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カレーと邂逅

12月1日。

法界院駅前商店街は活気を帯びていた。

商店主と客の掛け合う声。商店街アーケードの天井から流れるクリスマスソング。


その一角に、蔦を全身に纏った、どちらかというとこじんまりとした洋館風のそれはあった。

『Coffee・Restaurant イーハトーヴ』


「ここだよ。ココ。さあ入ろう」

子どものような屈託のない笑顔で、立花さんは私に言うや否や、扉を開ける。“カランカラン”と小気味よい音が鳴る。


「「いらっしゃいませー!」」


初老の男性と女性の声が聞こえた。

静かそうな外観とはうってかわって、店内はけっこうな賑わいに包まれていた。


「あら、立花さん、いらっしゃい!さあ、奥の席にどうぞ。」

カウンターの奥から女性が声をかける。


屈託のない笑顔と刻まれた皺が好印象をもつ。女性はやや大柄な体を機敏に動かし、冷水を運んできてくれた。


「はい、らっしゃい。立花さん。外は寒かったでしょ。そちらの方は?あ、どこかで見たことあると思ったら!」

「そう、連れてきたよ。奥さんの、」

「まああー!梶村センセ!ようこそようこそ!お会いできて嬉しいです!」

飛びつかん勢いで奥さんが、前のめりに私の手を握った。

「奥さんはキミの大ファンなんだよ」

「そうなんですよー!議会、ケーブルテレビでやるでしょ!暇なときに見るんですよ。立花さんにゃ申し訳ないけど、梶村さんの質問は必ず毎回観てるわ~!なんたって内容が違うもの!」

「あはは・・・ありがとうございます。」

若干引き気味に私は答えた。

「それで、奥さま、我々の注文を聞いてくれんかね。腹が減ったのだが」

立花さんが自嘲気味に笑いながら、奥さんを促す。


「あら、いけない。すみませんね、取り乱しちゃって。ご注文は何になさいますかね?」

奥さんが訪ねる間もなく立花さんは

「カレーセット大盛を」

「あ、私も同じので」


「・・はい、カレーセット大盛でおふたつね!お待ちくださいね!」


「あはは。すごい勢いですね。・・・まさか、立花さん、オレを奥さんに会わせるために連れてきたんですか!?」

「梶村さん、それはひとつの理由でもある。そしてもうふたつほどの理由もある。しかしカレーがウマイのは事実だよ。」

立花さんが平然とした顔ですまして言う。

店内にはジャズがゆっくりと流れている。


「お待たせいたしました。カレーセットおふたつですねー。」


今度は若い女性がカレーを運んできた。

カレーの香ばしいスパイスの香りに腹の虫が盛大に鳴る。

「お、うまそう!」

私は女性の方をあまり見ることなく、目線はカレーに集中していた。


やや亜麻色がかった明るめの髪を後ろでひとつに束ねているその女性は

「おひさしぶりですね。立花先生。」

と話し、

「おう、みよしちゃん、久方ぶりだね」

立花さんも答える。その言葉にふと顔をあげた。

そこには、間違いない。迷うことなく彼女“安原深美”がいたのだ。

彼女はまっすぐ私を見つめ、「久方ぶり。和宗くん」と小さな声で、たしかにそう言った。








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