プロローグ
二人の姉妹がボロボロの小屋の中で毛布にくるまっていた。眠そうな妹に、姉がそっと話しかける。
「この国では、不必要な物は『底の無い谷』に捨ててしまうの」
姉は国の西にある、その谷について話し始めた。
「谷には底がないから、いくら捨てても大丈夫って皆が思っている。ゴミも、罪人も、使われなくなった兵器もどんどんどん捨てていく。でもね実の所、谷は別の場所に繋がっているらしいわ」
「別の場所?」
「そう、別の場所。人によっては、異世界に繋がっているなんて想像しているけれど私は違うと思う」
「『底の無い谷』には底があるってこと?」
「違う、違うの。『繋がっている』という表現が微妙に違うの。上手く言えないけど、『底の無い谷』に落ちればきっと目を覚ましてしまうのよ」
「目を覚ます?」
「そう。この世界の出来ごとは全部、悪い夢なの。私達が悪魔の子孫として忌み嫌われているのも、『殺戮王』が存在するこの世界も全部が全部悪い夢。あの底に行けばきっと悪い夢から目覚めることができると思うの」
「それなら早く、目を覚まさないと。どうしてお姉ちゃんはいつまでも悪夢の中にいるの?」
「分からないわ。どうしても私はあの谷には近づけない。まるで魔法にかかっているみたいに、谷に足を向けようという気持ちがわかない。多分、あの谷には意思があって、目覚めて良い人や物を選んでいると思うの」
「ふーん」
しばらくして妹は眠りにつき、姉はいつまでも一人、『底の無い谷』について彼女の見解を話していた。