表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

お好み焼きの味は

「どうぞー。メニューはこれですんで、決まったら声かけてくださいねー」

女性店員が水を運んできてくれた。

同じく50がらみの様に見えることから、店のおかみさんと思われる。


違う。安原さんのお母さんじゃなかった。


メニューに書かれている店の名前は「お好み焼きふるさと」

店名も違っていた。


「梶村さん、注文はどうしますか?」

「あ、うん、じゃあ豚モダン焼で」


「じゃあ注文しますね、すみませーん!豚モダン2つください!」

はいよ、という威勢のよい返事がカウンターの奥から聞こえる。

油と煙で、黄色くすすけた店内がチェーン店にはない長年の趣を感じさせる。

私はネクタイを外して

「楽にしましょうか」

と、上着を脱ぎながら妹尾秘書に話しかけた。


「いえ、今は仕事中なので、」

「でも、汚れますよ。私しかいませんので、どうぞ」

「あ、はい。では、すみません。」

と何度目かのやりとりで彼は上着とネクタイを外した。

「梶村さん、さっきからどうされました?何かを探しておられるような」

「え、あ、そうなんです。以前来たことがあったのですが、どうやら雰囲気が変わってて。」

「ああ、それでですか」

妹尾秘書が得心したように言う。

「味も変わってますかね?」

「さあ、どうでしょう。気になるところです」


「はい。おまたせ。モダン2つで!」

「ありがとう。梶村さん、ビールはいいですか?」

「僕だけいただくのは悪いしね(笑)いいよ、大丈夫。さて、いただくとしますか」


ほくほくのお好み焼きに箸を入れる。湯気が湧き出てくる。どっさりのキャベツがほどよく、しっとり。コシのあるそばと甘辛ソースがよく絡んで、身体中を幸福感で充たしてくれる。


「これは」「「うまい!」」妹尾秘書と同時に声がでた。


がっつり腹に満たされ、私たちは幸せなため息をつく。

「どうでした?味は想い出の味と違いましたか?」

「どうだろう。とても美味しいお好み焼きだったけど、どちらが旨いというわけではないのですが、どこか違う気がします」

私たちは席をたち、会計を済ませるために、レジの前に行く。

「モダン2つで1,400円ですね」

もちろん私が支払いを済ませ、私はおかみに尋ねた。

「ここ、昔は以前、安原さんという方がしてませんでした?」

「あんた、よくそんな昔のこと知ってるね!もうやめて15年も昔になるよ」

「そうなんですか?知らなかった。同級生がいて、よく行っていたんですよ」

「なにやらね。旦那がなくなって独りで切り盛りしてたんだけど、おかみさんも身体壊しちゃったとかでね。あたしら夫婦が買ったのよ店を」

「安原さんご家族はどこに今いらっしゃるかわかりますか?」

「さあねえ、今は連絡してないから、もう、わからないねえ。」

「そうですか・・・ありがとうございます!すみませんね、美味しかった。ごちそうさま!」

「あいよ、また寄ってね。ありがとうございました!」

私たちは店を出た。最初にこの店にきたときはたしか、初夏の頃。


それから十何回目の夏を越えて、今はもうすぐ12月。冷たい外気に、吐く息が冷やされ、白くなる。

山中町は藤田市内でも高地にあるため、雪が早く積もる。

(今夜はこれだけ冷えると降るかもしれないな) 

そう思いながら、私は家路についた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