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ハーフエルフですが何か?  作者: はるきんぐ
第1章 学園入学
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第13話 高船神社の決闘④

 時は一時間ほど遡る―――。

 控室を出てトイレに向かった康太は、人目を忍んでアカメを召喚していた。


「率直に聞く。アカメは俺があの"狂犬"という男に勝てると思うか?」

『……康太はんはどう思ってはるの?』

「魔力差でいけば……勝てると思う」


 康太がそう言うと、アカメが口元を僅かに緩める。


『そやな、その見立てで間違ってないと思うけど?』

「だけど、俺には実戦経験がほとんどない。特に、接近戦ではその経験不足がモロに出ると思う。その辺りで足下を掬われたりしないかな?」


 史郎と美里の遣り取りを見た康太は、美里に可能な限り協力すると決めた。だが、実戦経験が乏しい康太は百パーセント勝てると確信できないでいた。康太個人の戦いならともかく、今回は美里の婚約がかかっている。失敗は許されない。勝率を少しでも高めたかった康太は、アカメにアドバイスを得ることにしたのだった。


『そやなぁ。ま、たぶん大丈夫と思うで』

「軽っ! 真面目な話なんだけど」


 茶化されたと思った康太が突っ込むと、アカメがコロコロと笑い出した。


『ウチも真面目な話やで。康太はんの中からあの"狂犬"っちゅう男の動きを見てたけど、あんまり接近戦は慣れてないみたいやな。と言っても、別に弱いとかやなくて、たぶん、あの男は魔力を使った戦闘の方が得意なんやと思う。

 それを踏まえた上で考えると、"狂犬"は康太はんにとって相性の()え相手とちゃうか?』

「……なるほど」


 アカメの見立てが正しいとしたら、"狂犬"は魔法使いタイプだ。そして康太も魔法使いタイプ。同じ魔法使いタイプの戦いなら、魔力量の多い方、魔力の扱いに長けた方が圧倒的に有利になる。


『むしろ、ええ練習相手になるんやないかな。これまで精霊達(うちら)相手に何回か模擬戦はしたけど、生身の人間と本格的な魔法戦をするのは初めてやろ?』

「そう言われたら、そうかもしれないけど……」


 美里達がひどく恐れる"狂犬"だが、アカメに言わせるとただの練習相手に過ぎないようだ。その辛口の格付けに、康太は思わず苦笑を浮かべる。


『もっとも、あの程度の男で本格的な(・・・・)魔法戦が出来るかは分からんけどな……」


「え? 何?」


 続けてアカメが漏れらし呟きを、康太は拾う事が出来なかった。


『何でもない。とにかく、今回は生前のアリエス様に教ったことを実践するいい機会や。何かあったらウチらも出るし、楽な気持ちでやったらええと思うで?』


 康太は幼少の頃から、亡き母アリエスに魔力の操作方法や魔法の仕組みについて手ほどきを受けてきた。自分の正体を隠す必要があったのでこれまでその教えを実践する場面はなかったが、今回の決闘はその成果を試す良い機会とも言える。


