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第三話 門番ロクシーの肩をもいじゃう

「こんにちわんばんこ~」


 みんな、久しぶり!

 五年ぶりぐらいってなんか頭の片隅で響いてるけど気にしないことにするわ!

 そう、私よ! コウ姉よ!


 ということで私は今、アイシャとレナとミナを連れて一番近くの村にやってきたの。

 挨拶は大事だから大きな声で言ったのだけど、門番っぽい人が腰を抜かしてたわ。

 こんな貧弱な足腰で大丈夫かしら。

 とりあえず手を取って起こしてあげて、バチコンとウィンクしてあげる。

 顔が青ざめてるけど、人って感動しすぎると赤を通り越して青くなるのね。

 一つ賢くなったわ。

 ……いやぁね、わかってて言ってるのよ。うふ♡


「な、なんだ貴様らは!」


 立ち上がって深呼吸した門番が言った。

 あら、声でっかい。うるさい。やーね、怒鳴り声って。

 元の世界で働いてたお店でも、オネエ相手には横暴に振る舞っていいと勘違いしてるおバカさんたちがいてね。

 まあ、そういう人たちはもれなくコウ姉特製頭突きで床に埋めてやったけど。

 あ、もちろん生きてるわよ! 私、殺し屋とかじゃないから引かないでね。


「なんだ貴様らは!!」

「わっ、なんで同じこと言ったの?」

「えっと、コウ姉が応えないからなのじゃ?」

「あら、やだ。私ったら自分の世界に入ってた? ごめんあさーせ。私はコウ。コウ姉って呼んでね♡」


 もう一回サービスでバチコンとウィンク。

 若い門番くんが鼻と眉間にしわを寄せた。

 こういうのなんて言うんだっけ? あ、そうだフレーメン反応。

 猫とかが臭いモノとか嗅いだときに……って!


「誰が臭いのよ!」

「そんなことは言ってないぞ!?」


 門番がうろたえる。

 驚くぐらいなら最初から人に臭いなんて言わない!

 あれ? 言ってた?


「コウ姉、この人は私たちが何者か知りたいだけなのじゃ。臭いなんて言ってないのじゃ」

「あら、やっぱり? ごめんなさいね、門番くん……えっと……名前は?」

「ロクシーだ」

「ロクシー! 良い名前ね。そうね、ロクシー、私たちは……そう、旅人よ」

「旅人ぉ……? 獣人奴隷を三人も連れてか? しかもそんな変な服を着て」

「おう! 誰が変な服じゃいコラ! ハート柄マシマシの可愛いパジャマじゃろがい!」

「わー! すいません! ごめんなさい! 顔を近づけないで! 圧が、圧がー!」


 私はロクシーがもう一度尻もちをつくまで顔を近づけてやった。

 ヲトメの可愛いパジャマをバカにするからそういうことになるのよ。反省しなさい!


「ところでアイシャ」


 私は笑顔でくるりと振り返る。アイシャがビクッと一瞬驚いたのは悲しいけどスルーするわ。


「こういうときってどういう身分を名乗るのがベターなのかしらん?」

「あ、えっと……」

「冒険者?」「旅人より冒険者!」


 アイシャより先にレナミナが答える。


「オッケー! じゃあ、ロクシー。私たち冒険者なの。村に入ってもいい?」

「なんで身分を変えるんだよ! そっちのほうがよっぽど怪し……ひぃっ! 顔を近づけないで!……いや! いや、わかった! 冒険者! あんたたちは冒険者だ!」

「わかればいいのよ」

「だ、だけど……じゃあ冒険者の証を見せてくれ! ひぁあっ! 顔が近い! いやぁっ! キスしようとするな! 待って、これは正当な理由だ! お、おい後ろの獣人たち、この人に説明してやってくれ!」


 私が振り返るとアイシャが苦笑し、レナミナが俯いて肩を震わせていた。

 笑えるのって大事よね。うん。


「冒険者は冒険者ギルドという世界中にあるギルドに所属している人間のことを言うのじゃ。登録を済ませた彼らにはギルドカードが発行されて、それがあれば大抵の村や街には入れるのじゃ」

