潰えかける希望
あれから3日が過ぎ、とうとう試験当日。試験管の「それでは始め!」の掛け声と共に受験生たちがペンを走らせる音が響き出した。
試験といっても、予め考えてきたレポートに書く内容を白紙の試験用紙に記すだけなので、いわゆる「苦手な分野から多く出題されませんように」みたいな不安は全くない。
書く内容はもちろん、ミスリルの錯体について。あの後夜通し実験を続けたのだが、残念ながらアダマンタイトの錯体は作ることができなかった。というかそもそもアダマンタイトは電離しなかった。
まあ、新発見は1つでもあれば大きなインパクトを残せるので、試験に関してだけ言えば満足のいく結果は持ってると考えて差し支えないだろう。
残りの日はレポートの下書きと推敲に当てたのでスラスラと書き進められる。試験は最大10時間までかけられるが、俺はたったの5時間で清書と見直しを終え、試験会場を後にした。
合格通知が来るのが楽しみだな、などと考えながら俺は帰路についていたーー「紙のレポートではミスリル錯体の美しさを伝えきることができない」という致命的な事実を見落としたまま。
◇
「サインさん、林間学校からの通知が届いてるよー!」
試験から3日後。俺は妙な胸騒ぎを感じながら、アゾさんから封筒を受け取る。
受験票の裏には、「試験日から1週間で合否の通知が届きます」と書いてあったのだ。配達が滞ったりして1日2日期日より遅く届くことならあり得る話だが、予定より4日も早く着くのはどう考えても不自然だ。何かあったと考えるのが妥当だろう。
じわりじわりと封を開ける。
通知の内容は次のようなものだった。
『拝啓、サイン様。
この度、薬学専攻コースの試験結果についてご連絡差し上げなければならない事がございます故、通知を送らせて頂きました。
まず貴殿のレポート内容についてですが、「ミスリルの錯体」なる新物質の発見という大変貴重なものとなっており、こちらとしても喜ばしく思っている次第です。
しかしながら、貴殿はその利点について「色が綺麗である」ということを挙げておりました。貴殿を疑いたくはありませんが、弊学としてもこの利点を検証することが出来ず試験の評価をつけかねている状況です。
つきましては、貴殿には何らかの方法でその「美しさ」を我々の前で実演して頂きたく思います。今日から2日以内に弊学にお越しください。
誠に申し訳ありませんが、実演無しには合格は厳しいかと思われます。折角価値のある功績を残して頂いた以上、こちらとしてもできるなら合格とさせて頂きたいためどうぞご助力お願いします。』
「・・・・あー、うん・・・・行くしかねえけどさ・・・・」
サインは頭を抱えた。通知の内容を見る限り、実物を見せて漸く合格ラインに乗れるかもしれないというところだろう。
新発見とはいえ、見た目だけで実用性が示されてないとなれば評価はそこまで高くはならなかったか。
これじゃあ特待生合格なんて夢のまた夢ってとこだなあ、、、