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ハーフエルフですが何か?  作者: はるきんぐ
第1章 学園入学
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第7話 対決

『お前の正体を知っている。今晩八時に学園裏の旧時計台まで一人で来い』


 康太の下駄箱に、そんな内容の手紙が入っていた。

 差出人の記載はない。


「さて、どうすっかなぁ……」


 手紙を見ながら、康太はそう呟いた。


 ―――康太の隠している正体がバレた。手紙の送り主は、その事を利用して康太に何らかの脅しや要求をするつもりだ。


 本来ならそう考え、手紙の送り主に怯える場面なのだろう。


 だが、康太はそうはならなかった。

 全貌を知っている康太からすれば、この手紙の内容はお粗末過ぎた。


 康太からすれば、

『あなたの正体が知りたいので教えてください』

 と、送り主が言っているようにしか思えなかったのである。




 まず、送り主は『お前の正体を知っている』と宣言している。つまり、康太の正体がハールエルフだと看破していることになる。


 康太の知る限り、ハーフエルフは世界で康太一人だけだ。レア度で言えば、絶滅危惧種であるシーラカンスよりも上になる。そんな康太に、『お前の正体を知っている』という手紙を出してきた。今回取り逃がせば二度とお目に掛かれないかもしれないのに、だ。

 康太が手紙を読んで行方を眩ましたらどうするつもりなのだろうか? 康太が手紙の送り主なら、手紙など送らずに問答無用で康太を捕縛する。


 この段階で、送り主は康太がハーフエルフと特定できていない事が読み取れる。


 

 次に、『一人で』という文言。

 

 康太相手にわざわざそんなことを書く必要はない。康太の両親は既に他界し、親しい友人もいない。天涯孤独なのだ。言われなくても一人で行くしかない。


 おそらく送り主は、康太が何らかの組織に属しているのではと警戒している。だが、その警戒は杞憂だ。康太は何の組織にも属していないのだから。


 一応、楓という親族はいるが、彼女は前線に出るタイプではない。後ろに控えてアレコレ工作するタイプだ。仮に康太が付いてきてと頼んでも付いてきてくれないだろう。

 もしも楓の事や楓と康太の関係を知り得ていれば、こんな内容の手紙を送ってくる筈がない。


 つまり送り主は、康太の身辺に関する情報すら、ほとんど掴んでいないという事だ。


 もっとも、今回の手紙は脅迫状としては悪くない。どこまで康太の正体を掴んでいるかを手紙で明言していないし、送り主の目的についても言及していない。これでは事前に対策をすることが出来ず、康太はぶっつけ本番で送り主に挑むしかなくなる。


 しかし、今回は前提が違いすぎた。

 康太相手では、脅迫状の体すら成さなかったのである。

 



