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一般解と特異解

旅の2日目の夕方。林間学校の門前で、俺はアイディXの3人と別れの挨拶を交わした。


「2日間ありがとう。3人ともどうかお幸せに!」


「いえいえ、こちらこそ斬新な技も見れたし充実した旅だったわ。また会えると良いわね!」


「全く、その歳で本当に500kmの道のりを走りきっちまうとはなあ。最初は「走って林間学校まで来る」なんて冗談かと思ってたのによ。末恐ろしい奴だぜ。」


「トウの言う通りだよ。俺たちまでつられて走ってきちゃったけど、願わくば次依頼してくれる時は馬車でゆっくり旅したいもんだねえ。」


「新技の守秘義務は死ぬまで貫くわ。その点は安心してね!」


「お気遣い感謝するよ。それじゃあまたいつか!」


一頻り(ひとしきり)手を振って、俺は願書を提出するべく林間学校の門をくぐった。


本当に楽しくて充実した2日間だった。ちなみに、最初の日の昼の3体以来邪生物との遭遇は無かった。





「願書、確かに受理しました。こちらが受験票になります。試験がある3週間後またお越しください。」


事務員から受験票を受け取り、事務室を後にした。


願書に書く項目は少なく、短時間で埋めることができた。この学校には世界中から人が集まる。それ故、戸籍の制度がしっかりしてない地域から来る人への考慮として書くべき項目を最小限にしているのだろう。「身寄りの無い10才の平民」として転生した自分としても都合の良い話だった。


さて、試験まではまだ時間がたっぷりある。3週間泊まれる宿を探して、何に関するレポートを書くかを考えるとしよう。


まずは、大まかな方向性を決めることからだな。この世界では未解決問題扱いの数学の定理の証明でも書くか、それとも戦闘波の詠唱に関する実践的な応用に関して書くか、あるいは・・・





「それじゃあアゾさん、今日はよろしくお願いします」


アゾさんというのは僕が止まっている宿「フェニル」の女将さんで、いくつかの戦闘波を使った技が使えることから、僕の仮説の検証を手伝ってもらう事にしたのだ。今日も橙色に染め上げた着物がよく似合っていらっしゃる。


結局、僕は戦闘技の応用に関するレポートを書く事に決めた。内容は、「戦闘波の位相反転による敵の技の相殺に関して」だ。


これが上手くいけば、周囲の被害を小さくしたい場面、例えば街中の荒くれ者の鎮圧などで相当役に立つことになるだろう。林間学校の教員からの評価も爆上がり間違いなしだ。


ただ、1つ問題点がある。それは、詠唱文句が微分方程式であることだ。とりわけ事態をややこしくしているのが任意定数だ。こちらで考える防御技の詠唱文句は「y=f(x)」の形で表記するつもりなのだが、詠唱内容は一般解で良いのかそれとも適当に初期条件を入れてみて特殊解を探る必要があるのか確かめねばならない。


それを確定させるために、実際に技同士をぶつけて実験してみようというのが今回の企画だ。平たく言えば、「仮説のあやふやな点を実験にてはっきりさせよう」というのが今回の狙いだ。


周囲に影響が出ないひらけた土地に移動し、実験開始だ。


アゾさんが炎の球の微分方程式を詠唱し、それに合わせて俺がその微分方程式を解いた関数を詠唱する。初期条件は、とりあえずC=0で。上手く位相が反転した技をぶつければ、炎の球どうしがお互いを吸収し合うように消えてなくなるはずーーだったのだが、現実に起きたのはそれ以前の問題とも言える事態だった。


「アゾさん、避けて!!」


アゾさんが放った炎の球を蹴散らしアゾさんめがけて飛んでいった俺の「蒼い炎の球」。想定外の事態に俺の頭は真っ白になったが、アゾさんは何とか間一髪躱せたようだった。


・・・おかしい。俺は確かに、アゾさんの戦闘波の周波数に合わせて同じくらいの威力の炎の球を放ったはずだった。なのに、実際に出たのは炎の温度からしてまるで違う蒼い炎の球だった。


初期条件の違いくらいではこんな事態にはならないはずだ。技のエネルギーは術者の戦闘波の周波数のみによって決まるのだから。というか、蒼い炎ってどういうことだよ。あれじゃまるで別の技ではないか。


「あっりゃまあおったまげた。とんでもない威力じゃないのさ。あれが、アンタが試したかったっていう新技かい?あんなのが撃てれば特待生合格は余裕だわさ。」


「いえ、今のはちょっと想定外でした。本当はもっと安全で便利な技を思いついたつもりだったのですが、、、

ちょっと色々1から考え直さなくちゃならなさそうなので、今日の実験はここまでにしたいと思います。僕の実験に付き合ってくださりありがとうございました。」


「そ、そうなのかい、、、まあ役に立てたなら何よりだよ。試験、頑張ってちょうだいね!」


あのまま何十発も蒼い炎の球を打ち続けるのはかなり危険なので、とりあえず実験は中止だ。アゾさんと別れて、俺は宿の部屋に戻り考察を続けることにした。


部屋に戻って数十分が経った頃。俺は1つ、忘れかけていた微分方程式の特徴を思い出した。


「・・・もしかして、通常の炎の球ってあの微分方程式の特異解の波形なんじゃないか?」


特異解ともなればスーパーコンピュータでゴリ押すくらいしか解を見つける手段が無いですからね、、、試験は目前と迫っているというのにここからどう挽回するのでしょうか!?


・・・あ、あと、特異解だと技の威力が大幅に落ちるのは術者のエネルギーの変換ロスが大きいからとお考えください。

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