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ハーフエルフですが何か?  作者: はるきんぐ
第1章 学園入学
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第4話 勧誘

 学園に入学して数日が過ぎた。

 新生活に不安を感じていた康太だったが、その滑り出しは概ね順調だった。


 というのも、新学期初日に亮平達が康太を受け入れてくれたことが大きい。

 クラスメイトの中にはいまだに康太をレイターとして侮る者もいるが、亮平達はそんな差別的な目を康太に向けたりしなかった。


 今も、昼休みに何気ない雑談に興じているところだ。


「へぇ~、じゃあ二人は幼馴染なんだ」


 康太がそう言うと、言われた二人――香奈と亮平は揃って「心外だ!」という表情を見せた。


「そんな良いもんじゃないわよ、ただの"腐れ縁"! どうせ腐ってんならこんな縁早く切れて欲しいぐらいよ!」

「はぁ? 何その言い方! 俺の方こそお前と幼馴染なんて願い下げだっての」


「……はは」


 香奈と亮平は学園に入学する以前からの知り合い、所謂幼馴染らしいのだが、それを指摘されるのはどうやらお互い嫌らしい。

 途端にいがみ合う二人を見て康太が乾いた笑みを浮かべていると、すかさず麻美が会話に割り込んできた。


「こんな風に、二人は喧嘩するほど仲良しなのです!」 


「「だから仲良しじゃないっての!」」


 麻美の言葉に、またまた二人が息ピッタリで突っ込む。

 どう見ても仲良しだ。


 新学期初日に康太に話し掛けてくれた四人は、中等部からの馴染みという話だ。


 日野亮平は、後の席ということもあり学園で一番会話をする間柄になっていた。話し方はぶっきら棒だが、実は面倒見の良い奴でもある。入学初日にボッチだった康太にまず話し掛けたきたのも、亮平であった。


 美崎香奈は康太の第一印象通りかなり親しみやすい娘だった。誰とでも分け隔てなく話すタイプで、クラスでも男女問わず人気がある。ただ、印象と違ったのは、思ったよりボーイッシュというか活発な女の子だった事だ。


 瀬戸麻美は香奈以上に活発な女の子だ。ただし、活発過ぎて、時に突拍子もない事をして周りを驚かせることがある。たぶん、天然なのだろうと康太は考えている。


 野村涼子は委員長タイプだ。といっても、ノリが悪かったり融通が利かないとかではなく、何でもソツなくこなすという意味だ。

 



 学園に馴染んできた康太だったが、戸惑いを覚える部分もあった。

 そのうちの一つが"部活"だ。


「そういえば康太、部活は決めたかのか?」


 香奈とのじゃれ合いもそこそこに、亮平がそう訊ねてくる。


「あー、まだ決めてない。亮平は?」

「俺はバスケ部。中等部からずっとだからな」

「そっか」


 学園では、特別な理由がない限り、部活など何らかの課外活動を行う事が義務付けられている。

 義務教育でもないのに高校生で部活を強要するの? なんて疑問が湧くかもしれないが、これには理由がある。


 実は昔の学園は今ほど優秀な学び舎ではなかった。学園卒業者はそれほど評判は良くなく、卒業後に犯罪に走る異能者も結構いたのだ。この事に頭を抱えた十数年前の学園担当者は、欧米の異能者教育施設を参考に試験的に部活制度を導入した。ダメ元で行われた施策だったのだが、結果的にこれが大当たりした。翌年から学園出身者による犯罪は激減したのだ。


 どうやら、学園という限られた空間の中で、固定的なカリキュラムかつ固定的な生活を続けた結果、閉塞感からストレスが蓄積されてしまうようなのだ。これを防ぐ為には何らかの別の刺激を与える事が有効で、たまたま導入した部活制度がストレス解消に寄与したという事だった。


 それ以降、学園では部活動が義務付けられることになった。


 とはいえ、部活制度の主旨は異能者のストレス解消にあるので、部活に限らず、例えば生徒会とかボランティアとか、課外活動であれば問題はない。ただ、新規に活動を考案するのはやはりハードルが高く、既存の部活に入部するのが一般的であった。


