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シュレーディンガーの弁当

そもそも、人だかりが解消された時点で「これでやっとガロイズ先生と話せる!」とか浮かれている場合ではなかったのだ。俺のクラスには、あれだけの怪奇現象を片手間で起こせる人知を超えた危険人物がいるのだから。


ケイ・フィールド。天才一族であるフィールド家のどの人物よりもIQが200以上高いとされ、数多の完全犯罪を起こしたとさえ噂されている天才もとい天災がそこにいた。


右手には小包を抱えている。中身は全クラスメイトをマリオネットにするコントローラーか何かだろうか。


明らかにこちらを見ているので無視するわけにもいかなさそうだ。何が正解かは分からないが、とりあえずガロイズ先生とお話できたことのお礼はしておくとしよう。


「先生の周りの人だかりを一時的に解除してくれたの君だよね?ありがとう。」


「お礼はいいわ。暇つぶしにしては難易度が低すぎて、すぐ飽きちゃったけど。それより、これ食べて。」


そう言ってケイは、コントローラー入り小包を俺に渡してきた。


おいおい、いくら何でも無機物渡して「これ食べて」はねーだろ。それとも、天才が作った人体操作機には可食部でも有るのか?

そんなことを考えながら小包を開けると、そこにあったのは何の変哲もないただのお弁当──に、見えるものだった。


「・・・これでクラスメイトを操って人だかりを解消してくれたのか?もしかして、これ食べたら俺も集団を操作できるようになる、、とか?」


こう言うと、ケイは眉をひそめて、


「は?あれはちょっとしたミスディレクションの応用よ。別にクラスメイトを操作したとかじゃないわ。あとこの弁当食ったからってミスディレクションを習得できる道理はないわ。それはやるなら地道に頑張りなさい?」


とか言ってきた。


どうやら、この小包の中身がクラスの女子達の操作のキーアイテムだという前提そのものが間違っていたらしい。というかこれ、本当にお弁当なんだな。でも何故俺に?


おそらく、1番有力なのは毒殺狙いだろう。商人との交渉、ミスリルの錯体形成、そして修行による戦闘波の周波数の向上訓練。俺が転生してから起こした数々の行動の中に、ケイが隠蔽したいものがあったとしても不思議ではない。

毒殺でなくても、何らかの薬が入ってる可能性はそれなりにある。例えば、前世のとあるカルト集団は高学歴な人材の勧誘のためにLSDや覚せい剤を配合したお弁当を支給したって話もある。

いずれにせよ、経口摂取するものを渡された以上待ち受けているのが化学的な仕掛けであるという推理にはかなりの妥当性がある。少なくとも、「わーい美少女からの差し入れだー!」とか浮かれるのだけは言語道断ってヤツだ。


あれ、待てよ?ケイほどの天才が俺を殺しにかかったとして、俺にそうと気づく機会があるものだろうか?順当にいけば、「気づいたら死んでました」的な状況になってて然るべき、、、てことはこれはブラフ?


もっと言うなら、厄介なのはこの弁当を食べなければ命が助かるという単純な問題でもないということだ。ここでケイの機嫌を損ねるようなマネをしようもんなら別の手段で殺されかねない。


まさしく前門の虎、後門の狼。

だんだん回らなくなってきた頭を何とかフル回転させようとしていたその時。ケイは更に追い討ちをかけてきた。


「毒入りを疑われるのは目に見えていたわ。でもそれ、疑うだけ無意味よ。確かに、毒入りを疑うのは妥当な線を行っているわ。担任にあんな紹介のされ方をした後だし。けど逆に言えば、『弁当には揮発性の毒と不揮発性の解毒剤が仕込まれている』という可能性だってあるでしょ?こっちだったら逆に、弁当を食べないと助からない。弁当を食べようが食べまいが、生きる確率も死ぬ確率も同様に確からしいの。これを踏まえた上でサインに残された判断材料って『食材が好みか否か』くらいじゃない?」


ここまで言われて、俺は急に全てを悟ったような気分になった。そもそも、IQ300を遥かに上回る完全犯罪のスペシャリスト(仮)を目の前にして「命が助かる選択を主体的に行おう」ということ自体に無理があったのだ。なるほど、そこまで来れば確かに食うか食わないかの判断基準は「美味そうかどうか」くらいしか無くなるな。


それならばと、俺はキムチ風の見た目の料理に箸を伸ばした。そして一口、食べた感想は──


「・・・んだこれ!!甘っ!!」


明らかに辛そうな料理からしたのは、外国製のチョコレートを遥かに凌駕する筆舌に尽くしがたい甘味だった。あまりの甘さに思わずむせてしまった。


するとケイはおもむろに旗を取り出し、弁当の煮込みハンバーグにお子様ランチよろしく突き刺した。旗には「テッテレー」と書いてあった。


「ドッキリでしたー!」


ドッキリだと?一体何のために?まあケイなら気まぐれで「クラスメイトに激甘キムチ仕掛けてみた」とかいう動画を撮るためだけにカメラを発明していたとしても不思議ではないが、いくらIQがあってもネット回線の無い時代にyoutuberをやるのは無理があるのでは?


俺がこんなもはや推理とさえ呼べないような思考を巡らせる中、ケイは続ける。


「確かに、ある意味この弁当に毒を持っているというのは間違いではないわ。今のキムチにだって、一応体が弱い人なら死に至りかねない量のアスパルテームが入っている。でも殺意は無いのは一目瞭然よね?」


言われてみれば、文字通り“死ぬ気”で食わなければとても食い終えられる代物ではないな。


「私が弁当にドッキリを仕掛けたのは、サインに私の言いなりになってほしいとは思っていないことを示したかったからよ。サインには、変に私に恐縮することなく、自分らしく、自分のやりたいように日常を過ごしてもらいたい。今回の件で、深読みしようとするだけ空回りするってわかったでしょ?だから、一周回って私のことは普通の友達だと思ってればいいわ。」


・・・なるほどな。「海に出たら波に呑まれて死ぬかもしれないから海には行かない」とか言う漁師は存在しない。既にケイと知り合いになってしまった以上、「ケイと関わると命に関わるから遭わないようにしよう」とか考えるのだって同じくらい滑稽なことなのかもしれない。となればある意味、何も意識せず気ままに日常を過ごすというのは一周回って最適解にすらなるというものだ。その事を、弁当という手の込んだ手段を用いて伝えてくれたという事なのだろう。


だとすれば、だ。俺がする事はただ一つ。食い物には最大限の敬意を払うということだ。今の俺の戦闘波の周波数ならこの量のアスパルテームどうってことはないからな。


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