願い
理想の一目惚れ
そして理想の告白
まさに100点満点のこの状況だ
彼女が幽霊ということ以外は
花さん…と言ったか、彼女は幽霊とは思えないほどの満面の笑みに一筋涙を流してこっちを見ていた
幽霊との恋か…まぁ…
俺は一息ついて夕焼け空を見上げた
次の瞬間
ガシャン!
凄まじいスピードで俺はドアノブに手を伸ばした
「!?」
花さんはそれに驚いて目を丸くした
しかしだいたい察したのかそちらも物凄いスピードでドアに近づきそしてドアノブを押さえつけた
ドアの立て付けが少し悪いのが悲しい
彼女は俺がドアを開けるより早く、引き戸のドアを押さえつけてしまった
「ごめんなさい!やっぱり幽霊は無理です!」
ドアをガシャンガシャンしながら泣き叫ぶ俺
「ちょ、ちょっと待ってください!話だけでも!話だけでもぉ!!」
ガシャンガシャンを割と強い力で押さえつける花さん
「いや無理です!呪われたくないです!」
「の、呪い!?そんなのしませんよ!!
あ、アレです!取り付くくらいです!」
「変わらねぇよ!!」
「ほ、本当に何もしませんから…」
「なしもしねぇっていわれても…」
ドアに力を入れたまま花を見ると
「お願いです…」
泣きそうな花さんの顔
美人には変わりがなく、動揺してしまう
よく考えたら悪霊とか呪いだったらあった時にかけられてるか…
「ほ、本当に何もしないよね?」
恐る恐る聞く
花さんの表情がパァっと明るくなる
「はい!絶対に何もしませんから!」
まぁ俺の一目惚れを信じて話を聞くことにしよう
大丈夫、悪い人じゃない
もしやばかったら…
俺は多分効果のないバックについた学業安泰のお守りを握りしめた
これは勝手な先入観なのだが、幽霊というのはとても暗いイメージだった
皿割の幽霊のように真夜中にボサボサの髪をダラっと垂らし、真っ白な肌に死覇装を身にまとい、震え混じりの声で話す
おそらく世間一般の常識はそうだろう
しかし…
「ええっと、
こ、ここに座って下さいっ!
あぁでも座布団とかあった方がいいですよね…お、お茶も入れないとっ!で、でも急須も何も無いっ!」
真逆も真逆ものすんごくあたふたしていた
まるでマンガのよう
なんだか逆にこっちが落ち着いてきた
「まぁここは屋上で何も無いんだからさ
とりあえず座って話そうよ、ええっと花さん…でいいかな?」
早く帰りたいし
俺の発言にハッとなったのか
花さんは顔を赤らめた
「そ、そうですよね…すいません…」
そう言って花さんが腰を下ろしたのは俺と5mくらい離れたところ
「遠すぎないっ!?」
思わずツッコミをいれてしまった
「えっ!あっ!そ、そうですよね…アハハ…」
そう言って花さんは近づき、座ったのは俺の真横
近すぎるほどに
「ち、近すぎない?」
花さんはまたさっきの言葉を繰り返し、少し離れて座った
「そ、そうですよね…ごめんなさい…」
俯きながら小さな声で謝った
「人と話すのはすごい久々で…ぎこちなくてすいません」
愛想笑いを浮かべながら花さんは話した
「まずは自己紹介ですよね
私は桜野花と言います
明治産まれでかなり前からここに取り付いています!」
聞いたこともない自己紹介
「高木修と言います…一応生きてます」
と一生使わないであろう自己紹介をする
「修さんって言うんですね!
不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします」
嫁入りのように行儀よく挨拶をした
「いやいやいや…
流石に幽霊とは…」
そう言うと花さんは一瞬しゅんとした
しかしすぐに覚悟を決めたような顔になり、俺に詰め寄った
「お願いします!どうしてもあなたじゃないとダメなんです!」
涙を浮かべた真面目な顔でそう話す
正直幽霊という点を除いてもろタイプなので心が揺れる
だが
「いや、そんなに取り付きたいならさ…たとえばうちのオカルト大好きなヤツとかにお願いしたらいいんじゃないかな…」
やはり取り憑かれるのは嫌だった
俺は現実的な提案をした
花さんはそれを聞くと顔を俯かせた
そして
「…じゃないと…」
なにか呟いた
「何か言ったか?」
「えっ、いや…べつに…」
そう言うと何かを思いついたような顔をした
「修さん!単刀直入に言いますけど成績っていいですか!?」
いきなり話が変わった
「えっ、いや…」
正直俺は成績は下の中辺り
アルバイトに明け暮れてるおかげで常に赤点ギリギリだった
彼女はその顔を読み取ったのか話を続けた
「取り憑かせて頂く代わりといってはなんですが…もし修さんが宜しければ私、テストの問題職員室で見てきますよ…」
花さんは悪徳商人のような顔をしながら提案した
「…マジ?」
すごく心が揺れる
「で…でも一生花さんに取り憑かれるのは嫌だしさ…」
それを聞いて花さんは笑顔になった
「一生なんて…そんなに取り憑きませんよ」
「へ…?」
彼女は立ち上がり俺に背を向けて話し始めた
「幽霊って言うのはですね…この世に生きたい!まだやり残したことがっ!といった強い生きたいって気持ち、未練ともいいますね。それがエネルギーを持った存在なんです。」
俺はきょとんとする
なぜ今そんなことを…?
「つまりですね、私の『未練』を解消して貰えれば綺麗さっぱり私は成仏することが出来るんです…それが私の望なんです。」
「つまり…」
花さんは俺の方に向き直った
「修さん、お願いします
私を成仏させてください。」
彼女の顔は真面目で嘘偽りはなかった