「秦野くんって中学は何か部活やってたの?」

「ん? 考古学研究部」

「え、意外。てっきり体育会系かと思ってた。スポーツできそうだし」


 涼子の質問に康太が答えると、横で聞いていた麻美が目を丸くした。


「そんな事ないよ、結構どん臭いし。入るとしたら何か文化系の部活かなぁ」


 康太は軽く笑いながらそう言った。


 実はこれは嘘だ。

 体育会系の部活だと、わざと力を抑えた三文芝居をする必要がある。

 それをしたくないだけだ。

 

 本当は運動系の部活に入って身体を鍛えたい所だが、それで目立ってしまっては本末転倒になる。筋トレや運動は、みなが寝静まった深夜や早朝に康太一人でこっそり行っていた。


「まぁ、入部届の締切は今月末だし、ゆっくり考えればいいんじゃない?」


 香奈の言葉に「そうだね」と康太は応じる。


 色々と縛りを抱えている康太は、三年間帰宅部で通そうと考えていた。

 しかし、規則と言われたら仕方がない。

 最終的な期限である今月末までに、見学に行ったり仮入部したりしながら自分の入りたい部活を決めなければならない。

 その事を考えると、康太は面倒臭さから溜め息が出るのであった。


 そして、康太が学園で戸惑いを覚える部分がもう一つあった。


 それは――。


 康太達が雑談していると、突然、教室の扉がバンッと開かれた。





「ホーホッホッホッ!」





 高笑いを上げている女生徒を先頭に、数人の生徒がこの教室に入ってきた。


「おい、あれって、二年の……」

「うそ、氷川沙織(ひかわさおり)さん!?」

「え? 氷川先輩って、あのCランクの……?」

「何でここに……」


 突然現れた上級生の存在に、クラスが騒然となる。

 一方、康太は、


(あの時の金髪縦ロール!!)


 入学式で見かけた強烈な外見の彼女をしっかりと覚えていた。


 氷川沙織は数人の取り巻きを従えて教室を悠然と歩く。

 そして、一人の生徒の机の前で立ち止まった。


「ふ、ふぇ……」


 机の主である女子生徒は、怯えた様子で氷川沙織を見上げる。


(あれは……)


 それは模擬戦の控室で康太が気に留めた少女だった。


 名前は、二宮(にのみや)あかり。


 控室で康太は、あかりの魔力の流れに違和感を覚えた。

 その時は時間がなくあかりと話すことは出来なかったが、後にあかりが同じ特殊クラスだと知った時は康太も驚いた。

 とはいえ、康太はあかりと面識がある訳ではない。

 ただ一方的に、あかりの魔力に違和感を覚えただけだ。

 そして、その後のあかりからは模擬戦の時の様な違和感は感じられなかった。

 そのため康太は、今日まであかりに特別に接触しようとはしていなかった。



「二宮あかりさんね?」

「は、はい……」


 氷川沙織が問うと、あかりは声を何とか絞り出して答えた。


「単刀直入に言います。貴女、私の傘下に加わりませんこと?」


「「「おおっ!?」」」


 氷川沙織の発した言葉に、クラス全体がどよめく。


「……ふ、ふぇ?」


 よく分かっていない様子のあかりに、氷川沙織は上品な笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「数日前の模擬戦で、貴女の戦いは素晴らしかったと聞いています。ランクも一気にDランク中位まで上がったとか。貴女のような実力者には是非、私の傘下に入って頂きたいのです」

 