「……そうだね。ありがとうアカメ。万が一の時は頼むよ」


 アカメに背中を押され、康太にもようやく勝ちへの自信が生まれてきた。アカメは康太の言葉に満足そうに頷いた。





―――――





「おいおい、あの覆面無傷だぞ」

「"狂犬"、どういうことだい?」


 まるでダメージを受けた様子のない康太を見て、史郎と近田が口々にそう言う。


「……チッ、一応殺しが禁止って聞いてるんで、少し手加減しちまいました」


 鯖島は忌々しそうに呟くと、康太に向けて両手をかざした。


「オラァ、覆面! 今度こそくたばりやがれ!」


 再び放たれた魔法弾は、先ほどより一回り大きいものだった。

 それは、遠目で見ている美里たちにもはっきり確認する事が出来た。


「何て魔力っ……!」

「逃げてぇぇ! 秦野くん」


『いや待て、お嬢!』


 美里と舞が絶叫するが、その二人をらいらいが宥める。


「らいらい、何を言って……」

『いいから見てろ!』


 魔法弾が康太に着弾する直前、康太が左手をそっと動かした。

 その瞬間、まるでマッチの火が消えるかのように、魔法弾がシュボッと消滅した。



「……は?」



 舞の口からそんな間の抜けた声が漏れる。

 美里も夢でも見たかのように呆然としていた。


「なに、あれ?」

『……たぶんだが、魔法弾を構成している魔素を分解して、魔法弾そのものを消滅させたようだ』


「魔素を分解って…… はぁ!?」

「そ、そんな事、可能なんでしょうか……?」


『魔力操作に相当、いや無茶苦茶長けていないと難しい……。あの小僧、本当にDランクか? "狂犬"の呆けた様を見る限り、奴も舌を巻くほどの高い操作技術という事になるが……』


 らいらいに指摘されて鯖島に視線を移すと、魔法弾を消滅させた康太を愕然とした表情で見つめていた。





「あの覆面、今度は魔法弾を消しやがった……」

「ど、どうなってんだよ、"狂犬"!」


 史郎チームでは、予想外の事態に史郎と近田が激しく動揺していた。鯖島も魔法弾を掻き消されるという未だ嘗てない光景に呆然としていたが、しばらくして落ち着きを取り戻した。


「……どうやら少し奴を侮っていたようだ。おそらく奴は特殊な魔道具か何かを装備していて、こちらの魔法を無効化させてると考えられる」

「魔道具……」

「魔法を無効化!? そんな高価な魔道具をなんでアイツ如きが……。いや、それよりも、覆面がそんな魔道具を持っているなら打つ手無いじゃないか、どうするんだ!?」

「落ち着け。攻め方を変える」


 顔を青褪めさせている史郎を、鯖島は鬱陶しそうに宥めた。


「どうするつもりだ、"狂犬"殿?」

「まずはアイツの魔道具の在り処を探る。それが分かれば、魔道具以外の身体の部分を狙い、覆面に魔道具を使う隙を与えずに無力化することが出来る」

「もし、その"在り処"が分からなければ?」

「その時は他の奴を狙う。さすがにそんな高価な魔道具をチーム全員が装備しているとは考え難いからな。覆面は後回しにし、弱い奴を各個撃破する。案外、その素振りを見せただけで覆面が動揺し、隙が出来るかもしれねぇ」

「なるほど」


 鯖島の言葉に近田が頷くが、史郎は「反対だ」といった風に憤慨した。


「そんな!? じゃあ、僕がさっき言った作戦はどうなるんだ! 美里ちゃんには手順通りに攻撃するって宣言しちゃったんだぞ!」

「知るかよ、てめぇが勝手に言ったんだろ」

「なんだと!?」

「史郎様、落ち着いてください。面子も確かに大事ですが、まずは決闘に勝利することこそが重要です」

「…………くそっ」


 ようやく黙った史郎に、鯖島は「ヤレヤレ」という視線を向けるのだった。




「……さてと。おい、覆面! 待たせたな! どうやらてめぇを侮っていてみたいだ。次は本気で行くぞ」


 康太に向かって高らかに宣言すると、鯖島は全身に魔力を(みなぎ)らせる。

 その魔力はこれまで魔力弾を放った時よりも桁違いに多かった。

 遠くから舞の「うそ……」という声が聞こえてくる。


「これを防げるかな?」


 鯖島が獰猛に笑る。そして―――



 ドドドドドドッ! 



