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殺戮王  作者: 如月
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小さな国の暗殺者⑤

吉備津命は改造人間だ。身体の9割以上が機械で造られていた。『ヤオヨロズ』の職員達は彼のことを量産型人型兵器『桃太郎』と呼ぶ。


「吉備津は『ヤオヨロズ』本部に設置されている超高性能コンピューター『橘』からの命令によって動いている。簡単に言ってしまえば、ラジコンみたいなものよ。『橘』がリモコンを操作して、各地に散らばる『桃太郎』というロボットを動かしているの。まぁ、各個体にも多少の感情などはあるって噂されているけれど、詳しいことは知らない」


礼子はミラに、『桃太郎』のことをそう説明した。


「『橘』って言うのは、最後の桃太郎である橘さんの名前からとられていて、『橘』の中に橘さんの脳が入っている。学校のプールみたいな浴槽に、特殊な黄色い薬品と一緒に脳が入っているのよ。すごいでしょう」


二人は喫茶店から出て、雪の積もった大通りを歩いていた。


「私達『ヤオヨロズ』は非科学的な研究を行う組織だけど、その非科学的な現象を調べるためには、科学についても精通していなければならない。そして、研究者達の中には非科学を科学にし、科学を進化させていこうと考える者は多い。橘さんもその一人で、自ら研究材料になることを選んだ。その研究の結晶こそが『桃太郎』なのよ」


誇らしげに、礼子は語っていた。


「太古の昔から桃太郎の能力を受け継ぐことができるのは、一人しかいなかった。でも、この研究で桃太郎に似た能力を持つ者を量産できるようになった」


「桃太郎の能力って何?」


「魔を滅する力。妖怪からすれば最悪の能力よ」


「すごいのね」


「でも、欠点もあるわ。『桃太郎』は所詮ロボットだもの。応用が利かないの。彼らは皆、登録されていない妖魔は見つけ次第、殺すようプログラミングされているわ。その所為で、人間に友好的な妖怪を殺すことも多々ある。それに時折、呪われている人間もね」


礼子が陰りのある表情で言った。


「生前の橘さんにとって、殺すということは、誰かを救う善行だった。穢れた妖怪、そして呪われた人間の魂を救うことができると信じていた。だって桃太郎には魔を滅する能力があるから」


本当はどうだか知らないけど、と礼子は小さく呟いた。


「雪也様がその『桃太郎』と出会ってしまえば、襲われる可能性があるということね」


「その通り」


「『桃太郎』のプログラミングはどうすれば変更できるの?」


「一番手っ取り早いのは、そうねぇ。『桃太郎』は皆、黒いカードをもっているの。『ヤオヨロズ』の職員なら、それを使って変更できる」


その時、着信音がなった。礼子が携帯を取り出し、電話に出た。礼子は神妙な顔で話しを聞いていた。通話が終わり、彼女は溜息混じりに言った。


「今、『桃太郎』らしき人物が屋根に上って一人で暴れ回っているらしいから、現地を確認してほしいって言われた。確か、雪也君はまだ一般人に姿が見えないのよね。もしかしたら、二人が戦っているのかもしれない」


「分かった。アタシは雪也様の護衛に向かう。どこに雪也様はいるの?」


「駅前だけど、ロボットと戦うのなんて無茶よ」


「大丈夫。アタシは『ベリア』という種族で、凄く強いのよ。記憶が戻ったおかげで能力も使えそうだわ」


ミラの両目に赤い光が灯った。それは雪也が能力を使う時に、瞳が青く光る光景に似ていた。


「ちょっと待って。ミラは雪也君と違って、一般人に姿が見えるのでしょ? 人前に姿を見せるのは良くないわ。『桃太郎』ならテレビに映っても、頭部のパーツを変えれば問題無いけど」


「アタシの最優先は雪也様だから、そんなもの気にしてられない」


礼子はやれやれと肩を竦めた。それからリストバンドをポケットから取り出した。


「分かった。それじゃ、これを貸してあげる。これを身に付ければ、一般人からは見えなくなるから」


「ありがとう」


リストバンドを右腕につけると、ミラの影が消え去った。


ミラは大地を蹴った。まるで無重力空間にでもいるように、彼女は天高く飛び上がった。電柱の上に優雅に着地し、ミラは白い街を見渡した。







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