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殺戮王  作者: 如月
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幕間 雪女の氷歌

私は雪女。氷雪系の妖怪の中では、ナンバー2の実力を持つ偉い妖怪だ。皆から氷歌と呼ばれている。


雪女というのは男に酷い仕打ちを受けた女の憎悪など、怨恨や呪詛が集まり生まれる。そんな生立ちのため、雪女は世の男全てを殺したいほど憎んでいると思われている。しかしながら、そのイメージは少し違う。私達雪女は確かに、しばしば男を殺してしまう。というよりも、けっこうな頻度で雪女による殺人事件は行われているのだが、男なら誰でも良いわけではない。愛しい男しか雪女は殺さないのだ。雪女による殺人は、それはそれは尊い愛情の証なのだ。


実を言うと私にも殺したいほど思っている男がいる。そしてその男と一緒に暮らしている。


今日も私はそっと引き戸を開き、わずかな隙間から男を見つめる。深夜のため部屋は真っ暗だが、雪女の私の瞳には思わず絞め殺してしまいたくなるほど可愛い寝顔がしっかりと見えた。その男はまだ15歳の少年で、名を氷室雪也と言う。


私はつい最近、雪也の部屋の押し入れに引っ越してきた。ちなみに雪也は私が彼の押し入れで暮らしていることを知らない。別に、不法侵入をしているわけではない。そしてストーカーでもない。私は雪也の祖母である雪女から、孫が最近妖怪達から狙われているようなので護衛してほしいと頼まれたのだ。


現に妖怪達が雪也を狙ってこの部屋にやってくることがある。外を歩く雪也の後をこっそりつける奴もいる。そいつらを私がやっつけているのだ。


本当なら、雪也の護衛として一日中べったり彼の横にいたい。だけど、雪也は私の告白を受けてから、私に襲いかかって来るようになった。私への愛情が抑えきれないのだろう。


雪也と私は歳が近いこともあり、彼が雪の妖怪が集まる里に来た時はよく遊んだ。雪也を好きになった私はある日、愛情という名の殺意を抑えることができず、気付いたら彼の首を絞めて失神させてしまった。それ以降、雪也は私の姿を見ただけで攻撃するようになった。ある時は、近くの刃物を手にして殺そうとして来ることもあった。雪女は愛故に男に殺意を覚える傾向があることを考慮すれば、雪男の雪也はその逆なのだ。つまり私が好きすぎて私を殺害しようとするのだろう。とはいえ、護衛対象が私を見るたびに殺しに来られては仕事ができない。そのため私は雪也に気付かれないよう隠れて、彼の一番近くで護るようにしている。


本当に幸せな時間だ。後は、あの女さえいなければ完璧だ。ミラという『漂流者』だ。彼女は依然、雪也の母である雪姫が使っていた寝室で寝泊まりしていた。やはり好きな男が別の女と一緒に暮らしているのは腹立たしい。例えそれが雪姫の分身の女でもだ。隙があれば殺してしまいたいと思うが、この女は私の存在に気付いているようだった。殺気の籠った目で彼女を見ていると、視線が合うのだ。なかなか侮れない女である。でもまぁ、ミラを殺すのはしばらく後だ。私はまだ人を殺したことが無い。初めては雪也と決めているのだ。


そして雪也を殺すのは、彼と愛し合った後だ。しっかり互いに愛を確かめ合い、男と女が行うことを全て全うし、男を殺すのが雪女の流儀だ。だけど今の雪也は愛情を抑えきれず、すぐに私を亡き者にしようとする。殺し合うのも、ものすごく素敵なのだが、女の私としてはあんなことやこんなこと、恋人のようなことがしたいのだ。正直なところ、雪也が寝ている間に、キスとかは勝手にしちゃったけど、今では反省している。やはりこういうのは男からしてもらいたい。そういうことをお互いがするためには、彼がもう少し大人になるのを待つ必要がある。


早く、立派な男になってほしいものだ。


雪也はどうにも微妙な立場にあるらしい。時折、雪也とミラは『殺戮王』という言葉を口にした。『殺戮王』の話しは聞いたことがあった。遠い異界の王様で、この世界を消そうと企んでいるらしい。そして『殺戮王』と雪也に繋がりがあるという話しも聞いた。そう言うわけで雪也はたくさんの妖怪達から狙われている。でも『殺戮王』の噂を信じているのは所詮力の弱い妖怪達で、雪也を襲ってくる輩も大したことの無い者達ばかりだ。力の強い私は信じていない。むしろ『殺戮王』のおかげで私と雪也はラブラブな二人暮らしをしているのだから、『殺戮王』に感謝したいくらいだ。


昨日も今日も明日も明後日も、私はこっそりと、じぃっと雪也を見つめている。私はすやすやと眠る雪也を見ながら、彼が嬉しそうな表情をして私に殺される姿を夢想するのだ。

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