温かな朝御飯を
深美の夢を見た。
お互いに、それぞれの道を歩み始めて17年。
なぜ今・・・。
私のなかで何が起きているのか。
朝6時。アラームが鳴る。
私はむくりと起き上がり、洗面所で顔を洗う。
冷たい水が現実世界に引き戻してくれる。
私はラジオをつけた。
「おはようございます。今日から12月です」
リビングから外を見ると、霜が降りて庭を薄化粧している。
「二条総理は30日、我が国の国際的なテロ犯罪を防ぎ、国際平和に貢献することを目的とする平和安全法制の趣旨のもと、来年夏に派遣されるトルニスタンのPKO国連平和維持活動への自衛隊派遣について集団的自衛権を適用する考えを示し、31日閣議決定を行いました。集団的自衛権を適用する国際活動は4度目となります」
感情を極力抑えるように、それでいてどこか扇情的なアナウンサーの声を背に、私はご飯の釜を開ける。
「あれ、ない。」
しまった。
昨夜は地元の畜産振興協会の忘年会だった・・・飲んで帰って、そのまま寝ちゃったんだ。仕方ない。行き掛けのコンビニでおにぎりでも買おうか。
頭が重たい。
---ピンポーン----
チャイムの音が聞こえる。誰だよ、こんなあさはやく。
「ふぁーい」
インターホン越しの返事と同時におもいっきりあくびが出た。
----「野々村です。朝早くにごめんなさいね」
近所の野々村さんの奥さんだった。
野々村さんはこの地元双児ニュータウンの重鎮であり、私の最大の理解者であり地元の後援会長でもある。
私はあわてて上着を羽織り玄関にでる。
「朝早くにごめんなさいね」
70を過ぎ、シワの刻まれた柔和な顔の奥さんが顔を覗かせる。
「昨日遅くまで、お仕事だったんでしょ。どうせ朝御飯つくる時間ないだろうと思って、ほら」
ラップに包まれたお握りと、魔法瓶だ。
「主人が、梶村さん、昨夜は遅くまで仕事だって聞いたから“朝御飯持ってってやれ”っていうもんだから」
そういえば昨日そんな話もしたような・・・。
「ありがとうございます。すみません、お気遣いいただいちゃって」
「こちらこそ、ごめんね。協力できることがあったら言ってね」
野々村さんに一礼し、リビングに上がり魔法瓶を覗くと熱々の味噌汁だった。私の好きな豆腐とワカメの。
お握りはまだ温かく梅干しが入っていた。
二日酔いにはありがたいメニューだ。パワーがみなぎってきた。
私は、朝食を掻き込み、
「行ってくるよ」
と写真の中の妻と娘に声をかける。
妻と娘が帰らぬ人になってもう4年。最近はあまり夢にも出てきてくれなくなった。
車を開け、エンジンスイッチを入れるとランプが点灯する。ガレージの開閉ボタンを押し、車を発進させる。
ワインレッドのハイブリッド車は静かなエンジン音で双児ニュータウン団地の坂を下り、県道へと出る。
県道から国道にはいり、児玉ICから高速道路に乗って1時間。
県庁までの道は遠い。
「今月のスラップショットナンバーは地元冨岡出身のグループ、AWOYのナンバー“カラフル”!」ラジオからは小気味よいポップスが流れてくる。