 轟音を響かせながら、鯖島が両の手から魔法弾を放つ。

 今までのように単発ではない。

 連続して打ち出した魔法弾は数十発に及ぶ。

 その全てが、康太に向かって殺到した。





―――――





(つたな)い……」


 康太は、自分に向かって飛来する数十発の魔法弾を眺めて、そう呟いた。


 一発目に鯖島の魔法弾を受けた時から、その考えは康太の中にあった。

 鯖島の魔法弾は、拙い。

 魔素の構成は甘く、密度も低く、威力もショボイ。

 康太に言わせると、魔法弾などと呼べる代物ではなかった。

 鯖島が二発目の魔法弾を放った時、その構成の甘さを突いて試しに魔素を分解してみた。すると案の定、魔法弾は簡単に消滅してしまった。


 今回の多弾攻撃もそうだ。

 いや、もっと酷くなっている。

 魔法弾を複数放つこと拘ったせいか、一発一発の魔素の構成がもはや論外のレベルまで落ちていた。


「はぁ……」


 康太は溜め息を一つつくと、魔法弾を消滅させるために魔素を操作し始めた。






「こんな事って……」


 美里は、目の前の光景を呆然と眺めていた。横にいる舞も同じ気持ちのようで、顎が外れんばかりにあんぐりと口を広げている。


 鯖島の放った無数の魔法弾、それが康太に怒涛の如く押し寄せた。

 今まで鯖島の攻撃を二度に渡って退けた康太だが、今度は数が多すぎる。

 美里も舞も、絶望感から悲鳴を出すのも忘れてしまったほどだ。


 だが、康太は無事だった。

 いくつもの魔法弾が康太に着弾しかけるが、その寸前で次々に魔法弾が消滅していくのだ。


 康太は魔法弾に向かって度々、手を振りかざしており、何かしているのだろうとは予想できる。だけど、実際に何をしているのかは全く分からなかった。

 分かるのはだた、康太はあの絶望的な魔法弾の攻撃を物ともしないということだ。


 自分に、彼と同じことが出来るだろうか?

 ふと美里はそんな考えを抱いた。


 いや、間違いなく無理だろう。

 最初の一発や二発は防ぐことはできるかもしれない。

 しかし、数の多さにすぐに抑えきれなくなり、防御もままならずにやられてしまう。


「何アレ? 何であんなこと出来るの?」


 舞がポツリと呟く。


『マジですげぇな。あそこまで巧みに魔力操作できる奴は、Aランクでもそうはいねぇぞ』


「それって、魔力操作だけならAランク並ってことだよね? でも、実際の異能値はDランク。そんなチグハグな事って……」

『一体、あの小僧は何者だ?』


 らいらいと舞が康太に訝し気な視線を送る。だが、それを止めたのは美里だった。


「―――何者であろうと、関係ありません」


「美里ちゃん?」


「私は秦野くんと約束をしました。決闘に参加してくれるのであれば、正体を詮索しないと。そして彼は、約束通りに決闘に出てくれました。それだけでも有難い事なのに、秦野くんは今期待以上の働きをしてくれています。それなのに、ここで秦野くんの素性を探る事は、彼の働きと厚意を蔑ろにするものです」


「美里ちゃん……。そっか、そうだよね」

『確かに、高船の嬢ちゃんの言う通りだな。小僧の正体はともかく、俺達は小僧のお陰で見えなかった勝ちが見えつつある』


 らいらいと舞は、少しバツの悪そうな顔をした後、美里の言葉に頷いた。


「秦野くんが作ってくれた好機、逃す訳にはいきません」

「そうだね! じゃあ、美里ちゃん、私達も行こうか!」


『……ちょっと待て、敵に動きがあるぞ』


 動き出そうとする美里と舞に、らいらいが険しい顔をしてそう言った。






「"狂犬"、大丈夫なのか!? この攻撃も全く効いてないぞ!」


 覆面の男は、魔法弾の多弾攻撃も難なく防いでいる。

 それに動揺した史郎が、キンキンと声をあげた。


「……うるせーな。にしてもあの覆面、思ったより厄介かもしれねぇな、近田ァ!」


 鯖島は魔法攻撃を継続しながら、近田に声をかける。


「行きますか?」

「ああ。俺はこのまましばらく魔法弾を打ち続けるから、お前はそれに紛れて女共の所に向かえ。頃合いを見計らって俺も行く」

「承知した」


「ぼ、僕はどうすればいい?」

「史郎様はここにいてください。万が一があっては危険です」

「わ、分かった」


 近田はそう言うが、史郎はDランク下位であり、敵も含めてこの決闘メンバーで最も弱い。鯖島は「正直に足手纏いと言えばいいのに」と思ったが、一応雇い主でもあるので流石にその言葉は喉の奥に引っ込めた。


