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ハーフエルフですが何か?  作者: はるきんぐ
第1章 学園入学
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第1話 入学

「ここが学園かぁ」


 正面に立つ近未来的な建物を見上げて、俺は感嘆したように呟いた。


 左右対称のフォルム。美しい白亜の建物は、まるでファンタジーに登場する王城のようだ。その威風堂々たる姿に思わず胸が高鳴る。


 国立異能者育成学園――通称「学園」。


 日本で唯一の異能者専門の教育機関だ。全国から十八歳以下の異能者が入学してくるため、生徒総数は軽く五千人を超えるという。


 広大な敷地の中には、全国から入学してきた異能者のための学生寮、スーパーや書店などの生活施設、異能者の研究棟などが設置されており、学校施設というよりはちょっとした街のような規模となっている。


 俺は本日からこの学園の高等部に通うことになっている。


「どんな異能者がいるんだろうなぁ」


 これだけたくさんの異能者と接する機会なんてこれまでなかった。俺が今まで見たこともない異能の力を扱う奴もたくさんいるのだろう。そう期待に胸を膨らませていると―――。


「……康太様なら、数日も経たぬうちに全ての者を(くだ)せるかと」


 後ろに控える白銀の髪の美少女が、俺の呟きにそう反応した。

 俺は溜め息を一つつき、少女を振り返る。


「……ラティファ、"下す"ってなんだよ。俺はここに学びにきたんだぞ。そんな物騒なことを言うな」

「……」

「あと、なるべく同級生らしくしてくれって言ったろ。俺を"様"付けで呼ぶのも禁止」

「康太様、ですが……」

「ラティファ、頼むよ。そうでなくても、くれぐれも正体がバレないよう亡くなった母さんからもキツく言われているんだから」


 俺が苦笑交じりにそう言うと、ラティファは渋々頷いた。


「……わかりました。康太さ、ま……さん」


 ラティファの態度は同級生というにはまだたどたどしいが、この堅物の少女にしてはギリギリ及第点だろう。


「できれば敬語も止めて欲しいところだけど……」

「それはできません。命の恩人であり、あの御方のご子息である康太様にそのような馴れ馴れしい口調、もってのほかです」


 更なる譲歩を引き出そうとしたのだが、少女はそこはキッパリと断ってきた。


「……わかった。じゃあ、取り敢えず呼び方だけは気を付けてくれ」

「承知しました。康太さん」


 生真面目に頭を下げるラティファの姿に、俺はもう一度苦笑いを浮かべるのであった。





――――





「えっと、入学式の会場は……」


 校門は、入学式に参加する生徒とその保護者でごった返していた。こういった光景は一般の学校と変わらないようだ。


 俺は両親が既に他界しており、ラティファも親しい親族はいない。俺達は二人だけで入学式に出席する予定だ。


「高等部の新入生の方はこちらでーす」


 誘導の看板に従って一際大きい講堂へ向かうと、そこでは学園の制服を着た生徒数人が新入生達の案内を行っていた。

 彼らの腕には「生徒会」と記された腕章が付けられていた。


(あの生徒会の人……。他の人より格段に強いな)


 先頭にたって誘導している女生徒を、気付かれないように観察する。


(高校生であれだけの力を秘めていれるのは大したもんだよな)




 金髪で縦ロール。

 アニメ以外で初めて見た。


 衝撃を受けているのは康太だけではないようで、他にも思わず二度見している人もいた。


「保護者の方は後ろの保護者席へ。新入生の方は前の席にお進みください」


 しかし、当の女生徒自身は全く意に介していない。上品な微笑みを浮かべながら、テキパキと新入生の案内を行っていた。


(さすが、これだけ大きい学校だと色んな人がいるんだな……)





 講堂の中に入ると、そこも既に多くの生徒で溢れていた。指定された席に座ってしばらく待つと、入学式が始まった。


「学園長の祝辞があります。新入生の方は起立してください」


 アナウンスに促され、壇上に初老の男性が上った。


「学園長の安永(やすなが)です。高等部から入学された方は、はじめまして。中等部から在籍されている方は、改めてよろしくお願いします」


 丁寧かつ朗らかな口調で、安永学園長が話す。


 ちなみに、康太のように高等部から入学というケースは実は珍しい。

 というのも、一般的に異能者は、十歳までにその異能の力に目覚める為だ。幼い頃に学園に入り、小等部、中等部とエスカレーター式で進学してきている生徒がほとんどだった。


「世界的に異能者の数も増え、異能者の社会的地位も向上してきました。ですが、世間ではまだまだ異能者に対する見方は厳しい物があります。その最たる原因は、悲しい事ではありますが、異能の力を犯罪に使ってしまう者がいる為です」


 異能者による犯罪は年々増加傾向にある。異能者の数そのものが増えていることも理由の一つだが、最近では、その犯罪が組織化・凶悪化しているとも報じられていた。


「異能者の力は強力です。ですが、強力だからこそ、正しい使い方をする必要があります。ある物理学者の語録に、"優れた科学者を生み出すのは知性ではなく人格である"という言葉があります。"強力な異能者"と"優れた異能者"は同義ではありません。いくら異能の力に長けていようとも、正しい心で扱わなければ優れた異能者とは言えないのです。皆さんには是非、この学園の授業を通して人格を高めて頂き、"優れた異能者"になって頂きたい、そう思っております」


