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僕がヒーローになるために  作者: 秋葉夕雲
3/9

2話

「ただいま」

 鍵を開けて家に入るけど、両親はいない。

 別に仲が悪いわけではなく、共働きだから小学校のころからこんな感じだ。

 ただし家に誰もいないわけじゃない。


「おう、正史(ただし)今帰ったか」

「ただいま。じいちゃん」

 この家には僕のじいちゃんがいる。今は引退したけど、昔は凄腕のヒーローだった。

 そして僕がヒーローを志すきっかけになった人でもある。


「正史、正義の味方はな、どんな時にも諦めず、無力な人々を救うために敵と戦うんじゃ。そしてどんなピンチに陥っても必ず最後には勝つ」

 じいちゃんは昔の人間だからかヒーローではなく正義の味方という言い方を好む。他にも偶にジェネレーションギャップを感じることがある。

 そして子供のころからじいちゃんからそんな話を聞かされていたおかげで、僕もヒーローに憧れるようになってしまった。でも現実は甘くない。

 僕のPSYは弱い。それにインベーダーとの戦いはやはり危険だ。

 昔の話だけど大型のインベーダーによって多数のヒーローが負傷したこともある。有名なのは名古屋の惨劇だろうか。弱い人間が弱いまま戦場に飛び込んでも邪魔なだけだ。

 少しだけ大人になってしまった僕には少しだけ現実を見えるようになってしまった。


「正史。わしがこの力を授かった時はな、ひと悶着あったもんじゃ。でもな、人々の為に必死になって戦っているうちにわかってくれる人が増えたんじゃ。お前にもそんな人が必ずできる」

 そんな人が本当にいるのかな?

 PSYは主に若者に突然発現する。いつ誰が発現するか正確に特定することは困難で、わかっていることといえばPSYを発現させた人間の血縁者はPSYを発現する可能性が高いことだけだ。

 それゆえに昔PSYを発現させた人間が現れ始めた当初、魔女狩りのような事態に発展したこともあったらしい。

 じいちゃんはそんな時代の生き証人だ。今でこそどんな人にもヒーローの市民権が認められているのは先人たちの努力の賜物だ。


「じゃから正史。お前も正義の味方になれ。誰かを守るために戦え」

「うん……」

 ダメなんだよ。じいちゃん。僕なんかじゃ守るどころか守られる側でしかないんだ。

 今でもヒーローには憧れている。でも訓練しても僕のPSYは伸びなかった。数年前からほとんど成長していない。

 多分、これからも成長することはない。


 じいちゃんの言葉を聞きながらも心が晴れることはなかった。


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