禁忌の子
祖母の雪代から着信があったのはマンションに入ってすぐだった。
「雪、アンタに話しておくことがあるのよ」
開口一番、真面目な声が聞えた。
雪也は平静を装いつつ、「何?」と話しを促した。
「雪の母親の雪姫はね。実を言うと妖怪じゃないのよ」
「え?」
「雪姫はアタシと人間の子との間に生まれた禁忌の子なの。あの子は人間ではなく妖怪だって己に言い聞かせていたみたいだけどね。まぁあの子は人間が嫌いだから」
祖母から唐突に話された事実に対して、雪也の頭の中で疑問が生まれた。人間が嫌いなのに何故、人間の世で生きてきたのか。嫌いな人間の男と結婚したのか。
「雪姫は息子である雪のことを愛していたけど、憎んでいたし、妬んでいたし、そして何よりアンタを怖れていた」
「僕を怖れていた?」
「そうだよ。雪には、雪姫がどれほど手を伸ばしても届かなかった力を持っているからね」
「何を言って」
「自分の娘のことだからこんなことは言いたくないけど、あの子は傲慢で、嫉妬深くて、人嫌いで、尻軽で、人として最低な娘だった。自分と自分の息子が幸せなら他の奴がどうなろうと知ったこっちゃないって感じの娘だった。あぁごめんね。愚痴になってしまった。そうだ。今はそれどころじゃない。アンタ今、『漂流者』の娘と一緒にいるんだろ? あの娘には気をつけな」
ギクリとした。何故、祖母がミラと一緒にいることを知っているのか。もしかしたら監視されているのか。
「ミラに気をつけろってどういうこと?」
雪也の質問に、祖母が答えることは無かった。祖母の声のかわりに、通話が終了したことを告げる音がなったが、その音は別の音にかき消されて雪也には聞えなかった。上の階から爆音が聞こえたからだ。