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僕がヒーローになるために  作者: 秋葉夕雲
7/9

6話

 鮮血が舞った。――――モンストロの血が。


その鮮血はモンストロの胸から飛び出すように吹き出し、勢いが弱まるとそのまま赤い血がドロリと零れ落ち続ける。

 そしてモンストロは倒れた。常識的に考えて即死だろう。


「いや、君凄いな! よく頑張ってくれた! 後は俺たちに任せてくれ!」

「あ、はい」

 快活そうな男の人が僕に話しかけている。反射的に答えてしまったけど会話の内容が理解できなかった。したくなかっただけかもしれない。

 男の人の手には拳銃が握られており、それでモンストロを撃ったようだ。


 男の人の仲間だろうか。その手に拳銃や自動小銃を持った人々が次々と現れてはインベーダーを撃ち殺していく。


 あれほど苦戦して倒した敵が


 自動小銃によって数匹のインベーダーがまとめて倒れた。


 僕が本当の力に目覚めて戦った敵が


 象ほどもある巨大なインベーダーが出現したが、どこからともなく狙撃されて一瞬で崩れ落ちた。


日常の一コマのように


 やがてインベーダーは蜘蛛の子を散らすように逃げ始めたが逃げ場はない。ゲートは一方通行でしかないからだ。


 ヒーローでも何でもない一般市民の手で()()されていった。




 僕のPSYは弱いと言ったのは嘘じゃない。だがそれはあくまで平均から下の方だという程度。

 もっと弱いPSYはいくらでもあるし、そもそもPSYはそれほど強くない。せいぜいが猛獣を素手で倒せる程度だ。そんな程度の力しかなかったからあの事件は起こってしまった。


 名古屋の惨劇と呼ばれた日本史上最悪のヒーロー殺害事件。

 数多のヒーローが命を散らしたその事件の首謀者であるモンストロを倒したのは、ヒーロー……ではなくたまたま近くにいた一般市民だった。

 彼らは猟友会のメンバーで全員銃を持っていた。その中の一人がヒーローの友人だったこともあり、傷つき倒れていくヒーローを見かねて義憤の心と共に立ち上がったらしい。

 近くの警官などもそれに協力して遂にモンストロを打倒した。


 だがこの行為は問題になった。

 猟友会とは狩猟の事故や違反などを防止したりするために設けられた組織だ。その一員が狩猟許可を出ていない生物を狩ってしまってよかったのかというややピントのずれた問題だ。

 しかしこの行為を誰より称賛したのはヒーロー自身だった。市民を守ることを是とするヒーローにとってその行為はまさしくヒーローのようだったからだ。

 そして同様の事件は世界各地で散見された。


 インベーダーが出現した当初はPSYを持ったヒーローが戦う方がよかった。

 しかし科学技術の発展と共に銃火器で武装した兵士で戦う方が安全で確実にインベーダーを処理できるようになってしまった。

 発達した科学兵器にとってインベーダーは敵ではなかった。量の面でも質の面でも。

 その結果としてほとんどの国で一般市民の銃火器による武装が許可された。日本では厳しい免許制度を設けており、他所の国に比べると銃による犯罪が圧倒的に少ない。

 就職などに有利に働くため、免許を取る人もおり、一定の訓練を積むためむしろ銃免許を持っている人の方が、犯罪率が少ないという統計もある。


 こうして、ヒーローはヒーローの座を一般市民に明け渡した。

 では本当のヒーロー、PSYをもった人たちは今何をしているのか?

 大抵はヒーローショーに参加したり、ヒーロー同士の戦いをスポーツ感覚で執り行っている。PSYを持っていればこれらの仕事に就くことは容易であるがゆえに、PSYを持つ人をうらやましがることは珍しくない。ヒーローのファンも少なからず存在していて、田口先生もその一人だ。

 もはやインベーダーと戦っているヒーローなどいない。


 僕がなりたかったヒーローは――――――


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