邂逅
とりあえずミスリルとシアン化カリウムは欠片が少し余っていたのでそれで事足りる。だが硝酸はアダマンタイトでの実験にも使ってしまった以上もう一度買い直すしかない。
あれ、これで入学金払ったら俺また一文無しになるんじゃ、、、?
いや、先のことを考えるのはよそう。そもそも合格できるかすらまだ確かじゃないんだし、捕らぬ狸の皮算用になってしまうからな。あ、捕らぬ狸の皮算用といえばそろそろセールスレターの権利収入が入る頃か。いずれにしても一文無しになることは考える必要がなさそうだ。
硝酸を買い直し、林間学校へと急ぐ。通知に指定されていた部屋に入ると、採点者と思われる数人が中で待っていた。
「サインと申します。ミスリル錯体のレポートの者です。よろしくお願いします。」
「よく来てくださいました。早速、実演よろしくお願いします。」
そう言われ、俺は試験3日前にやったのと寸分違わぬ手順で実験を進めていく。30分も経たないうちに、あの沖縄の海とグレートバリアリーフを濃縮したような美しい液体を再現することができた。
「こちらが錯体の実物になります。いかがでしょうか。」
そう言って面を上げると、広がっていたのは既視感ある光景。
ああそうだ、アゾさんに見せた時もこんな感じで放心状態になってしまっていたな。
また何十分か待たないといけなそうなのは癪だがここは辛抱強く待つべき場面だろう。採点者に放心状態になるほどのインパクトを与えられた以上、合格はかなり確実なものとなっただろう。わざわざ心象を悪くするリスクを取ってまで現実に引き戻す必要は無い。
1時間ほどが経った頃、漸く採点者の一人が声を上げた。
「特待生合格だな。」
よし、どうやら合格できそうだ。
・・・ん?今特待生って言ったか?
「ああ、間違いないな。レポートに『この液体の特徴は何と言っても目を奪われるほど美しい事です』とあるのを見たときはふざけてるのかと思ってしまったが、ここまでの美しさともなれば貴族の婦人方の目に留まり、高値で取引されることになるだろう。ある意味、実用性があると言って差し支えないな」
「私だって、特待生どころか主席にさせてあげたいところだわ。まあ今年は『あのお方』がいらっしゃるからそうはいかないけど、、、」
あ、主席とかぜんぜん望んでないです。特待生合格だけでも十分ありがたいです。
「そうだな。今年でなければどの年に受験していても主席だったろうにな。いくらこの液体に価値があるといっても、今年の『あのお方』の功績には流石に叶わないからな。」
さっきからちょくちょく出てくる「あのお方」気になるな、、、
「あ、試験の方はこれで問題無いから今日は帰っていいわよ。お疲れ様。」
ともかく、目的は果たしたんだ。気持ちよくここを去るとしよう。
「ありがとうございました。失礼します。」
◇
晴れやかな気分で部屋を後にして、校門に差し掛かった頃。ふと、俺の目に金髪の美少女が映った。
様々な種族の人々が入り混じって生活しているこの世界では別に金髪は珍しくない。だが俺には一瞬で分かった。あれは元黒髪がブリーチした髪だ。多分俺が元日本人だから判別がついたのだろう。
この文明レベルでブリーチ剤が存在するのは少し不自然な気がするが、まあダンジョンからアゾ染料がドロップするのだからあっても不思議ではない。
羽織っている黒いコートの下からは髑髏マークの入ったシャツが見え隠れしており、胸には無数のネックレスがかかっている。
何より異様なのは、前世で2000年代に歌舞伎町のホストの間で大流行したような、スジ盛りの入った髪型だ。
どう見ても10代前半の女の子がするファッションじゃないな。
あまりにも「ザ・ヤンキー」な風貌に苦手意識を覚えながらその美少女を素通りしようとしたその時。彼女が急に口ずさみ始めた。
「yo-What’s up? オレのこの技 放つのはDungeonのナカで からのトドメは上段 ダガーで 攻略のPartyに I need somebody 無敵のオレらが目指す階層はThirty・・・」
・・・お、おう。まさかこの世界でラップを聴くことになるとはな。しかもフローが割とエゲツない、、
この世界ではまだ再現実験というのは一般的ではなく、「試験官が直々にレポート通りの手順で実験してみる」という発想は彼らには無かったのです、、、
一応、学校側の対応が今じゃ考えられないものなので補足しときますが。




