待望の学校生活に向けて
どう見ても不良でしかない女の子。当たり前のように、見なかったことにしてその場を後にするはずだったのだが、、、
その子がラップを歌い始めたとなれば話は変わってくる。何というか、前世の自担のアイドルグループの面影を重ねてしまうのだ。
いや頭では分かってる、分かっているんだ。こっちの世界にはアイドルという概念は存在しないだろうし、仮にあったとしてもこの子がアイドルである可能性は限りなく低い。十中八九ただのヤンキーだ。
ラップにつられて絡もうもんなら酷い目に遭わされるのがオチだろう。
俺の理性が、全力で警報を発している。だが・・・
・・・結局、俺は前世の自担のデビュー曲のラップ詞を以ってその子に応じてしまった。こういう場で他人の詞を借りるのもどうなのかとは思うが、まあ異世界だしそこはご愛嬌ってことで。
不良っぽい美少女は一瞬きょとんとしていたが、すぐに「なかなかいい詞作るじゃない」と言って、俺が歌った詞を口ずさみながら去っていった。
ごめんな、俺が作ったんじゃないんだそれ、、、
まあでも、見た目に反していい子で良かった。「校舎の裏に引きずりこまれてボコボコにされる」とかは完全に杞憂だったし、自担の布教(?)もできた。異世界だけど。
安堵の溜息をつき、再び歩き始める。まだ少し脚の震えが残っていた。
◇
特待生合格が決まってからの動きは早かった。採点官の前での実演の日から4日後に正式に合格通知が届くと、俺は全ての荷物をまとめて宿を後にした。試作段階のミスリル錯体はアゾさんにお礼としてあげた。
入学のための諸手続きの費用や入学金の支払いで俺は完全にすっからかんになった。幸い、特待生は合格通知が届いた日から寮の特待生専用室(食事付き)に住めるということなので食、住環境の心配はしなくていいが。
1か月後には入学式。とうとう俺の学校生活が始まるのだ。
そうだ、一段落ついたところで今の俺の戦闘波の周波数を計測しておこう。天に向かってエネルギー弾を放てるか試す。「y=sin 74x, y=sin 80x,・・・」
これは今しがたふと思いついた計測方法だ。通常、詠唱文句には「y=sin ax」のように周波数を決定する未知数が含まれ、aには自分が込めたパワーに応じた周波数が代入されるようになっている。
では、詠唱の段階で既にaに具体的な数値を代入するとどうなるか。結果は、自分が技に籠めようと思ったパワーの多寡に関わらず詠唱で代入された数値通りの威力のエネルギー弾が放たれた。そして、自分の最大周波数を超えるエネルギーの攻撃はそもそも放つことができない。
この性質を利用した結果、俺の今の戦闘波の周波数の最大値は77Hzと分かった。たった3Hzだが確かに上がっている。鍛錬と呼べるようなものはここに来るまでの500Kmのランニングくらいしかないが、それでそこまで上がるもんなのか?
、、、あ、邪ゴリラ倒してた。まあこの周波数の上げ方は俺のポリシーに反するので自発的にはしない方針だがな。
まあとりあえず入学までの1か月間は野山を駆け巡って基礎体力づくりだな。自然の中でのトレーニングはあらゆる鍛錬方法の中で最も効率よく「使える筋肉」を作り上げる。体力づくり:瞑想=8:2くらいか。精神を生まれる前に鍛えてきた俺の場合、現状だと肉体の方が追いついていない。
・・・あ、あとラップの即興の練習もスキマ時間でやっておこう。またあの不良少女と出会わないとも限らない。ダンジョンのある世界でフリースタイルダンジョン、、、ブフォッ。
ここまでで第1章は終わりです。閑話を挟んで第2章、学校生活編に入ります。