「明日、部活で聞いてもいいんだけどなぁ……」


 康太が再び、ポツリと呟く。


 実は康太は、手紙の送り主についてもほとんど見当が付いていた。

 この数日感じていた監視されている気配と、この手紙についた魔力の残響。この二つで送り主の正体は特定が出来た。

 今晩無理に旧時計台に行かなくても、明日部室で彼女と話をすればよいだけだ。


 とはいえ、康太も気になる部分があった。


 少なくとも送り主は、康太が実力を隠していることには気付いている。

 どうやってその事に気付いたのか。

 そしてもう一つ気になる点、送り主の目的は何なのか。

 その目的そのものには興味はないが、今後も付き纏われては面倒だ。

 大した目的ではないのなら、これっきり接触をナシにして欲しいところだ。


「やっぱり気になるし、今晩行こうかな」


 接見場所である旧時計台には、何かしら罠を張られていると考えるのが妥当だ。その観点で行けば、今晩はスルーして明日部活で話をした方が賢い選択と言える。


 しかし、こんなお粗末な手紙を送ってくる相手だ。どんな罠でも対処しきる自信が、康太にはあった。


「一応、楓さんには報告しとくか」


 康太は考えを纏めると、スマホを取り出した。




――――




 学園は十年前に一度建て替えが行われた。

 その際、旧校舎の一部は取り壊されず、倉庫や予備の施設として利用されることになった。

 旧時計台は、そんな旧校舎の敷地の一角にある、現在は使われていない時計台である。



 指定された午後八時―――。

 康太は、旧時計台の下を訪れていた。

 この場所は学生寮から離れており、夜にこの辺りに来るやつはまずいない。キナ臭い話をする場所としては打って付けだった。


「―――ちゃんと一人で来たんだね」


 旧時計台から少し離れた建物の陰。

 その暗がりから、少女の声が康太に話し掛けてきた。


「手紙にそう指示してありましたからね」


 コツコツと靴音を響かせ、声の主が康太に近付く。

 やがて、その姿が月明かりの下に晒された。


「手紙の送り主は貴女だったんですね、宇佐部部長」


 暗がりから出て来た少女――宇佐部舞がクスリと笑った。


「そうだよ。でも、台詞の割にあまり驚いてないようだけど?」


「まぁ、多少は当たりをつけていましたから。と言うより、僕は知り合いが少ないので送り主の候補を予想するのが難しくなかっただけですが」


 康太は、送り主を舞と特定していたことは取り敢えず伏せることにした。出来る限り油断はさせておいた方が良いと思ったのだ。


「どうだか?」

「そんな事より、俺を呼び出した用件はなんですか?」


 舞は康太の腹を探りたいようだが、康太はそれに付き合うつもりはなかった。早く本題に入れと促す。


「……そうだね、単刀直入に言うよ。秦野くん、君に今度とある組織で行われる「決闘」に参加して欲しいの」


「……け、決闘?」


 舞の口から思ってもいない単語が飛び出した。

 彼女は先ほど、間違いなく決闘と言った。

 決闘なんて単語、漫画やアニメならともかく、日常生活でまず耳にすることはない。

 何かの冗談なのだろうか?

 康太はそんな考えを抱いたが、目の前の舞は至って真剣な表情をしていた。


「妙な事を言ってるのは分かってるよ。でも、まずは話を聞いて欲しいの」

「……」


 舞の説明によると、決闘というのは、とある組織で行われる組織内部の争いに決着を付ける為の戦いのことらしい。その決闘には三人で挑むというルールがあり、舞は一緒に戦ってくれる、且つ、実力のある異能者を探していたそうだ。康太以外の生徒にも声をかけたのだが、他の生徒はみな派閥争いに巻き込まれるのが嫌で、協力してくれる人は誰もいなかった。


「……俺だって嫌ですよ?」


 当然ながら、康太はそう言った。

 詳しい事情は分からないが、これは明らかに面倒事だ。それは、他の生徒が軒並み断ったという事からも察することができる。

 それに、康太にも事情がある。その決闘に参加すれば、せっかく隠している康太の正体がバレる可能性が高い。舞が困っているというのは何となく分かるが、康太には決闘に参加するという選択肢を取ることは出来なかった。


