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第二話 魔王様?

改善点や誤字脱字がありましたら教えていただけると幸いです。

 魔王城。


 魔族領の中心地に聳え立つ漆黒の城は内外に渡り難攻不落と言われている。内には魔王に忠誠を誓う、魔族屈指の強者達が集い警備を固め、外には落とし穴から即死のレーザーまで、数多のトラップが設置され、さらに城そのものを構築する素材に『|漆強石「しっこうせき》』という強度、硬度がトップクラスの石を惜しみなく使っている。名前の通り漆黒で、不気味なオーラを纏っている。


 そんなところに竜は居た。決して自分の意思で来たわけではない。目が覚めたら冷たい石畳に寝かされていたのだ。

 数分前まではここがどこがすら把握していなかったが、見張りが付いている事と、彼らに牙や角が生えている事からもしかしたらもしかすると魔王城かも? などと焦っていた。

 ただ、傷が大方治っている件については謎めいていたが。


「おい人間。ルビリア様がお呼びだ」

「誰だよ」


 当たり強めににツッコミを入れると見張り二人は顔を見合わせて肩を落とす。


「……いいから来い」


 何を言っても無駄そうだったため促されるままに薄暗く長い通路を歩いて行った。

 途中、振り返ると竜が居た部屋は留置室と書かれていた。


 何回か階段を登って効率などアウトオブ眼中な無駄に長く、代わり映えしない廊下を歩き続けると、七色の宝石が惜しみなく散りばめられた縦三メートル、横二メートルほどの豪奢な扉があった。

 ここがルビリアがいる場所だと察した竜に緊張が募る。


 門番とアイコンタクトが交わされ扉が開け放たれる。


「ルビリア様! 例の人間を連れて参りまし

た!」

「うむ、連れて来い」


扉の先は一層豪華な作りだ。左右対称にガラスのテーブルが並べられ、それを囲うように同じくガラスの椅子が数多く整列してい

る。一見冷たく寂寞としているように感じるがのだが、天井の優しい焔が大理石の床と共に暖かく照らす。賑やかな場所に思えるが、正面の玉座と扉を繋ぐレッドカーペットがその場の荘厳さを主張している。


 見張りに応対したのはさくらんぼのような赤い髪を腰まで垂らし、黒地のTシャツと赤いスカートを履いた、幼さ全開の少女だった。Tシャツには『人間ぶっ殺』と活字でプリントされている。


 幼さがアクセントとなり引き立てる美貌に混濁する例えようのないカオスが混乱となって思考を侵食していく。竜は、異世界だからしょうがない、と適当に落とし所を付けて放置したのだった。


見張りに王座の前まで催促され、竜は無心で前進する。それがえらく不遜な態度に見えたのか、何か遺恨があるのか、はたまた両方か、周りの魔人達は害意と悵恨の視線を竜に向けている。


 居心地が良いとはいえない環境の竜であ

る。アウェー感をひしひしと感じながらもルビリアが座る王座の前で膝まずかされる。竜が眼下まで来た事を確認すると、ルビリアは組んでいた脚を優雅に降ろした。


「聞いていると思うが、私がルビリア、魔族領の現魔王だ」


 ドヤァ、と自慢げな表情で竜を見るルビリア。立場的違いも重なり、どう対応するべきか迷った竜は「はあ」と気のない返事だ。それにルビリアは気を悪くしたのか、むすっとふくれっ面になり、プイと顔を逸らした。そんな可愛い態度に周りの魔人達はほんわかと微笑む。竜の隣の見張りに至っては「はわぁ……踏まれたい」などと呟く始末だ。その見張りは望み通り? ルビリアにドロップキックをかまされたが。


 見張りのセクハラ発言が恥ずかしかったのか、こほんと咳払いをしたルビリアの頬は少しだけ朱に染まっている。

 やはりそれを見る周囲の目は生暖かい。

 先ほど感じた重圧はどこへ行ったのか、この部屋全体がほんわかと柔らかい雰囲気に包まれている。魔王の威厳とはなんだったのか、 甚だ疑問である。


「え、えー、察していると思うがここは魔王城だ。魔族の技術を集結して造られた難攻不落の巨城だ」

「は、はぁ」

「……」


 竜の曖昧な返事が気に食わなかったのか、つり目がちの目で竜を睨む。その様子はさながら容姿相応の子供だ。

 なんで子供が魔王なんだろう、と謎がどんどん深まる竜はさておき、ルビリアは真剣な面持ちになる。


「……お前ら、少し席を外してくれない

か?」

「で、ですが其奴は人間! 我らの敵です

ぞ!?」


 ルビリアの発言が狂気的なものなのか、家臣の一人が説得しようと身を乗り出す。しかし、ルビリアの眼光が家臣を射抜くと何も言えなくなる。

 すると、細身の老人が穏やかな声色で問いかける。


「ルビリア様、本当に良いのですか?」


 彼女が何を企んでいるか悟った物言いは、流石の経験だとルビリアは感嘆唇を歪める。老人は「そうですか。くれぐれも油断なさらないよう」と引き下がった。彼が一番の長寿なのか、それとも強固な人望があるのかは分からないが、それを機にバラバラと全員がこの部屋を後にした。


 扉が閉じられ、竜以外の誰にも見られなくなると、ルビリアは首や肩を回しながら王座から降り、地べたに座った。

 ババアか、と内心全力でつっこんだ竜だった。


「いや、流石に二百も歳をとればこうなるさ。さて、誰もいなくなったことだし、色々質問もあるだろう?今なら答えれる範囲でならなんでも何回でも聞いてやるぞ、これぞ出血大サービス」


