可愛げのないかわいい彼女
言葉遊びからできた短すぎる短編。
暇つぶし程度にどうぞ。
仕事もできて、美人、
だけど無愛想な女。
それが俺の彼女、篠原璃子に対する周りの印象。
「前原さ〜ん、篠原さんみたいな愛想のない人といて疲れません?」
自分でいうのはあれだけど、かなり見目のいい俺に会社の人たちは皆、一様にこの質問を投げかける。
仕事関係、必要最低限に微笑むものの、それ以外はクールを通り越して素っ気なく、
男どころか女ですら彼女のプライベートに立ち入るのは至難の技。
女は愛嬌と言う言葉通り、好かれるための第一要素が最も欠落している彼女に対する周りの評価はシビアだ。
『見ているだけなら目の保養』『高すぎる高嶺の花』なんて揶揄する言葉を聞くのもしょっ中だ。
でも、そんなことは俺には関係ない。
むしろ…
「なんでみんな気がつかないのかねぇ〜」
皆が仕事に追われるオフィスで、そっと彼女を盗み見ながらほくそ笑む。
確かに彼女の外面のパーツは整っている。
クリっとしたお人形さんのような顔立ちに、顎のラインで切り揃えられた綺麗な黒髪、愛らしいちょっと小柄な背丈や、華奢な体つきとは相反する女性らしい曲線。
小動物を連想させる見た目に反し、クールな雰囲気、知的な物言い。
そんなギャップとともに繰り出されるちょっとした上目遣いは、たとえそれが無表情だとしても吸い寄せられてしまうだろう。
でも、そこではない。
彼女の本当の魅力はそんなとこではない。
「前原さん、ぼーっとしてるなら頼んでた木下産業のデータ早く仕上げて貰えませんか?」
じーっと彼女を見つめながらそんなことを考えていたら、当の本人からそんな文句が入ってしまった。
無表情に限りなく近いながらも、どこか不機嫌そうなその表情はやはり他の人には冷たいと感じるものなのだろう。
「ちょっと待ってねぇ〜、すぐ仕上げるから。」
そう言ってへらりと笑って返せば、彼女は小さく「…早めにお願いします。」と言って視線を逸らす。
しかし、そんな普通なら素っ気なく見える仕草ですら、彼女のことを知ってしまった俺にはものすご〜く愛らしく見える。
一体、このフロアにいる何人の人が彼女の耳が真っ赤に染まっていることに気がついているのだろう…
そんなことを考えてはニヤついてしまいそうになる表情を必死に抑え込む。
さっきのは決して仕事の催促ではない、俺に見られていることに気がついて、恥ずかしかった照れ隠し。
でも童顔がコンプレックスで、周りにはクールを装っていたい彼女にはあの反応が精一杯…といったところだろう。
本当は人一倍不器用で、恥ずかしがりやで、自分に素直になれない天邪鬼…
こんな可愛らしい生き物を愛でずしていられるわけがない。
まぁ、そんなことは彼氏の俺だけがわかってればいいんだけどねぇ…
そんなことを思いながらも、また俺の視線に気がついては困ったように怒る彼女に、俺はまた表情を緩めてしまうのだ。
可愛げのない彼女はお嫌いですか?