「近田、いけぇ!」

「はっ」


 鯖島の合図と共に、近田が動き出す。


 近田の動きは素早かった。

 Cランク上位という実力は伊達ではなく、滑るように地面を移動し、美里達が応戦体制に入る前に一気に距離を詰めてきた。


 近田が最初に標的にしたのは、舞だった。


『お嬢、右だ!』

「くっ、早い!」


 近田の接近に気付いた舞が慌てて魔力を練るが、一呼吸も二呼吸も出遅れていた。


「遅い」


 隙だらけの小柄な体躯めがけ、近田が攻撃用の護符を飛ばす。

 完全に捉えた!

 近田がそう確信したその時だった―――。




『ざーんねーんっ!』




 白いモフモフした小動物が突然出現し、護符を空中でキャッチ。

 そして、そのまま護符を食い破ってしまった。


「なにぃっ!?」


『まっず、もっと上手く魔力練ってよね』


 ハクビは辛辣な台詞を言うと、護符をペッと地面に吐いた。


「なっ!?」


『先にお姉ちゃん達を倒そうって考えだろうけど無駄だよ~。ここはハクビが一歩も通さないからね!』


「ちっ!」


 奇襲を阻まれ、近田が苦虫を噛み潰したような顔を見せる。


「あ、ありがとう、ハクビちゃん」


 間一髪助けられた舞が、ハクビに礼を言う。


『いえいえ。でも危ないからちょっと下がっててね!』


 自分より明らかに弱そうなハクビに言われて一瞬複雑そうな顔をした舞だったが、この精霊もあの謎だらけの少年の仲間だったことを思い出し、素直に言う事に従うことにした。


『さて、お兄さんの相手はハクビだよ!』


「ふん、この精霊風情が!」


 挑発するかの如くピョンピョン跳ねるハクビに、近田が数枚の護符を投擲した。


『おっと!』


 ハクビに躱され護符が地面に突き刺さる。

 その瞬間、ボウッと音を立てて炎が巻き起こった。

 どうやら、着弾した場所を燃え上がらせる術が仕込んであるようだ。


『おお、よく燃える。でも当たらなければどうってことないね!』


「減らず口を!」


『今度はこっちの番だよ、それ!』


「――むっ!?」


 ハクビを中心につむじ風が巻き起こり、そこから一本の風の刃が近田に向かう。



 キィィンッ!



 しかし、その風の刃は近田に当たることなく、障壁によって阻まれた。


「くくく、我が結界の前にはどんな攻撃も無意味だ」


『むー』


「ハクビさん……助太刀します!」


 ハクビと近田の戦闘を見守っていた美里が、参戦しようとしてきた。

 だが、ハクビがそんな美里を止める。


『大丈夫だよ。―――もうすぐ終わるから』


「え?」


「何をバカなことを ……な、なんだ、急に、息が……っ!」


 近田が急に自分の喉を掻き、苦しみ始める。

 美里たちは何が起こったのか分からず、苦しむ近田を困惑した表情で見つめている。

 やがて、近田が白目を剥き、その場に倒れ込んだ。


「こ、これは一体……」


『ちょっと気絶させただけだから大丈夫だよ!』


 ハクビがあっけらかんと答えるが、美里たちは混乱しっ放しだった。


「……何をしたのか、聞いてもいいですか?」


『大したことじゃないよ。ハクビは風の精霊だからね。風を操ってお兄さんの周りから空気をなくしたの!』


「空気を……?」


『うん! ほんとは結界を破っちゃえば楽だったんだけど、下手に強引な攻撃をするとお兄さんが死んじゃいそうだったから。決闘って面倒臭いよね!』


「「……」」


 無邪気にそう言うハクビを、美里たちは愕然と見つめることしか出来なかった。

長かった決闘編も、ようやく終わりが見えてきました。

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