「まぁ、そう言うだろうとは思ってたよ。

 ―――でも、秦野くんは私のお願いを断れない(・・・・・・・・・・)でしょ?」


 眼鏡の奥の舞の瞳が、ギラリと輝いた気がした。

 康太は溜め息が出そうになるのを堪え、言葉を紡ぐ。


「こんな脅すような真似をしなくても、ちゃんと正面から誘ってくれれば、宇佐部部長のお願いを聞いていたかもしれませんよ?」


「そうかもね。でも、わざわざ正体を隠しているような人に正面からお願いしても、あっさり断られるだけだと思ったんだよ。

 ……ちなみに、了承してくれるの?」


「いや、お断りします」


「ほらやっぱり。でも、いいの? 私は秦野くんの正体を知ってるんだよ?」


「……その件なんですが、俺には全く身に覚えがないんですよね」


 康太はすっ呆けることにした。

 舞が康太の正体をほとんど掴んでいないことは明らかなのだが、かと言って自分からヒントを与えるような言動も慎むべきだ。


「あれ、とぼけるの?」


「とぼけるも何も、何の事だかサッパリなので」


「まぁ、疑うのなら証拠を出せって話になるよね……」


「……」


 康太は無言で続きを促す。

 康太が実力を隠しているという証拠。

 それは言い換えると、康太が実力を隠していると見破った方法という事になる。


 今後の為にも、康太はその方法だけはどうしても知っておく必要があった。




「―――らいらいッ!」




 突然、舞が使役精霊の名を叫んだ。

 後に控えていたらいらいが巨大化する。




『うらぁぁぁぁっ!』




 らいらいがバサバサと翼をはためかせる。

 らいらいの翼から羽が手裏剣のように飛び出した。


「くっ!」


 康太は飛来する羽手裏剣を身を捩って躱す。

 そして、バックステップで舞達から距離をとった。


「……いきなり攻撃を仕掛けてくるとは、一体どういうつもりですか?」


 康太が剣呑な顔をするが、舞は動じなかった。

 それどころこか、舞は申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「突然攻撃してごめんね。でも、これが秦野くんが実力を隠している証拠なの」

 

「……? どういうことですか?」


「私の異能は精霊術師って言ってね、精霊とコンタクトが取り易くなるものなの。でね、その精霊術師の能力の一つに、使役している精霊を他の人に視認できなく(・・・・・・)するってのがあるの。でも、この能力には欠点があって、異能者が私より強い場合(・・・・・・)は、その術が通用しないのよ」


「……まさか」


「秦野くんの異能者ランクを調べさせてもらった。新学期の測定試験でEランクだったんだってね? でも、それだとおかしいの。Eランクの人はらいらいの攻撃を躱すどころか、その姿さえ見えない筈だから」


「……」


 康太が黙っていると、舞がスマホを康太の目の前に掲げた。


「さっきの秦野くんの動き、動画に撮らせてもらったよ」


 舞の表情は、少しバツが悪そうだった。

 しかし同時に、ある種の覚悟のようなものも感じ取れた。


「……その動画を、どうするつもりですか?」


「秦野くんが私のお願いを聞いてくれるならどうもしない。でも、お願いを聞いてくれないと言うのなら……、学園に提出するかも」


「俺を、脅すわけですね」


「……ごめんね。でも、秦野くんしかお願いできる人がいないの」


 舞の表情は真剣だった。


 その顔を見ながら康太は考える。


 神妙な表情をしている舞。一見すると、彼女は嘘を言っているようには見えない。本当に切羽詰まっているように感じる。

 だけど、安易に彼女の言葉を信じるのは危険だ。


 それに今回の件、例え舞の話が真実だったとしても康太に引き受ける事は難しい。

 

 康太は別に薄情な人間ではない。

 困っている人がいれば、可能な限り手を差し伸べたいとは思っている。

 だけど、今回のケースは異なる。

 「可能な限り」の範疇を大きく超えている。


 先ほども言ったが、その決闘に出て戦えば、康太がハーフエルフであるとバレる可能性が非常に高い。それは絶対にバレてはいけない秘密だ。故に、舞のお願いを受ける事は出来ない。


