5話
インベーダーは突進しながら爪を振るうが、今ならその軌道が手に取るようにわかる。
単なる筋力増強ではこうはならない。運動神経などの身体機能が上昇しているに違いない。
「そこだあ!」
大ぶりの攻撃を紙一重でかわしざまに右フックを放つ。だが、浅い。
インベーダーは軽く頭を振っただけで大したダメージを与えたようには見えない。
(今度はもっと踏み込む!)
しかしこちらの思考を読んだのか、インベーダーは決して大ぶりの攻撃をしてこなくなった。隙の少なくなった相手には大きな一撃を当てられない。
相手の攻撃をよけられてはいるけど、PSYがいつ切れるかわからないこちらの方が不利だ。
(何とかして状況を変えないと)
敵から注意をそらさない程度に辺りを見回す。少なくとも逃げ遅れた人はいない。だけど武器になりそうなものもない……いや、足元に転がっていた。
見ようによっては卑怯かもしれない。けどこれは生きるか死ぬかの戦いだ。くだらないプライドにはこだわってられない。
そして僕は足元に転がっていた小石を思いっきり蹴った。原始的で乱暴な攻撃だったけど、いやだからこそ相手の頭部に直撃した。何度も小石を蹴りつける。蹴り方が悪かったときは足が痛んだけど気にしてる場合じゃない。
インベーダーはちまちました攻撃にイラついたのか再び僕に突進してきた。
(チャンスは一瞬だ!)
タイミングを合わせる。爪と顔と拳が交錯する。そして――――
渾身の力で振りぬいた右腕はクロスカウンターとなって敵の顔面に直撃した。
これ以上ないほどのクリーンヒット。仰向けになってぴくぴくと痙攣していたけど、やがて動きを止めた。
「勝った……僕が勝った。信じられない」
喜びよりも驚きの方が強い。ヒーローになれたかはわからないけど、少なくともあの子供はきっと無事だ。
そう思うとようやく喜びが湧いてきた。
けれど初めての勝利に油断してしまった。僕は今すぐここから離れるべきだった。そうしていたら、あんなことにはならなかったのに。
ぞわりと肌を伝う悪寒。これもPSYの影響なのか、それとも人間の本能なのか、あるいは単に冷静になったことで恐怖を感じてしまったのか。
数十メートル先にそれはいた。
下半身は六本の足がついていて、上半身は人型だけどミラーボール、あるいは複眼のような何かに顔のほとんどが覆われている。さらに先ほど戦ったインベーダーが何体もそこにいる。
僕はあのインベーダーの名前を知っている。
「モンストロ……」
かつて名古屋の悪夢を引き起こした個体と同じ種族。モンスターの指揮者という名前を名付けられたように多数のインベーダーを従えるのが特徴で本人の戦闘力も高い。
逃げてもいい。もうほとんどの人は避難しただろう。
あれは敵う相手じゃない。
でも――――
それでも――――
逃げたくはない。
今戦えるのはきっと僕だけだ。もしここで逃げれば奴はきっと他の市民を襲う。そんなことはさせない。
ぐっと足に力を入れる。あいつを倒す。その覚悟を決める。
モンストロは指揮をするかのように右手を上げ、そして――――
鮮血が舞った。




