情報を入手することができた。
マラソン選手の倍くらいのスピードで走り続けはや4時間。約140kmの道のりを走ったところでお昼休憩にすることにした。
閻魔大王曰く、戦闘波は身体強化の効果も併せ持つので、周波数が高ければ高いほどスピードや持久力も上がる。
護衛依頼専門のパーティーと聞いて、もし邪生物を倒した経験が少なく、戦闘波の周波数が小さかったらこのペースに合わせるのは大変なんじゃないかと懸念していたが、どうやら杞憂だったようだ。
休憩にした途端ドッと疲れが押し寄せたが、昼飯をたんと食ってもう一度ランナーズハイに突入すればなんとか今日中にもう一度同じ距離を走れるだろう。
今日の昼飯は商人に持たせて貰ったおにぎり弁当だ。梅干しの酸味が長距離走で折れかけた心を癒して行く気がした。
・・・そんな時だった。3人の護衛が急にあたりを警戒しだした。
護衛たちの視線を追うと、禍々しい気配を放つ2匹の大型犬と1頭のゴリラが向かってきているのが分かった。
劣邪犬と邪ゴリラだ。
護衛たちは互いに目配せした後、技の詠唱を開始した。
「ワイダブルプライムたす2エックスワイイコール・・・」
・・・えっと、冗談かなーその詠唱。
いやあ、何だか線形代数が得意そうな冒険者パーティーですね()
スミス・ノエテールの家名の由来はネーター→Noether→ノエテールです。
ちなみに爵位のアイデアは環論から得ました。環というのは和、差、積が定義できる数の集合のことを指しますが、その中でも「零因子を持たない」という特殊な性質をもつものを整域と言います。整域の中でも特殊な条件を持つものには名前がついており、条件が緩いほうから順に整閉整域、ネーター整域(これは昇鎖条件を満たす整域のこと。そこから昇鎖爵を思いついた)、単項イデアル整域などがあります。
因みに体は「和差積の加え商も定義できる集合」であり、上に挙げたどの整域よりも条件が厳しいです。
なお、爵位には採用しませんでしたがこの他にもデデキント整域、一意分解整域、ユークリッド整域などもあります。