出会い
恋
それは言葉に表すとたった2音の簡単な言葉である。
しかしそれは言葉で表せないほど複雑であり、始まりを語るだけでもきりがない
性格に惹かれたり、見た目、声、センス
その中でも
「俺は一目惚れをしてみたい」
と放課後の教室で外の下校途中の生徒を見ながらぼんやり語る
「一目惚れねぇ…でもそれって見た目で惹かれるってことじゃないか?」
目の前の男、町田将生は食い気味に聞いてきた
「違うんだな、会った瞬間…いや、例えば扉を開けた奥に運命の人がいるっ!会う前から俺はこの先にいる人に恋をしてしまう!って言うような…なんて言うか第6感の恋をしてみたいんだよ」
ぼんやりと頭の中にある言葉を並べる
それを聞いた将生は笑った
「まってくれよ修、その扉を開けたらすげーむさいオッサンがいたらどうするんだよ、100歳のおばあちゃんだったら?産まれたばかりの赤ちゃんだったら?」
将生は笑いすぎて目に涙さえ浮かべている
目の前にいる俺、高木修は少しムッとする
そしてこんな奴にこんなことを答えるべきではなかったと後悔が浮かぶ
「まぁ、その時はその時だ」
適当に返した
「まぁいいさ、ちなみに俺はグラマラスでパーフェクトなボディに惹かれるけどね」
将生は目を閉じうっとりと語る
「お前も大概だぞ…」
「まぁ、希望薄だよね
それより今日もゲーセンに行くか?」
「あぁ、今日は日直だから先に行っててくれ
終わったら行く」
「了解、今日は負けねぇからな
じゃあ先に」
そう行って将生は教室を出ていった
日報を提出し、冬の早い夕暮れの帰りに1人でさっきの話を思い出した
確かに俺の理想は白馬の王子様に憧れる女子のように夢幻なのかもしれない。
しかし今まで恋をした事がない俺はそんな恋をしてみたいと本気で考えていた
もしそんな人と…
修は学校のシンボルである100年桜を見上げる
葉の落ちた桜の木は随分寂しげだった
しかし春には…
「桜を見れたら…」
11月の優しい風が桜の枝を揺らした
その瞬間だった
身体に電流が走る!
まるで雷に打たれたように衝撃的であり、しかし心地の良い衝撃
体は火照り自然と息が荒くなる
あぁ、なんという事だ…もしかしたら俺は…俺は…
修は後者に振り返り、まるで吸い込まれるように屋上に向かった
普段は鍵がかかっており、入れないはずの屋上の鍵は何故か空いていた
修は階段を駆け上がり、上がった息を落ち着け、ゆっくりドアノブに手を伸ばした
この先に…この先に運命の人がいる…
ノブを回し、屋上への扉を開けた
そこには扉に背を向けて虚ろに空を見上げる女性がいた
小柄な女性だった
ポニーテールのように縛った黒髪は腰まで伸びており艶やかであった
背丈は150cm程、後ろ姿だけ見ると少し痩せている印象を受けた
桜の和服が良く似合う人だった
美しい
そう感じた
秋の風が吹き彼女の髪が揺れる
後ろに立っていた俺に気づいたか、彼女は振り返りこちらを見た
ああ、全て想像を超える
彼女は華奢な体に対して少し大きな瞳をしていた
しかしその瞳には光はなく、全体的に薄色という印象を受けた
まるで雪のような、触れただけで消えてしまいそうな儚さと美しさを持っていた
扉を開けてここまで数秒、俺は彼女から目が離せなかった
そんな俺に彼女は微笑んだ
夕日に照らされたその顔は悲しげだがそれ以上に…
俺は
「こ、こんにちは!」
正直何を言ってどういう話を運んだかは覚えていない
ただただ今俺が感じた恋、そしてひたすらに彼女を褒めたのだと思う
あれだけ見つめていた彼女を直視出来ず、目を瞑りながらひたすら思いを口にした
そして
「も、もし良かったらお付き合いしませんか!」
その言葉で締めくくった
恥ずかしながら足元を見ながら言ってしまった
しかし後腐れも後悔もない、素晴らしい告白をしたのだ
反応は怖いが
恐る恐る顔をあげ、彼女を見る
そこにいた彼女は先ほどとは別人だった
彼女の瞳は美しく輝き、薄色の印象は消えていた
何よりも頬を赤らめ、目を背ける姿は先ほどの美しい印象から一気に可愛いに変わっていた
この反応は…手応えのある…
こんな和服の似合う人と…俺は…
ん?和服…?
そこで気がつく
もちろんこの高校には和服を使う学科どころか部活もないし
第1に学校は制服以外禁止になっている
…ま、まさか…
その瞬間、街に夕焼け小焼けが流れた
5時…屋上…和服…
それにあの虚ろな表情…
あぁ…も、もしかして
そんな俺と裏腹に彼女は太陽の様に美しい笑顔で俺にこう言った
「ありがとうございます。
是非お付き合いをお願いします。私はこの学校に取り付いた幽霊の花と申します
不束者ですがどうかよろしくお願いします」
花さんは幽霊の癖にすごく活き活きした声と笑顔でそう言った
よほど嬉しかったのか涙さえ流している
前言撤回、後腐れも後悔も
そして涙も吹き出した。