「ふ、ふぇぇぇ!!?」


 ようやく氷川沙織の話の内容が理解できたようで、あかりは目を見開いて立ち上がった。


「いかがかしら?」

「いや、私は、そんな、あの、私の様なものは……!」


 動揺してシドロモドロになっているあかりの手を、氷川沙織は優しく握る。


「ごめんなさい、急な話だったので驚かせてしまったようね。もちろん、今ここで返答を急かすような真似はいたしませんわ。ゆっくり考えてください」

「…………」

「ただし、私が貴女の事を気に留めている、その事を貴女の胸に留めておいてくださいね」

「……は、はひ……」


 あかりがコクコクと頷くと、氷川沙織も満足そうにニッコリ笑った。


「では、また参ります。御機嫌よう」


 そう言うと、氷川沙織は取り巻きを従えて優雅に教室を後にした。

 嵐のような上級生が去った後、クラスがザワザワと騒ぎはじめる。


「二宮、すげーな。氷川陣営から勧誘が来たぞ。それも氷川先輩が直々に」

「俺、二宮の模擬戦を生で見たけど確かに凄かったからな」

「私も見た。中等部の時とはまるで別人よね」

「普段はパッとしないけどな」

「おい、そういう事言うなよ。二宮さん、気にしないでね。本番で真価を発揮してこそ優秀な異能者だから」

「あ、いえ、その……! ……ありがとう、ございます」


 思わぬクラスメイトのフォローに、あかりは慌てて手をパタパタさせた後、小さな声で礼を言った。





「……亮平、勧誘って何だ?」

「ん? ああ、入学したばっかの康太は知らねーか」


 興奮気味にあかりの様子を見ていた亮平だったが、康太に質問されて振り返った。


「えーと、何から話せばいいか……。異能者が優秀な人材として期待されているのは知ってると思うが、高ランクの異能者には、多くの国や企業が獲得競争に動いているって話は聞いたことあるか?」

「ああ」


 康太は以前、楓からその手の話を聞かされたことがある。

 高ランク異能者の引き抜き合戦は熾烈を極めている、と。

 その理由は、異能者の性能の高さだ。


 例えば、Sランク異能者は天変地異さえ引き起こすと言われている。

 そんな異能者を活用すればどうなるだろうか?

 軍事面に回せばこれほど強力な兵器はないし、土木工事などの公共事業をやらせれば常識外の成果をあげるだろう。

 しかも、金も設備も必要なしに、だ。

 費用対効果は桁違い。

 そんな人材を国や企業が欲しがらない筈がなかった。

 Bランク以上の有力な異能者は、かなりの大金が積まれたり、強引な引き抜きが行われることも珍しくないと言う。

 

「その競争が、ここ数年で更に激くなっている。学園を卒業してからじゃなくて、在学中から獲得競争が行われるようになってきてんだ」

「………」

「氷川先輩の実家は日本有数の財閥である氷川財閥だ。彼女は将来を見据え、在学中から異能者の青田買いをしてるってわけだ」

「なるほど……」

「でも、異能者としてやっていくんならツテやコネはあった方がいいからな。氷川先輩に声を掛けられるのはやっぱ凄いことだよ」


 そういうと、亮平はあかりに視線を戻した。

 あかりは先ほど起こった事がいまだ信じられないようで、声を掛けてくるクラスメイトにアタフタと対応していた。


「……あの子は?」

「ああ、二宮か? 中等部まではEランクでパッとしない感じだったんだけどな。春休みで特訓でもしたのか、先日の測定ではまるで別人みたいな結果を出したんだよな」

「……そうか」


 急速に力を伸ばしたという二宮あかりの存在は気になったが、現状ではこれ以上のことは分からないと思い、康太は考えるのをやめた。


 これが、康太が学園で戸惑いを覚えることの二つ目だ。

 在学中から盛んに行われる、異能者の獲得競争――。


(良かった、異能値測定を無難に乗り切れて。仮にあの時結果を出していたら、今の二宮さんみたいになっていたってことだからな)


 康太は別に、異能者として大成したいわけではない。

 だから、ツテもコネも必要ない。

 それどころか、目立ってしまったら一巻の終わりに繋がる可能性がある。

 あかりの現状を見て、康太は平々凡々とした自分の立ち位置に改めて安堵するのであった。

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