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殺戮王  作者: 如月
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神様のようなモノ

これは小さな国の王様の話だ。


小さな国は、資源も少なければ、肥沃な土地も、目立った産業も無かった。


そんな国だが、隣接していた他国は何故か欲しがった。小さな国の西に、『底の無い谷』があったからである。この谷には底がないため、いくらでも必要無くなったゴミを捨てることができることで有名だった。


人工も少ない小さな国は、戦争を避けようと他国に媚びへつらった。ところがある日、とある国が小さな国を奪おうと宣戦布告した。


気の小さかった王様はその知らせを聞いて、ショックを受けて死んでしまった。


新しい王様には彼の子が選ばれた。まだ幼い少年だった。


とある国はこれを好機と捉え、小さな国を奪おうと何万もの兵士を送り込んだ。


小さな国の兵士達はもうダメだと死を覚悟した。逃げ出す者も多かった。


しかしながら、小さな国の小さな王は凄い『兵器』を持っていた。魔法使いが造った特別な『兵器』だった。


小さな王はたった一人で戦場に現れ、攻めこんできた兵士をたった一人で皆殺しにしてしまった。


『兵器』を使って、立ち向かって来た敵はもちろん、逃げる敵も、助けを乞う敵も皆等しく殺戮してしまった。


そして小さな王は殺戮王と名乗り、他国からも自国からも怖れられた。


めでたし、めでたし。






雪也は目を覚ました。






目覚めた後は、記憶はおぼろげになる。


幼い子供がたった一人で大きな何かをした、という印象は残っていた。夢を視ている間、その子供に劣等感を抱いたという感覚も胸にこべりついていた。


(夢の中に願望が現れているのかねぇ)


もう4月も半ばに入り、気付けば雪也は高校生となった。新しい制服、新しい通学路、新しい教室、新しい友人は新鮮で楽しかった。


着信音が鳴った。画面には、祖母の名前が表示されていた。


「もしもし。婆ちゃん?」


「久しぶりねぇ、雪」


「この前、電話したばかりだよ。婆ちゃん」


「そうだったかしら?」


「うん。この間の、赤井神社の件はありがとう。助かったよ」


「いいのよ。可愛い孫の頼みだし」


祖母の雪代の笑い声が聞こえた。


赤井神社で起こした騒動について、雪也はすぐに祖母に連絡を入れた。雪女である祖母は、妖怪達の中で非常に強い権力を持っている、らしい。母から聞いた話だ。何かあれば祖母に連絡すれば解決できると母も誇らしげに言っていた。


事情を聞いた雪代は『ヤオヨロズ』という組織を雇った。『ヤオヨロズ』というのは非科学的な現象に対処することを目的に造られた人間の組織である。妖怪達が人間界で何らかの『細工』をする場合、彼らに依頼すると、ことがスムーズに動く。


この組織に二つのことを依頼した。一つは、『神隠し』によって壊された赤井神社の再築。二つ目は『神隠し』の中から現れた少女の保護。


「『神隠し』から出てきた女の子は、何だったの?」


「あれは、『漂流者』だよ」


「『漂流者』?」


「遠い異界からやってきた人達をそう呼ぶのさ。『神隠し』は異界に繋がっているから、その娘は『神隠し』を通って出てきたのだろう」


「ふーん」


「まぁ、あの娘のことは心配することはないよ。『ヤオヨロズ』が『漂流者』専用の施設で面倒みているらしいからね」


「そんなのがあるんだ」


「あぁ。あるんだよ。あそこは本当になんでもやっているからねぇ」


呆れるている声だった。


「まぁ、それは置いておいて、今日電話したのは別の件なの」


改まって、真剣な声音で雪代が話し出した。


「雪姫が居なくなったってことは、雪を護ってくれる人がいなくなったでしょう? このままだと他の妖怪に喰われちまうんじゃないかって心配なのよ」


「大丈夫だよ。そっちみたいに危なくないから」


「いっそのことこっちで暮らさないか?」


「妖怪の里で、妖怪に混じって?」


「そうだよ。雪も妖怪なんだから」


「妖怪の中で生きて行く自信はないかなぁ」


雪也にとって妖怪というものは神様のような存在だった。あくまで神様のような存在で、神様ではない。神様などこの世にいない。そのかわり妖怪の類はたくさんいる。


妖怪は強い力と、永い寿命をもつ。妖怪は気付かれないことを良いことに、人間を裏で操り、人形のように弄ぶ。妖怪は意図せず、人間達を心身ともに踏みつぶすこともある。妖怪は気まぐれで人間に幸福を与える。妖怪が存在しないと思っている人間にとっては、妖怪の人間への行為は神様のすることのように映ることだろう。


雪也が黙り込んでいると、雪代はやれやれと溜息を吐いた。


「でもねぇ、せめて護衛をつけた方がいいと思うんだけど」


「それって、婆ちゃんの部下?」


雪代の部下ということは、皆、純潔の妖怪達になる。己自身を人間側に近い存在だと考えている雪也は、妖怪側の者達と上手くやっていける気がしなかった。


「考えておくよ」


しばらく雑談をして、「たまには顔を見せにおいで」という言葉と共に通話が切れた。


祖母の家には2年ほど行っていない。祖母に会うのは良いが、そこに行けば親戚達と会うことになってしまう。嫌味を言われるのが嫌だった。「人と妖怪の間に子は生まれない。産んではいけない」かつて母方の親戚達はひそひそと言い合っていた。雪也に聞こえるように。


それでも近いうちに祖母に会いに行かなくてはならないだろうと思った。祖母には本当に世話になっている。一人では暮らすには広くなってしまった部屋の家賃も、祖母に払ってもらっていた。


そのことが心に重くのしかかっていた。いくら祖母が裕福とはいえ、バイトもしないといけないだろう。


雪也は机の上に置いてあった手帳を手に取った。


パラパラ。


雪也は手帳をめくる。これは今年の1月に、誕生日に母が最後に買ってくれたものだった。いつも目を覚ましてから、今日は何をしようかと思い浮かべ、それをだいたい何時にやっていくのか記入する。それが日課だった。


「今日は、部活の歓迎会があるって言われていたな」








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