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殺戮王  作者: 如月
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漂流者


ごろごろごろ。


ギロチンで『ベリア』と呼ばれた一族の顔が転がっていく。胴と離された顔達は血を流しながらも、叫び声を上げていた。『ベリア』は高い治癒力をもち、首を斬られてもすぐさま死ぬことは無かった。その一つがミラの足元まで転がって来る。


「助けて、助けて、助けて、助けて」


首から血を流しながらも必死に口を動かし、同族であるミラに頼みこむ。


「あ、あ、ああああ。違う、こんなはずじゃ」


ミラはわなわなと震えて、立ちつくしていた。


叫び声を上げる顔から目を逸らし、死刑場の奥にいた人物を見つめる。皆より高い位置に置かれた、派手な椅子に座る少年。青い瞳が特徴的なこの国の王様だ。人は彼を殺戮王と呼んでいた。


「う、う、ああああああ」


ミラは悲鳴を上げた。


死刑情に現れた時から死刑が終わるまで、殺戮王は表情を変えることは一切なかった。じっと一部始終を見続けていた。


殺戮王の青い瞳とミラの赤い瞳が重なった。


逃げないと! 走り出そうとした途端、どこかから、場違いない音楽が聞こえてきた。さわやかな音楽が耳に響く。


世界が崩れ出し、これは夢の中だと悟る。


(何だ、ただの悪夢か)


ミラは目を開くと、ようやく見慣れてきた白い天井があった。


頭の中は混濁し、今見た夢は既に脳内から消え去っていた。


朝を告げる音楽は未だに鳴り響いている。時計を見ると、朝の6時丁度だった。


のそのそと着替えをし、部屋の清掃を行い、部屋のテレビの電源を入れたところで扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞぉ」


返事をすると鍵を外す音がし、礼子という女性職員が入って来た。


「おはようございます」


礼子は挨拶をしてから、ミラのところに朝食を置いた。


「ここでの暮らしは慣れましたか?」


「少しは」


赤井神社で目を覚まして、一カ月が経った。その後『ヤオヨロズ』という団体に保護された。自由に部屋から出れず、常に監視された状態だが、衣食住は提供されているし、この世界で必要な教育も施してもらった。


その代償として『ヤオヨロズ』は異界の『漂流者』であるミラに、異界について情報を求めてきた。どんな世界で、どんな言葉を使い、どんな国があるのか。午前は、『ヤオヨロズ』の職員達の質問に答え続けた。


彼女はその期待に十分に答えることができなかった。


神社で目を覚ます前の記憶はあまり覚えていないのだ。ぼんやりとは覚えているのだが、思い出そうとしても、霧がかかったように映像がぼやけている。


覚えていることと言えば、己がミラという名であること。もといた場所には日本と同じように人がいて、空と海と大地があったこと。そして、もといた場所では、夜になると『夜の神』と呼ばれる目玉が空に浮かんだことなどだ。しかし、ミラの覚えていることは、『ヤオヨロズ』もすでに把握しているようだった。


「『漂流者』が記憶喪失になることはよくあるんです。でもそれも一時的なもので、きっとすぐに良くなりますよ」


礼子はそう言ってくれるが、ミラは昔の記憶はあまり思い出したく無かった。今日もかつての記憶に関わる、嫌な夢を見た気がした。


「今日の午後は、外に出かけてみましょうか?」


礼子がそう提案してきた。礼子も『ヤオヨロズ』の職員で、主にミラの体調管理を任されていると本人は言っていた。


「それなら運動したいわ。ずっとこの部屋で引きこもっているのは飽きてしまったから」


「あら、ごめんなさい。もう少し外出できるよう、手配しておくわ」


ミラの一日は午前中に異界について質問され、午後は一般教養の授業を受けることで大抵終わってしまう。外に出ることは稀だ。


元来、好奇心旺盛らしいミラも、この世界を直に見てみたいという欲求は強かったため、礼子の気配りに喜んだ。テレビで見たものや、地理や歴史の授業で教えてもらったことが頭の中で広がり、どこにいこうかしらと思考を巡らせた。


「そう言えば、この施設はアタシが発見された場所から近いの?」


「ええ。車という交通手段を使えば30分くらいで行けるわ」


「ふーん」


「もう一度、そこに行きたいの? でも、ごめんなさい。あの神社はちょっと事情があって行けないの」


「いえ、そう言うことじゃなくてね。アタシを助けてくれた人がいるでしょう?」


脳裏に、この世界で目覚めた最初の記憶が蘇る。黒い髪に白い肌、そして青い瞳の少年。何か、心に引っかかるものがあった。


「あぁ、なるほど。彼に会いたいの?」


「うーん。どうかしらねぇ。どちらかと言えば、あまり近づきたくないわねぇ」


「あらら」


礼子はクスクスと笑った。


こうして今日も、穏やかな一日が始まっていく。あまりに静かで平穏。まるで嵐の前の静けさのようだとミラは心のどこかで思っていた。











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