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僕がヒーローになるために  作者: 秋葉夕雲
6/9

5話

 インベーダーは突進しながら爪を振るうが、今ならその軌道が手に取るようにわかる。

 単なる筋力増強ではこうはならない。運動神経などの身体機能が上昇しているに違いない。

「そこだあ!」

 大ぶりの攻撃を紙一重でかわしざまに右フックを放つ。だが、浅い。

 インベーダーは軽く頭を振っただけで大したダメージを与えたようには見えない。

(今度はもっと踏み込む!)

 しかしこちらの思考を読んだのか、インベーダーは決して大ぶりの攻撃をしてこなくなった。隙の少なくなった相手には大きな一撃を当てられない。

 相手の攻撃をよけられてはいるけど、PSYがいつ切れるかわからないこちらの方が不利だ。


(何とかして状況を変えないと)

 敵から注意をそらさない程度に辺りを見回す。少なくとも逃げ遅れた人はいない。だけど武器になりそうなものもない……いや、足元に転がっていた。

 見ようによっては卑怯かもしれない。けどこれは生きるか死ぬかの戦いだ。くだらないプライドにはこだわってられない。

 そして僕は足元に転がっていた小石を思いっきり蹴った。原始的で乱暴な攻撃だったけど、いやだからこそ相手の頭部に直撃した。何度も小石を蹴りつける。蹴り方が悪かったときは足が痛んだけど気にしてる場合じゃない。


 インベーダーはちまちました攻撃にイラついたのか再び僕に突進してきた。

(チャンスは一瞬だ!)

 タイミングを合わせる。爪と顔と拳が交錯する。そして――――


 渾身の力で振りぬいた右腕はクロスカウンターとなって敵の顔面に直撃した。


 これ以上ないほどのクリーンヒット。仰向けになってぴくぴくと痙攣していたけど、やがて動きを止めた。


「勝った……僕が勝った。信じられない」

 喜びよりも驚きの方が強い。ヒーローになれたかはわからないけど、少なくともあの子供はきっと無事だ。

 そう思うとようやく喜びが湧いてきた。

 けれど初めての勝利に油断してしまった。僕は今すぐここから離れるべきだった。そうしていたら、あんなことにはならなかったのに。


 ぞわりと肌を伝う悪寒。これもPSYの影響なのか、それとも人間の本能なのか、あるいは単に冷静になったことで恐怖を感じてしまったのか。

 数十メートル先にそれはいた。


 下半身は六本の足がついていて、上半身は人型だけどミラーボール、あるいは複眼のような何かに顔のほとんどが覆われている。さらに先ほど戦ったインベーダーが何体もそこにいる。

 僕はあのインベーダーの名前を知っている。

「モンストロ……」

 かつて名古屋の悪夢を引き起こした個体と同じ種族。モンスターの指揮者という名前を名付けられたように多数のインベーダーを従えるのが特徴で本人の戦闘力も高い。

 逃げてもいい。もうほとんどの人は避難しただろう。

 あれは敵う相手じゃない。

 でも――――

 それでも――――

 逃げたくはない。

 今戦えるのはきっと僕だけだ。もしここで逃げれば奴はきっと他の市民を襲う。そんなことはさせない。


 ぐっと足に力を入れる。あいつを倒す。その覚悟を決める。

 モンストロは指揮をするかのように右手を上げ、そして――――

 鮮血が舞った。


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