腹が減っては
ぐぅ・・・。
車内に盛大に腹の虫が響き渡る。
藤田市長選挙の政談演説会の帰り道。
うたた寝をしていたのに、腹の虫に起こされた。
今日は藤田市内の家への帰る。
いつもなら独りの車内。しかし、今日は仕事から直帰のため妹尾秘書が運転してくれている。
しまった・・・。
横に細長い眼鏡、縦に細長い顔。少し口元が歪む。
「腹、減りましたか」
「恥ずかしいね、すみません。腹減りましたね」
腕時計を見ると時刻はもうすぐ夜の21時。
そうか、この時間だと家には何もないな。
「妹尾さん、食べて帰りませんか?」
後部座席から前に身を乗り出して聞く。
「はい。そうですね、了解しました。何が食べたいですか?」
「・・・お好み焼き・・・」
「お好み焼きですね?ぷっ、わかりました」
妹尾秘書が吹き出した。私があまりも即答したからだ。
「そうだ、次の道を右に行って、山中町にむかってくれ」
「お目当てがあるんですね?了解しました」
藤田市山中町。
いつの時代かの広域合併で藤田市に編入された町。市中心街から車で30分ほど。
遠いが広域道路を飛ばせばそれくらいで着く。
地盤が違うので、同じ市内でもとんと行くことがなかった地域だ。
「すみません、ちょっと遠いんですが、うまい店を思い出したもんで」
広域道路の両側が田んぼやビニールハウスに変わり、山裾が近づいて来る頃、
「あ、その角を右に!」
「はい。」
その店はあった。安原さんのお母さんのお好み焼き屋。あの味の記憶が口の中で思い出させる。
店構えが少し変わっている。17年ぶりだから、どこが違うかというと説明できないが、何か変わった気がした。
ーガラッー
店を開けると手前が狭いカウンター、奥がテーブル席。配置は変わらない。仕事帰りかビールを飲みながら食べる客がちらほら。
「いらっしゃい」
見慣れない店主が顔を出す。50がらみの男性だ。
「お二人で?お好きな席にどーぞ。」
私たちは席に着く。
どこが違うかというと説明できないが、何か違う。あの頃と。