「持ってないわね」

「そうなのじゃ」

「困ったわ。どうすればそのギルドカード? ってやつを入手できるの?」

「えっと……ここの村には、ギルドはありますのじゃ……ありますか?」


 アイシャが私の身体越しにロクシーに問う。

 ロクシーは露骨に嫌そうな顔をして視線を逸らした。


「……ある」

「だ、そうじゃ」


 アイシャは困ったような顔で私を見上げた。

 なるほどね。うん。これはちょっと話し合いで解決するような問題じゃなさそうね。

 村の顔である門番がこの反応だものね。OK、オーライ。わかったわ。

 ムカつくわ。でもまだ、暴れたりしない。コウ姉、It's Cool.(流暢な発音)


「わかったわ。じゃあここのギルドとやらでギルドカードを発行するから、村の中に入ってもいいわね?」

「……そいつらも入れる気か?」

「当たり前じゃない。こんなかわいい子たち外にほっぽりだせるわけないでしょ」

「なら、通行料と奴隷獣人税だ。一人銅貨十二枚」

「……あぁ?」

「ひぃっ!」

「ま、待つのじゃコウ姉! こ、この人の言っていることはこの世界だと普通なのじゃ! 身分が証明できないものは通行料と、獣人を連れていれば税金がかかるのじゃ……」

「……マジか、この野郎。そもそもアイシャとレナとミナは奴隷じゃないっつーの……」

「この世界の、決まり事なのじゃ」

「くそくらえよ。でも、簡単に捻じ曲げられるルールじゃないって感じよね。お金、持ってないわよね?」

「……ごめんなさい、なのじゃ」


 しゅんとしちゃうアイシャとレナミナ。ああ、違うのよ落ち込まないで。


「謝らないで。私も当然持ってないから、ねえ、ロクシー」

「な、なんだ……お、脅しには屈しないぞ」

「あんたさっきから何度も屈してるじゃない。じゃなくて、今、私たちお金持ってないの。だから、これを通行料代わりになんとか通してくれない?」


 私はアイシャたちが繋がれていた馬車にかろうじて残っていた食料や鉄の槍などを見せる。

 ロクシーは最初警戒していたけれど、しばらくして乾燥したお肉と鉄の槍を要求した。


「これで、あんたと後ろの獣人一人分」

「うそでしょ? ぼったくりじゃない。武器って高くないの?」

「待て待て! これでも譲歩したほうだって! ホントだ!」


 ロクシーが両手を前に出しながら後ずさる。

 まあ確かに、今さら足元を見ようとかしたらぶっ飛ばすのは彼も本能でわかってると思うけど。

 一応アイシャにも目を向けると、頷いたので、しぶしぶ納得してあげる。

 でも、これじゃあ意味がない。


「全員入れないと意味がないの。この野菜とか豆とかも受け取りなさいよ」

「いらんいらん。ともかく、これが精いっぱいの譲歩だ。それが嫌なら肉も槍も持ってどっか別の街に行ってくれ」

「くぅ~、このわからずや! 仕方ない、別の村を探すか、今ここでロクシーにはちょっと眠ってもらうか」

「ぶ、物騒なこと言うんじゃねぇよ!? 何する気だよ!」


 ロクシーが震える手で槍を構える。

 切っ先が震えてるわね。そんなんじゃ指先ひとつで簡単に軌道を変えられちゃうわよ。


「コウ姉、私にひとつアイディアがあるのじゃが」

「ん? なぁに?」

「冒険者ギルドに登録したら、仕事を受けるのじゃ。そうしたらお金を稼げるのじゃ。薬草採取なんかは前の主人にやらされていたから得意なのじゃ。今からやれば、遅くても夜までには終わる。そうすればギルドカードを持つコウ姉は通行料なしになるし、コウ姉だけでも村に泊まれるだけのお金は……むぎゅ」


 私は片手でアイシャの口を両側から押してやる。


「すとーっぷ、アイシャ。魅力的な提案だけど、最後のは聞き捨てならないわね」

「さ、最後……?」

「私だけっていうところよ。冒険者になることも、仕事を受けることをとってもいいわ。けどね、それであんたたちを外に寝かせて私だけベッドで気持ちよくスヤスヤおねんねしろって? そんなアレな所業、オネエがすたるってもんよ。わかる?」

「ひぇ、ひぇほ……」

「でももへったくれもない。あんたのアイディアには乗る。私は冒険者ってのになるわ。でも、一人だけベッドで寝たりしない。寝るときはあんたたちも絶対一緒よ。異論があるなら聞くけど無視するわ」