まずなんでその言葉知ってんだよ、と質問したい竜だが冷静に考えればどうでもいい事なので堪える。最優先に聞くは今後の竜の扱いだ。最悪処刑というのもありえるので真っ先に聞いておく事にした。歳は聞き間違えだろう。


「俺はどうなるんだ?」

「魔王相手にいきなりタメ口か。なかなか肝が座っているなぁ。まぁいい。お前の今後の扱いだが、別にとって食おうってつもりはないぞ。……変な事をしなければ、だが」


 自分の発言に保険をかけるルビリア。暗に「いつでも殺せる」と脅された竜は迂闊な質問は避けねば、と考えざるを得ない。


「変な事ってなんだよ」

「ほとんどの魔族は人間という種族(・・)が大嫌いだから、下手に城内を彷徨いて私の知らないところでコロッと逝っちゃうかもな。ま、要するに、充てがわれた部屋から出るなってことだ。……ふむ、この機会だ。なぜ私たち魔族が人間を嫌悪し、敵対しているかを話してやろう」


 ルビリアは竜がこの世界の事情を知らない体で話を進める。しかし竜は納得がいかない目で彼女を睨むが、口は開かなかった。

 その態度に満足気な表情のルビリアは怪しい笑みを浮かべる。


(本当にそうだったか。あの吸血種もたまには面白いものを持ってくる)


 そう、竜がここにいるのは吸血種ーーレレニーゼが治療し運んできたからで、竜が異世界からの召喚者である事も示唆していた。その情報から吹っかけてみたら、案の定竜はそれを認めるような反応を示したわけだ。ルビリアとしては満足するほかないだろう。そんなことは知らない竜は、なぜルビリアは自分がこの世界の諸事情を知らない体で話しているのかが納得がいかなかったのである。


 それはさておきと、ルビリアは話し出す。


「昔、といっても現国王の時代だが、当時は人間と魔族、そして獣人族は敵対していなかった。唯一最大の難敵は『厄災』と呼ばれる幻獣のようなものでな、わりかしこの世界、スメラギ大陸は平和だったんだ。だが、ある日、魔族領の空に巨大な魔法陣が現れた。紅に輝くそれは不穏な雰囲気を纏っていて、当時の魔人はそれを殆ど見たらしい。すると、一層輝きを増したと思えばそこからは地獄だった。紅蓮の焔が街を焼き尽くし、森を灰にし、焼け野原になった。それで、魔人の三分の二が死んだ。たまたま生き残った魔人は人間全員に対し恨みを持ち、誰の思惑がを知る極一部はそいつらに復讐すべく人間領、通称ルーンフィールの王城に住む国王ジュールック・ルーンフィールを夜襲した。結果、夜襲した魔人の大半は死に、生き残った魔人は憎しみを胸に抱いてどこかに消えた。まぁ、私はこうやって魔王になっているがな」

「……」

 

 淡々と語るルビリアだが、彼女もその被害者だ。

 当時、次魔王の有力候補だったルビリアは偶然、人間領付近の山で山菜を採っていた。それが幸か不幸か、人間の大魔法の被害に遭わずに済んだのだ。家も家族も街規模で欠片一つ残さず消し飛んだが。生き残った事に罪悪感を、彼女が愛したものを全て奪った人間に煮え滾る憎悪を覚えた。魔王の有力候補とあれば慕う者も多かった。ルビリアは彼らを引き連れ、魔族領中を駆け回り集めた情報を頼りに国王に夜襲を決行した。

 結果は敢え無く惨敗。ルビリアは地位も名誉も信頼も失い、紆余曲折あって今に至る。


 彼女が夜襲をした事に薄々感づいている竜は、平和ボケした自分には想像もつかない喪失による絶望を体験したルビリアに軽率なことは言えずに目を伏せた。


 そんな時、ルビリアはパンッ!と手を叩いて沈鬱な空気を断ち切った。


「ま、これは今からするお願いのために必要な知識だ。気にすることはない」


 竜としてはかなり心が痛んだできごとを軽く「知識程度」と言い放たれ、同情した気持ちを返せと叫びたくなるのを堪え、「あー……」と苦笑いで返す。心情を察したのか、ウインクをし「ごめん」と呟いたルビリアは見た目相応の幼い可愛さがあり、竜の頬が少し紅くなる。


「それじゃあ、心して聞いてくれ」

「ああ」


 囚われの身……捕虜のようなものである竜にその「お願い」を強制しないのは、彼女が真っ直ぐな心を持つからだろう。竜も真摯な態度で静聴する。

 ルビリアは先ほどのあどけない可愛さとは一転し、摯実という言葉が似合う面持ちで告げる。


「人間を、国を牛耳る悪しき国王を倒してくれないか?」

  「っ!?」


 竜自身、お願いの内容を考えてはいた。このパターンも候補にはあったが、いざ頼まれると逡巡してしまう。もし引き受けたとしても人間という種族に強い恨みを持つ魔族に命を狙われる可能性があり、自分にそこまでの能力がないかもしれない。それ以前に、人間の自分が人間の敵であって良いのか。すぐには決められない大きな悩みが頭の中に渦巻き、遂には深く考え込んでしまう。


 ルビリアは協力してくれるか迷ってくれた事が嬉しくて、優しげに微笑んだ。


「……明日、教えてくれるか?」

「……分かった」


 色々な思いに悩まされながら、竜は部屋を後にした。



次は人間領に飛ばされた方に行きます。

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