 しかし、そうなると困るのが舞の扱いだった。


 片鱗とはいえ、康太の秘密に触れてしまった。

 しかも、それを学園にバラすことを仄めかしている。


 このまま放置することは出来ない。


 一応、舞を説得する方法はいくつかある。

 しかし、それでもダメなら……。


 と、康太が思考を巡らせていた時だった。





『―――あらあら、なんや面倒な話になってるみたいやなぁ』





 間延びするような声と共に、妙齢の女性が、忽然と姿を現した。

 それは、紅い豪奢な着物を纏った美女だった。

 彼女は、康太に向けて妖艶な笑みを浮かべる。


『こんな小娘、クロクチちゃんにお願いすれば直ぐやのに。なんならウチが焼き払ってあげましょか?』


「アカメっ! どうして出てきた?」


『康太はんが、何や困ってはるみたいやったさかい』


 アカメと呼ばれる美女は、そう言ってクスクスと笑った。


 一方、突然のアカメの登場に一番困惑しているのが舞だった。


「な、何よ貴女!? ……いや、この気配は精霊……?」


 アカメが精霊だと気付いた舞の顔は、途端に真っ青になった。


「そんな……。人型の精霊を使役するなんて……」


『ウチの康太はんに手ぇ出すとは、ええ度胸やねぇ』

「別にお前のものじゃない」

『う~ん、いけずぅ』


 動揺している舞とは対照的に、アカメと康太は緊張感のない会話をしていた。

 だが、舞以上にアカメの登場に驚いている者がいた。


『アカメ、だと……? お前は、いや、貴女は、炎の……』


 らいらいが震えた声で話すが、その言葉はアカメ本人によって遮られた。


『――今のウチはアカメやで。康太はんに使役されてる、只のアカメや』

『……っ!』


 アカメの強烈なプレッシャーを浴びたらいらいは、途端に口を噤んでしまった。


「らいらい、この精霊のこと知ってるの?」

『……お嬢、コイツは虎の尾だ。それもとびっきりのな……』

「え?」

『絶対に踏んじゃいけねぇ。幸いまだ一線は超えてねぇ。命が惜しけりゃ全力で謝罪しろ!』

「そんな……。だって私達が敵わないって言ったら、それは……」

『……』


 有無を言わせないらいらいの雰囲気に、舞も状況を理解したようだ。康太に対して絞り出すように謝罪を始めた。


「……秦野くん、ご、ごめんなさい。どうやら私は貴方の事を見誤っていたみたい。動画のデータは破棄します。秦野くんのことは誰にも言わないから、許してください」


 そう言てうと舞は頭を深く下げた。

 どうやら舞は引き際を弁えている人間の様だ。

 康太は「ふぅ」と息を吐いて、緊張を緩めた。


「……まぁ、動画を破棄してくれるんなら、俺も必要以上に問題を大きくしようと思いません」


 康太の口調は穏やかだった。


 何とかこの一件はこれで終わりそうだ。

 しばらくは舞を監視した方がいいが、どうやら血生臭い展開は回避できたようだ。

 康太がそう安堵しかけた時だった。


「……でもね、秦野くんがそれほどの力を持っているのなら、私は尚更諦めることは出来ない……っ!」


「え?」


 舞がバッと顔をあげると、康太に詰め寄る

 そして、真剣な眼差しで康太に訴えかけた。


「せめて、今回の件について、本当の当事者から話を聞いて欲しいの、お願い!」


『……それは、他に黒幕がおるってこと?』


「黒幕なんて……、そんな大それた話じゃないよ。その子は私の友達なの。決闘で負けて困るのはその子。私はそれが嫌で、彼女の手伝いをしていただけ」


「なるほど。しかし、その当事者の話を聞いたところで、俺は今回の件に関わるつもりはないですよ」


「それでもいい! お願い、話を聞くだけでも!」


「……」


「実は、この会話も彼女に伝わっているの。らいらいの分体がリアルタイムで彼女に情報を報告していたから。彼女は間もなくここにやって来る」


 どうやらこの展開も最初から考えられていたようだ。

 最終手段として、その黒幕が登場することも想定していたのだろう。

 舞の話を聞いて、康太は一つため息をついた。


「……はぁ、分かりました。話を聞くだけですよ?」


「ありがとう!」



 十分後、一人の少女が姿を現した。


「……貴女は」




「こんばんは、秦野くん」




 現れたのは、高船神社が誇る才女、高船美里だった。

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