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俺が死のうとすると必ず異世界に来ている  作者: 月這山中
俺たちが国外を旅していると風の噂が届く
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2.城内畑に選挙報道が流される


 畑の規模は外に比べればこじんまりとしたものだった。

 受刑者は二十名ほど、朝から晩まで休憩なしで働かされてもあまり苦ではなかった。


「こんなことして何になるのー。廃人ルート入ってるよー?」


 姿を変えたカタリが呼び掛けた。カタリは何処にでも現れる。


「これも本質的には、刑罰ではないのだな。罰の体裁で行われている保証制度だ」

「一日でなにを悟ったの。周りの顔を良く見なよ」


 受刑者たちは濁った眼で夕食のスープを掻き込んでいる。


  アキ、明日着替えもっていくから。


 ケイの念話はイシス国内なら何処にでも届く。


 食事が済んだら刑務官の騎士に連行され宿舎へ入る。消灯中は布団の外へ出てはならない。カタリはいつの間にか居なくなっていた。


 俺はどんな規則を破ればローディに斬り殺されるか考えていた。

 やはり国王の暗殺でも図らなければ難しいかも知れない。


  ウルセエゾ


 二段ベッドの上から思念が送られる。

 俺は眼を閉じた。





 四日目の四つ鐘、初めて睡眠ではない休憩を与えられた。

 思念波を音と映像に変える魔道具の前に集められ、俺たちは冷たい床に座る。


「受刑者には大事な刺激だからね」


 カウンセリングに来ていたハルが言う。刑務官が何も言わないあたり受刑者へ話しかけるのは自由らしい。


 ガラス板に写されるのは「次期国王選」の文字だ。

 今更だが、国王ではなく皇帝か裁判長等に翻訳したほうがいいのではないかと辞書改定の提案をする。


  あのご老体もとうとう隠居するみたいよ


 俺の提案を無視してケイが呟く。

 まず現イシス国王の養子、テロップによればイシス・セット・ガリアノスが候補者として紹介される。

 わかりやすい保守政党で、税金を下げて食料生産率をさらに上げると笑顔で話した。


 次に写された候補者に、俺は驚いた。


  その優男、ローディのお兄さんよ


 見間違うほどに似ている。名前すらほとんど同じだった。

 対立候補ということは革新派になるのだろうが、彼の第一声は意外なものだった。


「わたくしの事はローディとは呼ばないでほしい。もっと親しみやすく『パン』と!」


 フェルタニル・パン・ブローディアはそう国民へ呼び掛けた。

 その顔からけして出ないような笑顔と言葉に、面食らったのは俺だけらしい。


「知らないのですか!? パンとは天地から授かった麦穂と人の手によってつくられる慈愛の証! わたくしをどうかそんな存在にしてほしい」


 異世界から渡った言葉はこちらでも一般に使われるようになっている。聴衆は拍手を送っていた。

 それから彼の来歴が語られる。かつては騎士団候補だったがイシスの体制に疑問を持ち、自主退職し各地を旅していたのだ、と。


「この国をもう一度、世界全体のための『貯蔵庫』として復権したい。そのためにもまず思想罪全般を廃止します!」


 選挙報道が終わった。


  パンはともかくセット氏は魔術学校の教授よ。例の団体がバックにいるみたい。公約を覆す気満々ね。


 例の、というのはケイも関わっていた革命団体のことだろう。

 なら、どっちが選ばれてもイシスは変わるんじゃないか。


  どうだか。変わるかも知れないし、何も変わらないかも知れないし。


「そんなに呑気でいいのかな」


 カタリが思念波の会話に割り込んできた。俺の肩に肘を乗せている。


「だってアテ国民の血が流れているフェルタニル家だよ。民衆は忘れているけど、王の息子が放っておくとは思わないなあ」


 魔王の亡骸が空っぽの顔で笑っている。

 これまでの選挙戦の顛末は想像に難くない。




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