「コウ姉……」「男前……」と、レナミナ。

「こら、そこはさすがオネエ様でしょ」

「「さすがオネエ様!」」

「よし!」


 レナミナの返事に私は大きく頷いた。

 そうよ。私だけ快適な生活するなんて、何のためにこの子たちを連れて村にやってきたのかわからないじゃない。


「あー、水を差して悪いんだが……」

「なによ、ロクシー。やっぱり村に入れないってのはナシよ」

「そうじゃなくて。ギルドに登録するには登録料が必要なんだが……」

「……野菜や豆では」

「まあ、無理だろうな。さすがに俺は脅せても全世界に支部を持つギルドは脅せまい」


 ロクシーがにやりと笑う。

 仕返ししているつもりなのだ。ほーん。ふーん。そんな態度取るのねロクシー。

 優しくしすぎちゃったかしら。ねえ、ロクシー。


「ま、村には入れてやるよ村にはな。だがあんたが冒険者になるのは無理……いだだだだだ!」

「ロークーシー♡」


 私はロクシーのそこそこ鍛えている両肩に手を置いて猛禽類みたいに鷲掴みする。

 ロクシーが痛みで顔を歪める。なんかこの顔はセクシーでいいわね。ちょっと好み。


「登録料っていくら?」

「どう、銅貨三十枚……いだだっ、は、はな、いだだだだ!」

「貸して?」

「な、なんで俺が……いだだだだだだだだだだだ!」

「か・し・て♡」

「わかっ、わかりました……貸します! 貸しますから、手を、いだ、いだだだだ!」

「親切な人って好きよ私」


 私はロクシーにウィンクして手を離してやった。


「ひぃ、ひぃ、死ぬ。肩がもげるかと思った。腕、もがれるかと思った……」


 失礼ね。まだそこまではやってないわよ。


「さ、銅貨三十枚貸してちょうだい、ロクシー」

「く、クソ! この化け……や、いや、なんでもない。なんでもないから睨むな怖い。……ほらよ、もってけ!」

「ありがとうロクシー♡」


 私はロクシーから銅貨三十枚を受け取る。

 なるほど、これがこの世界のお金なのね。十円玉に似てるような、でもけっこう楕円で、形もちょっと歪に見える。

 ともかく、これでこの世界の通貨が手に入ったわけだ。

 借金ではあるけれど。


「レナ、ミナ、すぐに戻ってくるからここで待っててくれる?」

「わかった」「了解だよー」

「アイシャ、ついてきて。わからないところを教えて」

「わかったのじゃ」

「ロクシー、レナとミナをお願いね」

「……なんで俺が獣人を」

「お・ね・が・い♡」

「ひゃー! 手をワキワキしながら近づくな! わかった! わかったから!」

「親切な人って本当に好き。でももし、レナとミナに何かあったら……」

「わかってる! 俺も肩をもがれたくない! ちゃんと、見てる。こいつらに、つっかかるヤツがいないように」

「ありがとう。さ、アイシャ行くわよ!」

「了解なのじゃ!」


 私とアイシャは村の中心近くにある冒険者ギルドへと向かう。

 門での騒ぎを聞きつけた村人たちが数名、私たちを覗き見していたが、私が笑顔を振りまくと全員青ざめて目を逸らした。

 何よ、失礼しちゃうわね。私の美しさに気づかないなんて、なってないわ、異世界の村人たち!


 プリプリ怒りながら冒険者ギルドにたどり着く。

 ここへ来る途中、すごく嫌な目でアイシャが見られていたことが気になる。

 あれはそう、私がオネエになって生きると決めて、今の私で街へ出たとき、地元の連中に向けられた目とよく似ていた。


「大丈夫よ」


 私は俯いたアイシャの背中をポンと叩いてやり、バチコンとウィンクした。


「……のじゃ!」


 アイシャは顔をあげて笑顔を返してくれる。

 はー、可愛すぎ。ねえ、うちの子可愛すぎるんだけど。

 天使よ天使。ゲロマブ。


 さて、それじゃあ冒険者ギルド、いざ入ってみるとしますかね!

みんな五年ぶりね!久しぶり!コウ姉よ!

これから書き進めるためにぜひブックマーク、高評価、いいね、コメントよろしくね~♡

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