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プロローグ① ハーフエルフ

初めてのローファンタジーです。

よろしくお願いします。

 俺の名前は秦野康太(はたのこうた)

 この春から高校生になる。


 突然だが、俺は普通の人間ではない。

 エルフと人間のハーフ、ハーフエルフだ。


 いきなり何の話? と思うかもしれない。

 もう高校生になるのに中二病をこじらせたのかと。


 でも、これは紛れもない事実なのだ。


 日本人の母と、異世界から召喚されたエルフの父。

 二人が愛し合った結果、俺が生まれた。

 

 そして、この事は周りの人間には秘密だ。無暗に正体をバラしてならない、幼い頃から母に口酸っぱく言われてきた。


 秘密にしている理由は至って簡単。

 エルフってのは超レアな存在らしいのだ。



 今から二十年前、どっかの偉い博士が召喚術の仕組みを解明し、異世界から魔獣を呼び出すことに成功した。


 未知の生物の召喚。

 当然だが、これは凄まじいニュースになった。


 日本の動物園でパンダの赤ちゃんが生まれただけで大騒ぎになるのだ。世界中がこのニュースに大いに湧いた。俺はまだ生まれてなかったからよく知らないが、テレビでは連日連夜この事ばかり報じていたらしい。その後、召喚術の研究は世界各国で急速に進められ、様々な魔獣や精霊が異世界から召喚されるようになった。


 そんな中、偶然召喚されたのが俺の父親だった。


 召喚術ってのはまだ研究半ばで目当ての物を正確に呼び出せるほど進んでいるわけではないらしい。魔獣を呼び出そうとしたらただの葉っぱが召喚されたなんてことも結構あるようだ。まぁ、それでも未知の植物だから十分研究対象にはなるらしいのだが。

 

 エルフである父が召喚されたのは、全くの、奇跡的な偶然だった。そして、エルフが召喚されたってのは過去に例がなかった。少なくとも公式な記録ではゼロだ。立ち会った人達はみんなさぞ驚いただろう。もし公表されていれば間違いなく大きな話題を呼んでいた筈だ。


 だけど、父が召喚された事実がニュースになることはなかった。その事実が明るみに出る前に、俺の母が父を連れて逃げたのだ。


 エルフは非常に見目麗しい種族だと言われている。そして父も、絶世の美男子(イケメン)だった。

 

 何てことはない。父に一目惚れした母が、父を研究所から連れ出して駆け落ちしたのだ。


 一応、母にも考えがあったらしい。エルフは非常に希少な存在であり、このあと父がどの様な処遇を受けるのかは分かっていた。人体実験にかけられ、そのまま死ぬまで研究所の檻の中。母は、父をそんな目に遭わせたくないと考えていたようだ。

 だから、美男子(イケメン)の父を母が独占したかったから、という理由だけで駆け落ちしたんじゃないと思う。……たぶん。


 世間に隠れ、地方都市の片隅で二人の生活が始まった。素性を隠しての生活だったが、幸い名家の生まれだった母が実家からいくらかお金を持ち出していた事と、父が幻術のような魔法を使えたので、何とかバレずに生活していく事は出来たようだ。


 やがて俺が生まれ、親子三人、慎ましくも穏やかな生活を送っていた。


 しかし、そんな暮らし長くは続かなかった。


 俺が三歳になろうかという頃、父が他界した。


 どうやら、異世界人の父にとってこの世界の環境は大変生き辛いものだったらしい。日に日に衰弱し、最期はほとんど喋る事も出来なくなってしまったという。


 それから母は、俺を女手一つで育ててくれた。父親はいなかったが、特に不満なく、そして俺が不自由することなく、俺を育ててくれた。俺は母のお陰で、普通に保育園に通い、普通に小学校に通い、普通に中学校に入学した。


 特殊な生い立ちの俺が変にグレたりしなかったのは、気丈な母のお陰だと思う。だけど、母に言わせるとそれは父のお陰らしい。


 父は右も左も分からないこの世界に無理やり召喚されたのに恨み言をほとんど言わなかった。いや、召喚された当初は憤りや様々な感情があったようだが、俺が産まれてからは不満を一つも口にしなくなった。


 生前の父が、成長した俺に宛てて何通かの手紙を残してくれていた。

 その一つには、「生まれてくれてありがとう」と拙い日本語で記してあった。


 父の想いを無にしたくない。

 俺を育ててくれた母にはそんな想いもあったようだ。


 母は俺にエルフの血が流れている事をバレないように気を付けていた。そして、俺も幼い頃から正体を絶対にバラさないようきつく言い聞かされてきた。俺はこのまま一生正体を隠して生きていくのだと思っていたし、そのつもりだった。


 状況が変わったのは、俺が中学に入学してしばらく経った頃だ。


 元々、病弱だった母の容体が一気に悪化した。

 満足に働くこともできないほど。

 自分の命は最早長くない。

 母はそう悟っていたようだ。


 この頃から、母は遺された俺の将来を案じるようになった。


 正体を隠して果たして俺が生活していけるのだろうか? ちゃんと就職してちゃんと結婚できるのだろうか? どこかでボロが出て世間に正体がバレてしまうような事態にはならないだろうか?


 その懸念は尤もだと思う。今まで学校の健康診断すら誤魔化すのに苦労していた。だが、今後の人生で何が起こるかなんて分からない。例えば交通事故に遭って病院で血液検査でもされたらアウトなのだ。


 俺達の置かれた状況を変えたものが、もう一つある。


 「異能者」の存在だ。


 異能者とは、魔法や念力など「異能」の力を発動できる者たちのことだ。召喚術が世間に広まるにつれ人々の中に異能者が現れ始めた。生前の父の推測では、これは世界中で行われている召喚術が関係しているらしい。異能者の数は年々増え続け、今では日本だけでも十万人ほどいると言われている。


 エルフの血を継いでいる俺は実は魔法が使える。魔法が使えるので、世間一般から見ると俺は異能者に該当するわけだ。今までは必死にエルフの力を隠してきたが、これだけ異能者の数が増えた今ならば俺の正体が明るみに出る可能性は低いのではないか。あるいは、例えバレたとしても俺が産まれた当時よりは大騒ぎにならないのではないか。


 母はその様に考えるようになった。


 自分の死期が迫る中、母は絶縁状態だった実家に手紙を書いた。

 自分の命は最早長くない。

 だけど、遺された俺の身が心配だ、助けて欲しい、と。


 実に、母が駆け落ちしてから十五年の歳月が経っていた。

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