小さな国の暗殺者③
斎藤美樹。高校一年生、15歳。趣味、万引きと掏り。
家が貧乏だったわけじゃない。ただ美樹には盗みの才能があった。幼い頃から人やカメラの視線を肌で感じられ、誰にも気付かれること無く盗むことができた。そして他者からこっそり盗む技術は行う度に上手になっていった。誰しも何かが上達していくのは楽しいことだ。美樹もその例に漏れず、日々技術を研鑽させ、今や達人の域に達していた。
「君、何か悪いものに憑かれているよ」
雪の中、歩いていると唐突に声をかけられた。そこには大男が立っていた。大男は長髪で、赤い革ジャンを羽織っていた。美樹は素通りしようとしたが、大男はしつこく美樹につきまとい、「悪いものに憑かれている。心当たりはない?」と何度も質問してきた。恐怖を感じた。
美樹は己の技術を駆使して、目の前の大男の財布を取った。ポケットから大きな財布がはみ出ていたため簡単に抜き取ることができた。中身だけ抜き取り、そして誰にも見られていないことを肌で感じながら、財布を背後へと投げ捨てた。
「あっ」とわざとらしく声を出し、後ろを向いた。大男も美樹につられ、顔を動かし、己の財布が遠くに落ちていることに気付いたようだった。大男が歩き出した瞬間、美樹は脱兎のごとく逃げ出した。
細い路地に入り、入り組んだ道を抜け、大男が追いかけてこないことを確認し、ほっと息を吐いた。
財布から抜き取った中身を確認する。彼女の手には、一万円札が2枚と見たことの無い黒いカードがあった。不意に、背後から視線を感じた。美樹の後に先ほどの大男が立っていた。
「可哀そうに。君は呪われている。助けてあげないと」そう言って大男は美樹の首へ手を伸ばし、ギリギリと締めた。
「君は悪い妖怪の呪いによって悪事を犯している。その呪いを、この『桃太郎』が解いてあげよう」
(何を言っているのよ。コイツ)
身体から力が抜け、持っていた鞄が落ちた。鞄の中から赤い刀身のナイフが出て、地面に転がっていった。
美樹は薄れゆく意識の中、ぼんやりとナイフを見つめた。誰かがナイフを拾った。それは黒髪の少年で目が青く光っていた。見知った人物だった。
(氷室君がここにいるわけないじゃん。これはもしかして、夢なのかしらねぇ)
心の中で苦笑した。そこで美樹の意識は途絶えた。




