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傾国の水溶液

ミスリルを硝酸に漬ける。溶けた。ちゃんと電離したようだ。そこに、過剰なシアン化カリウムを滴下。そして試験管の中に出来上がったものはーーこの世に存在して良いとは思えないような綺麗な液体だった。


まるで沖縄の海とグレートバリアリーフをこの試験管の中に凝縮したかのような。そんな澄んだ濃い蒼を前に、俺はしばし放心状態になってしまった。


ーー「サインさん!夕食の時間そろそろ終わりだよ!どうなさったのかい?」


アゾさんの呼びかけでふと意識を現実に戻すと辺りは真っ暗になっていた。


ああ、俺は一体、ただ錯イオンを見ているだけで何時間を浪費したというのだろう。試験まであと3日。いや正味2日か。こんな正念場で何という無駄な・・・


・・・いや、むしろこれで良いんじゃ無いのか?思わず何時間も見とれてしまう液体。それだけの価値があるということなんだ。きっと試験官も高く評価し、特待生合格をさせてくれる筈だ。


そもそも俺が受けるのは「薬学専攻コース」。戦闘関連のレポートよりこっちの方が評価が高くなるのは自明だ。


一度は陥った絶望からの、起死回生の妙案。今日の晩御飯は前世も含めた中で最高の飯になりそうだな。


あ、そうだ。一応この液体はアゾさんにも見せておこう。この宿には有力商人や貴族もしばしば訪れるというし、「この液体は既存のものか否か」の判定には持ってこいのお方だろう。


あれ、そういえば何で錯イオンが無い世の中にアゾ染料はあるんだ?オレンジ色の着物着てるし、アゾさんの名前はアゾ染料に因んでるんだよな、、、



「・・・・・・・・・・・・」


「ごちそうさまでした。」


アゾさん、俺がご飯食べてる間中ずっと無言だったよ。まあ無理もないか。でもそろそろ返事が聞きたいんだよなー


「・・・っとごめんよ。思わず見惚れて質問されてたの忘れちゃってたよ。うん、少なくとも私はこんな物質見たことも聞いたことも無いね。でもこれ、一体どうするんだい?」


飯を食い終わって10分くらいが経った頃。ようやく返事がもらえた。


「これの作り方を林間学校の試験で提出するつもりです。どうしても特待生で合格したかったので頑張って開発しました。」


「いかにも貴族のご婦人方が気に入りそうな色だしねえ。これなら十分特待生狙えるかもねえ。」


「ありがとうございます。アゾさんにそう言っていただけると自身が付きます!」


あ、そうだ。ついでにアレも聞いておこう。


「そういえば、そのオレンジ色の着物はどうやって染めたんですか?」


「ああ、これかい?これならダンジョンからドロップした染料で染めたのさ。」


・・・ダンジョンからアゾ染料がドロップするのか。全く興味無かったけど、学生の間に1度くらい入ってみるか。



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