今と過去の交錯
2017年1月
「梶村先生、今日の予定ですが、午後より林田建設工業の林田社長がお会いしたいと来られる予定です」
妹尾善彦秘書が言う。
彼はよく、細長い眼鏡を軽く押さえながら、抑揚を意識的に押さえたような言い方をする。
「ちょっと待ってくれ、妹尾さん。林田建設は先日児玉市のダム工事で指命停止を食らった企業だ。そこの社長になぜ私が会うのだ」
「は、はい。矢野先生を通じてお会いになりたいと申込みがありました」
「何度言ったら解るんだ。矢野さんが言ってこようが、不正を起こすような企業経営者と私は話すつもりはない。我々の職務上のモラルが問われるのだ」
「あと、私は貴方の師匠ではない。先生と言われる所以はない。
他の人に対してもだ同じだ。我々は特権階級ではない。「先生」「先生」ともてはやすから、勘違いをするものがでるんです」
妹尾善彦秘書は45歳。私より10歳も年上だ。いい加減、業界に染め上げられた秘書根性を叩き直してほしいものだ。
と・・・ここまできて、ああ、またやっちまった・・・ついつい、かっとくると捲し立ててしまう。いつからだろうこんなに饒舌になったのは。
あっ、はい。すみません・・・!」
我に帰ると妹尾秘書が頭を何度も下げていた。
私がヘソを曲げたと思っているのだ。
「あ、はい。もう、いいですよ。次は?」
「はい。13時から江本産業局長と大崎・藤田児玉振興局長が新産業・都市計画道路建設工事についての概要説明に来られます。
15時半から共生会議員団会議が、3階第二会議室で行われます。
夜は18時から藤田市長選挙の政談演説会で、ご自宅にそのまま帰宅予定です」
「わかりました。妹尾さん、ありがとう。林田建設には断りの電話を入れておいてください。」
「は、はい。わかりました。」
私は立ち上がり、コーヒーサーバーからコーヒーをカップに酌み、そのまますする。
妹尾秘書は頭はよい人なんだが、融通が効かない。
と、思って気づく。私だってそうなんだ。似た者同士なんだ。