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第三話 勇者誕生

残念系美女はとてもいいですね、慰めたくなります。

 竜の異世界召喚と時を同じくして、人間領ルーンフィールの王都の更に中心にどっしりと建つ王城には数多くのクラスメートが召喚された。


 西日が強くことに当たる、豪華なシャンデリアが目立つ広い室内に描かれた魔法陣に姿を現したクラスメート達。突然のことで誰しもがお互いの顔を見合うなり、手を取るなりしている。まるで孤独ではない事を確かめるようだった。

 幾ら見知った人が大勢いても、何が起こったか分からない状況である。


「ここ、どこだよ……」ポツリと漏れた呟きに混乱と動揺の波が蔓延し、ザワザワと騒がしくなる。


「落ち着いて下さい!」


 騒然とする中、凛とした声が動揺を引き裂いた。振り向いたその先には、ふんわりと巻いた桃色の髪に純白のドレスを纏う彼らと同い年くらいの少女が居た。静まり返るクラスメートの心情には、声の主の幼さが残る美貌に心を奪われたのも多分にあるだろう。男女関係なく、だ。


 黙る彼らを見て、自分に威厳があった! と密かに安心した少女は微笑んだ後、続ける。少女の笑顔にハートをズッキュンされた生徒が多数いたのだが、また別の話。


「突然の召喚で動揺されている方もいると思います。その点は本当に申し訳ありません」

「……なんで、俺たちをここに? そしてここはどこなんだ? それを聞く権利ぐらいはあると思うんだけど」


 頭を下げる少女に質問をしたのは宮地 悠星(みやじ ゆうせい)。クラスの中心人物であり、無二のカリスマ性を持つクラスメートからの信頼の厚い男だ。混乱の中、やるべきことをいち早く気づいた悠星の言葉にクラスメートの皆も尊敬の眼差しを向け、静聴する。


「それはあなた方が勇者とその仲間の素質があるからです。勝手な言い分だとは思いますが、話だけでも聞いては頂けないでしょうか?」

「……どうします? 先生」


 自分一人で判断するのは重すぎると感じた悠星は生徒と共に召喚の被害に遭った先生、川島 充(かわしま みつる)に決断を仰ぐ。


「うん、そうだね。聞くだけならいいんじゃないかな」


 川島は柔らかな物腰で少女の話を聞く事を決断した。周囲から安堵の息が漏れる。


「なら、その話は私がさせてもらおう」


 白髭を真っ直ぐに伸ばし、頭には金色に輝く冠を乗せたいかにも国王のような人物が、少女の更に奥の玉座から重厚な声を発した。


「お父様!」

「こら、正式な場では"ジュールック国王"と呼びなさい」

「も、申し訳ありません。ジュールック国王……」

「よし、良い子だ」


 その光景は暖かな笑みを浮かべる父親とそれを慕う娘そのものだ。国王の第一声で雰囲気がピリついた室内だったが、唐突に始まった仲のいい親子の会話にクラスメート一同唖然とした様子で、一部には口をポカンと開けている者もいる。


 ほっかほかな空気に包まれていた二人だが、家臣の咳払いで我を取り戻し、二人とも恥ずかしげに顔を俯かせた。


 同じ動きをするあたり、親子なんだなぁ、と周囲の家臣たちの胸がホクホクしているはさておき、召喚されてからだいたい空気なクラスメート達は胸に暖かなものを抱きながらも頬を引きつらせていた。


「我ながら恥ずかしいところを……。娘が可愛いのがいけないんじゃからな!」

「お父……ジュールック国王ったら、恥ずかしい……」


 一瞬、意識が彼らに向いたと思った時にはまた二人でどこかへ飛んで行ってしまう親子に、いい加減にしろと徐々に目が鋭くなってゆくクラスメート。必死に川島が宥めるがあまり効果はないようである。


「ウチの王女と国王(ダメ人間達)がすいません……。引き継いで私が話をさせていただきます」


 おずおずと手を挙げて前へ出てきた銀髪のベリーショートの少女は次いで名を『ルカフィーン・ノークス』と名乗った。彼女は緑の裾の広いドレスを着ている。ふんわりした桃色の髪の少女とはまた違った、キリッとした美貌を持っている……のだが、ルカフィーンの浮かべる困り顔には諦念が混じっており、深い目の隈も相まって彼女の気苦労を初見のクラスメートですら察した。


 一部の人間に同情の眼差しを向けられている事に気づいたルカフィーンは、ダメ親子を見て少し悲しげにため息をついた。


「召喚させていただいた理由は勇者の素質が云々とあのファザコンやろ……ミア様が言いましたが、事の原因は今から数十年前にあるんですよね」


 クラスメートが自分の話を聞いている事を確認したルカフィーンは真剣な表情で語り出した。


「当時も、ジュールック様が国王の座についていました……」


 長いので掻い摘んで説明すると、魔族が王都(この街)に突然攻め込み、王城の重鎮が数人殺られたらしい。魔族を率いた魔王に逆襲するため、そこから数十年、勇者を召喚する魔法を探求、研究し、近年遂に完成し、この前に召喚の儀式を行ったらしい。


「……許せないな、その魔王とやら」


 目に激しく燃える炎を灯して悠星が決然として呟く。他の皆も、悠星までとはいかずとも、魔族に嫌悪感を抱いているようで、話を疑う者は誰もいなかった。


「だからっ、どうか頼みます……。私たちに力を貸しーー」

「「「「「もちろん」」」」」


 土下座も覚悟の思いで頭を下げたルカフィーン。どうしても手放せない勇者たちに懇願すら生ぬるいほどの思いで頼み込む彼女に、クラスメートは最後まで聞く事なく、その頼みを受け入れた。ただ、その中には表情の浮かばれない生徒も居たが。


「っ、ありがとうございます!」

「いや、俺たちはしたい事をしたまでだ」


 チラリと川島を見て、悠星は微笑む。彼らが迷う事なく協力を快諾したのは、川島の指導が大きな原因だ。放課後グラウンドの草引きをしたり、ご老人の荷物を持ったり、困っている人に声を掛けたりと、自らが手本となり、親切にしている。ただ、それを自慢する事がないため、たまたま目撃した生徒から噂が広まり、今となっては多大な信頼を置かれる人物である。


 その彼の矜持が、『優しさこそが強さ』であり、それが生徒たちに受け継がれているのだろう。一部、極一部の人間は二人の美少女に惚れたから、という不純な動機だったが。


「では、まずは魔法の適性や唯一の魔法(オンリーワン)無二の能力(アフォース)を調べますので、こちらへ」


 ようやく二人の世界から帰還したのか、桃髪改めミア・ルーンフィールが先導する形で、悠星達は初耳の言葉に"?"を頭に浮かべながらも付いて行った。


「……これで、遂に魔族領が」


 機嫌良さげに目を細めた彼の呟きは誰の耳にも止らなかった。

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