 そんあ小難しい話で、安永学園長の話は終わった。


 入学式が終わると、新入生は別棟にある体育館のような場所に集められた。その体育館の中には幾つもの機材が並んでおり、職員達がそのチェックを行っていた。


(いよいよだな……)


 康太の顔が緊張で強張る。

 これから行われるのは、異能値や身体能力を測るテストだ。


 「異能値」とは異能の力を発する力を数値化したものである。魔法使いであれば魔力に当たるし、陰陽師であれば霊力がこれに相当する。学園ではこの手のテストが定期的に行われ、その結果がクラスの割り振りだったり最終的な卒業時の成績に反映される。


 つまり、この測定は生徒にとって内申を左右するほどの重要なテストになるわけだ。


 とはいえ、康太が緊張しているのは、成績や内申を気にしての事ではなかった。

 康太には、この学園に入学するにあたって叔母から口酸っぱく言われていることあった。



『康太、アンタがなんで学園に入学するか分かる?』

『うん、異能者として生きていく術を学ぶため』

『なんで異能者として生きていく必要があるの?』

『……えっと、それは……』

『アンタが異能者として生きていくのは、いわば"保険"よ。極めて異質な存在であるアンタが、少しでも異質さを誤魔化せるように』

『……"保険"』

『そう。そして、今後のアンタの人生を考えたら、異能者という"保険"を掛けておくのが最善だと思う。それは私も、アンタの亡くなったお母さんも同じ意見よ』

『……うん』

『でもね康太、やり過ぎちゃうのもダメなの。悪目立ちするとアンタがハーフエルフって事を周囲に勘繰られちゃうからね』

『……』

『そうなったら、アンタの人生はお終い。アンタは科学者達から見れば喉から手が出るほど欲しい超貴重な実験素材なの。残酷な話だとは思うけど、それが現実。もうまともな人生は歩めないと思いなさい』

『……うん』

『まぁ、万が一バレたとしても最悪の事態だけは回避できるよう私が全力で守ってあげる。でも、アンタも常日頃から気を付けること。いいね?』

『うん、わかった!』



 正体をバラしたくない康太は、異能者としてはある程度認めて欲しいものの、だからと言って過度な注目は集めたくはないという、かなり面倒臭い立ち位置だった。

 このテストで力を抑え過ぎて能力値ナシと判断されるのは論外だが、逆に良い成績を出してしまうと正体を勘繰られる恐れがある。

 そのため、康太は微妙な力加減でテストに臨む必要があった。


(……大丈夫かな、うまくいくかな? いや、叔母さんがせっかく教えてくれんだ。きっと大丈夫なはずだ!)


 康太は自分に言い聞かせるかようにそんな考えを抱く。


 一応、康太はこのテストを乗り切る為の「秘策」を準備してきた。

 実は康太の叔母は異能者業界でちょっとした立場にある。その彼女から事前に異能値の測定方法を教えてもらったのだ。その情報に合わせて魔力――異能値を調整し、測定値を低めに誤魔化すという算段だった。


 測定方法を彼女から教えてもらった時、これは内部情報の流出に当たるのでないだろうか? と少し心配になった。しかし、彼女は、


『測定方法を知ったからと言って、それに合わせて異能値を調節するなんて変態的な真似が出来るのはアンタぐらいよ』


 と康太の懸念を一笑した。


 変態的と言われのは心外だったが、康太も自分の魔力の扱いには自信があった。

 子供の頃、外での魔法使用を禁じられていた康太は、家の中で魔力を操作する練習ばかりずっと行ってきた。長年その練習を続けた結果、今では呼吸をするように魔力を扱う事が出来るようになっていた。



「百六十八番、秦野くん」

「あ、はい」


 名前を呼ばれ、康太は測定の試験官をしている職員のもとへと向かった。

 

「じゃあ、今から測定します。秦野くんはどんな異能の力が使えるのかな?」

「風魔法です」

「そう。じゃあ、その機械に向かって魔法を使ってください」

「はい」


 職員が指差す先には、先端に赤い玉の付いた長さ一メートルほどの棒が立っていた。


 康太が自分の掌に魔力を込める。


 能力値は、数値に応じて上からS・A・B・C・D・Eの6段階で評価される。

 Sランク異能者は天変地異さえ引き起こすほど強大な力を振るうと言われているが、その域に到達した異能者は片手で数えるほどしか確認されていない。学生だとCランクまでいけば優秀らしい。しかし、それもほんの一握りで、大半の生徒がD、Eランクにとどまる。

 康太が目指すのはEランクだ。それ以上を出してしまったら、今後の学園生活が遣り辛くなる。


風の刃(エアカッター)!」


 康太が呪文を唱えると、うちわで扇いだ程度のそよ風が生じた。

 当然だが玉付き棒はそよ風如きでは微動だにしない。

 そよ風はそのままあっさりと消滅した。


(よしっ! 完璧!)


 我ながら絶妙な力加減だ。

 確かな手応えを感じて、康太は心の中でガッツポーズをした。


「えーと、能力値は……96。Eランクね。残念、あと4ポイントでDランクだったのに。次は頑張ろうね」

 

 康太が残念がっていると思ったのだろう、職員が励ましの言葉をかけてきた。

 康太はその職員に落ち込んだ風の表情を返す。

 しかし、康太は心の中で冷や汗を垂らしていた。


(……あぶねー。もうちょっとでDランクじゃねーか)

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